
今回紹介する映画は、『ナイトライド 時間は嗤う』。
麻薬の売人から足を洗うべく最後の取引に赴く一人の男が、その途中で思わぬトラブルに。
最悪の事態を乗り越えるべく奔走する姿を描いた物語です。
本作は94分の本編を全くカットしないワンショット構成。
そしてそのトリッキーな手法に負けない緊張感あふれる空気感が魅力のサスペンス作品です。
映画『ナイトライド 時間は嗤う』:作品情報
北アイルランドの街で最後の取引に挑むドラッグディーラーの男がその途中に思わぬトラブルに出くわし、事態を打開すべく奔走する姿を、男の視点のみで描いたサスペンス。
作品を手掛けたのは、2015年公開の映画『The Survivalist』(日本未公開)で長編デビューを果たしたアイルランド出身のスティーブン・フィングルトン監督。
そして主役のドラッグディーラー、バッジ役を『悪魔のいけにえ レザーフェイス・リターンズ』『ダーケスト・ウォーター』などのモー・ダンフォードが務めました。
スティーブン・フィングルトン監督:The Survivalist

映画タイトル | ナイトライド 時間は嗤う |
原題 | Nightride |
監督 | スティーブン・フィングルトン |
出演 | モー・ダンフォード、ジョアナ・リベイロ、ジェラルド・ジョーダン、キアラン・フリン、スティーブン・レイほか |
公開日 | 2022年11月18日(金) |
公式サイト | http://mid-ship.co.jp/nightride/ |
■2021 /イギリス/カラー/97分
映画『ナイトライド 時間は嗤う』:あらすじ

北アイルランド・ベルファストの街でドラッグディーラーとして裏社会を生きていたバッジ(モー・ダンフォード)。
彼は恋人ソフィア(ジョアナ・リベイロ)との未来のため、裏社会から足を洗い自身の店を持ち、堅気の生活を目指すことを決断します。
ソフィアにそのことを告げた後に最後の取引への準備のため、彼は闇金融業者として悪名高いジョー(スティーブン・レイ)より10万ポンドの取引用資金を借り、事前に根回ししていたウクライナ人の密売人との取引を進めていきます。
ところがその途中、麻薬を積んだ車を運転していたバッジの子分の失策により、車を何者かに奪われてしまうことに。
なんとかその場を取り繕ろうとするバッジでしたが、その失策を買い手にも悟られ取引を断られてしまいます。
失った車の捜索と新たな買い手を見つけ出そうと奔走するバッジ。
そんな彼に貸した金を何度も催促するジョーは、自身の子分までよこして脅しを掛けます。
刻一刻と変化する状況に、バッジの焦りは募るばかりでした……。
「オーソドックスな題材」、と思わせないインパクト

裏社会での仕事上のトラブル、そしてその壁を乗り越えるべく奔走する悪人たち。
汚れた世界に生きる人々の姿を描く題材としてはかなりオーソドックスなケースといえ、見るものの興味を引くためには新しい要素を加えていくことが不可欠です。
似たような例としては1998年のドイツ映画『ラン・ローラ・ラン』が挙げられるでしょう。
これは主人公ローラ(フランカ・ポテンテ)が、麻薬取引の仕事を終えた後に得たお金を落としてしまい、ボスに殺されるという危機に陥った恋人を救うべく、短時間で莫大な金を用意すべく奔走する姿を描いたもの。
この作品では、恋人からの電話を機にローラが3種類の経緯と辿って奔走する姿を並べて描くという特殊な構成を取っており、単なるハラハラドキドキでは終わらない、何か見るものを引き付け、様々な指針を想起させるようなギミックが感じられるものとなっています。
このような方向は、本作でも非常に強いアピールが感じられます。
本作は全体をワンカットで構成、そしてとにかく主人公がアクシデントの現場から離れて存在し現場とずっと電話で話している姿だけでほぼすべて物語が進んでいきます。
そんな奇抜な映像手法でしっかりと「裏社会における失敗」による緊迫したハラハラドキドキ感がしっかりと演出できている点には脱帽というほかないでしょう。
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物語の緊迫した空気感、「一人の人間の表情」だけで表現

さらに注目すべきは、主役を務めたモー・ダンフォードの見事な仕事ぶりにあります。
本作でダンフォードが演じた主人公バッジは、麻薬取引で金を稼ぐとある集団のリーダー。
どこかで仕事があろうものなら、電話で自身の子分に指示し対処を行うようにうながします。
そんなわけで本作の構成はでも、トラブルで真っ青になっている部下たちを電話で指示するというバッジの表情が大半を占めています。
彼はこの危機から脱出できるのか?一刻を争う緊迫した雰囲気、そして時に登場する大きなどんでん返しの連続。
本作でそのスリルを醸すのは、まさにバッジの表情変化によるものだけであり、ダンフォード自身の表現の豊かさ、そして物語の構築方法、演出技術の高さをうかがえるところでもあります。
●モー・ダンフォード(Moe Dunford)
誕生日: 1987年12月11日生まれ
星座:いて座
出身:アイルランド
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トリッキーな手法で描くサスペンス、大きな意義

見始めから数十分、いつまでも変わらない画面構成は見るものに戸惑いを感じさせながらも、最後には大きなカタルシスを感じる不思議な感覚を覚えさせることでしょう。
このようなポイントはまさに新しい映画のあり方を提唱しているようでもあります。
かつて『ブレアウィッチ・プロジェクト』『パラノーマル・アクティビティ』といったホラー作品ではそれまでにない、どこかの盲点を突いたような斬新なアイデアが多くの関心を集めました。
本作も長編作品の中でトリッキーな撮影と大胆なトライが垣間見える作品ではありますが、インパクトを重視するホラーではない他ジャンルの作品によってこのようなアピールポイントがあるという点で、本作は大きな意義を示したといえるでしょう。
《ライター:黒野でみを》 クリックで担当記事一覧へ→
40歳で会社員からライターに転身、50歳で東京より実家の広島に戻ってきた、マルチジャンルに挑戦し続ける「戦う」執筆家。「数字」「ランク付け」といった形式評価より、さまざまな角度から「よさ」「面白さ」を見つめ、追究したいと思います。
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