映画『ザ・タワー』考察レビュー、フランス発のサスペンス・ホラーが描いた「争いの原理」とは?

ザ・タワー
(C)2022 - Unite - Les films du Worso

今回紹介する作品は、フランスの集合住宅を舞台に、奇妙な出来事によって閉じ込められた住民たちが運命に翻弄されていく姿を描いたスリラー映画『ザ・タワー』

世界から隔絶された、とある集合住宅で起きるサバイバル。

陰鬱な建物の中でディストピアに向け展開していく物語は、絶望の中にどこか教訓めいた方向も感じられるものであります。

映画『ザ・タワー』:作品情報

ザ・タワー
(C)2022 – Unite – Les films du Worso

フランスの街中に存在するアパート周辺に、突如として現れた謎の闇により建物内の住人が取り残され、追い詰められることで狂気に陥っていく姿を描いたサスペンス。

監督は『ストーン・カウンシル』『この世の果て、数多の終焉』などを手掛けたフランスのギョーム・ニクルー監督。

映画タイトルザ・タワー
原題La tour
監督ギョーム・ニクルー
出演アンジェレ・マック、ハティック、アーメド・アブデル・ラウィほか
公開日2024年4月12日(金)
公式サイトhttps://klockworx.com/movies/17897/ 【YouTube:予告編】

■2022年 /フランス映画/カラー/PG12/89分

極限状態の中、失っていく正気:あらすじ

ザ・タワー
(C)2022 – Unite – Les films du Worso

アフリカ系、ラテン系、白人と複数の人種の住人からなる、とあるフランスの集合住宅。

ある朝、住人の一人であるアシタンが目を覚まし窓を開けると、窓の外が闇で覆われていました。

ほかの部屋も、集合住宅の出入り口も同じように。その闇に物を投じると消滅、体が触れると闇に入った部分がまるで鋭利な刃物で切り取られたように消えてしまい、住人たちはパニックに陥ります。

テレビやラジオ、携帯電話の電波も途絶えてしまい、外の世界から遮断され建物の中に閉じ込められて困惑する住民たち。

やがて彼らは集合住宅の中で生き残りをはかるべくそれぞれの小さなグループを構成していきます。

建物外の闇は数年にもわたって彼らをむしばみ、極限状況に置かれた人々はサバイバルの中で、徐々に争いを起こし始め、正気を失っていきます……。

闇に隠れた、「怪現象よりも恐ろしい要素」

ザ・タワー
(C)2022 – Unite – Les films du Worso

ある日突然、自分の住んでいるアパートが闇に包まれ、出られなくなる……。

集合住宅を覆ってしまった黒い闇。

その闇は何年も続き、住民を外の世界から完全に隔絶してしまいます。

そして住民たちの生き残りを賭けたさまざまな試み、動きが進行していくわけです。

本作はまさに衝撃的な、ホラーのような展開で幕を開けます。

しかし物語が示しているものはむしろ社会的な問題、課題に向けた辛辣なメッセージを描いているように見えてきます。

ザ・タワー
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注意すべきは、生き残った人物が「隔絶された場所にいること」「多様な人種であり、さまざまな境遇を背負って生活していること」という点にあります。

住民たちは外界より隔絶された空間の中で、生き残るべくまずは自身の仲間を探し始めます。

その「仲間」の基準は、普段の近所づきあいからやがて「人種」といった見方まで現れ、隔絶された空間の中でまるで社会構造の縮図のような関係を作り上げていきます。

そして始まる、グループ同士の争い。

物語に流れる闇のような不穏な空気感とともに、外の世界から隔絶されると人間はこのようになっていくものなのだ、などと改めて考えさせられるものでもあります。

この物語の怖さは「集合住宅を覆った暗い闇」自体よりも、「隔絶された空間での生活を強いられること」にあると気づいていくことでしょう。

フランスという国から発せられた意味

ザ・タワー
(C)2022 – Unite – Les films du Worso

この物語で社会的なメッセージ性を強める要素として、フランス発の物語であることもポイントとして考えることができるでしょう。

世界的に見ると先進国として存在しながら移民も多く存在し、どちらかというと外界との間口が広いとも見えるフランス。

人種のるつぼともいえるこの国で「隔絶された場所」を描くというのは、それ自体に深い意味があると見ることもできます。

広い間口をもつこの国においても、何かのきっかけで隔絶され自由が制限されることで周囲の人間に対する偏見が生まれ、争い自体も自然に発生し増えていくことになるわけです。

外との交流が立たれた空間で生き残るためには争うことが前提となり、争いが起きる。

ある意味世界的に発生している紛争などは、意外にこのような要因が重なることで行われていると想起させられるかもしれません。

フランスからこの作品が発表されたことは、一つの大きな意味も感じられるものであります。

■フランスの『人種』を通して描かれた物語『GAGARINE ガガーリン』

とある集合住宅の撤去をめぐり、建物からの立ち退きを頑として拒否する一人の青年の物語。
フランスは戦後に経済発展の目的で大量の労働力を確保する施策として、移民の受け入れを積極に行っていたという経緯があり、この物語に登場する集合住宅「公営住宅」は、その移民の受け入れ場所として建設された実在の場所。建物の老朽化と2024年パリ五輪への対応を考慮し住民の立ち退きを推進するという展開から物語は始まっており、「自由の国」といわれる場所においても人種などといった人の見え方は社会的に根強くどこかに残る者であることを考えさせられます。

《ライター:黒野でみを》 クリックで担当記事一覧へ→

黒野でみを,プロフィール
黒野でみを

40歳で会社員からライターに転身、50歳で東京より実家の広島に戻ってきた、マルチジャンルに挑戦し続ける「戦う」執筆家。映画作品に対して「数字」「ランク付け」といった形式評価より、さまざまな角度からそれぞれの「よさ」「面白さ」を見つめ、追究したいと思います。

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