今回紹介する作品は、「音が鳴ったら『それ』がやってくる!」、新感覚ホラー映画『サウンド・オブ・サイレンス』です。
気鋭の映画監督ユニット「T3」が、ユニットとして長編に初挑戦、ダークな色彩の中で背筋も凍るような恐怖感が味わえる作品です。
映画『サウンド・オブ・サイレンス』:作品情報
アメリカ最大のホラー映画祭であるスクリームフェスト・ホラー映画祭にて2020年に選出され好評を得た短編を元に、アレッサンドロ・アントナチ、ダニエル・ラスカー、ステファノ・マンダラの三人からなるイタリアの映画監督が、「T3」という監督ユニットとなって以来初めて英語長編映画として作り上げました。
ある事件がきっかけで実家であるイタリアの古い洋館に戻った一人の女性が、家の屋根裏で発見した「音が鳴ったら現れる『何か』」により遭遇する恐怖の時を描きます。
映画タイトル | サウンド・オブ・サイレンス |
原題 | Sound of Silence |
監督 | アレッサンドロ・アントナチ、ダニエル・ラスカー、ステファノ・マンダラ |
出演 | ペネロペ・サンギオルジ、ロッコ・マラッツィタ、ルチア・カポラーソ、ダニエル・デ・マルティーノほか |
公開日 | 2024年1月26日(金) |
公式サイト | https://sound-of-silence.jp/ 【YouTube:予告編】 |
■2023年 /イタリア映画/カラー/G/93分
映画『サウンド・オブ・サイレンス』:あらすじ
歌手を目指し恋人ともにニューヨークで暮らすイタリア人女性・エマ。
しかし彼女は自分に自信が持てないままオーディションに落ち続け、ふさぎ込んだ毎日を送っていました。
ところがある日、父が入院したという知らせを受け、恋人とともにに故郷へ向かいます。
現地に到着すると父は面会謝絶状態、一方で彼女は母に事件の原因を尋ねると「父が急に暴れ出し、殺されそうになった」と答えます。
そして事件のあった実家に戻ってはいけないと必死に訴えてきます。
しかしエマは実家に泊まることを決意、家の屋根裏にある父の隠し部屋で古いラジオが置いてあるのを発見します。
ラジオは突然音を発し、エマは不審な表情でスイッチを切りますが、彼女はその瞬間、「何か」が部屋にいることを感じます……。
血しぶきなくても、「怖い」と思わせるアプローチ
「音が鳴ったら現れる『何か』」の恐怖を描いた物語といえば、2018年の映画『クワイエット・プレイス』などを思い出しますが、本作はどちらかというと超常現象的な怖さを扱ったホラー作品。
そして血を見るような生々しいシーンはほとんどない中で見る側に衝撃、ショックを与える効果を与えているところに大きなポイントがあります。
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』『パラノーマル・アクティビティ』シリーズなどが走りともいえる、リアリティーのある画角に対して、近代では特殊な効果を与える、いわゆるPOV作品が急増しました。
これに対し、本作はある意味伝統を踏襲した「映画らしい」作品の中で見る側に「怖い」と思わせる刺激を狙った、タイミングの作り方に斬新なアプローチを試みた様子がうかがえます。
ショッキングな場面が現れる予感、そしてその瞬間、予想をふっと覆して現れるさらにショッキングな場面。
本作ではそんないわゆる「ホラー映画の鉄則」的なアプローチを裏切り、見る側にさらなる衝撃を与えるという手法を次々に繰り出してきます。
一方、本作では撮影手法についても斬新な試みが随所に見られます。
伝統を踏襲する作品では、たとえば人の会話シーンでは、撮影ショットはやはり顔のアップから導線をうまく引いて自然な転換をおこないます。
ところが本作は、顔のアップと腰から、上を狙った対話シーン、あるいは全景という広い範囲、狭い範囲の画を微妙に切り替え、会話の中に独特の緊張感を与えています。
このようなトリッキーな手法は、三人の監督が過去に製作した映画『デス・アプリ 死へのカウントダウン』でも見られる傾向です。
今回はさらに縦横の方向を急転換したりとかなり大胆な効果を試みており、イタリアの田舎町の屋敷で起こる一事件という地味な展開でありながら、どこかジェットコースターに乗っている感覚で恐怖感を味わうことができます。
従来の映画手法から大きく脱却を目指したような、自由な発想と感じられるところでもあり、YouTube動画などの新たなメディアを通過した世代だからこそ作られた作品であるという印象もあります。
■こちらもぜひ見てほしい!T3の三監督がかつて製作したイタリアン・ホラー
※とある一人の女性が、偶然自身のスマホに入れてしまった恐怖のアプリに翻弄されていく姿を描いたホラー。ギラついたシンセサイザー・サウンドやちょっとくすんだ感じの色味がほのかにジャッロ感をおぼえさせてくれる作品です。
イタリアから発する、世界に向けての作品
イタリア産ホラーといえば、ダリオ・アルジェント監督やルチオ・フルチ監督などに代表される、いわゆるジャッロと呼ばれるジャンルを想像される方もおられるのではないでしょうか。
しかし本作ではそのジャッロ作品で見られたような生々しさ、様式美を意識した空気感はほとんど感じられない別の系統を追った印象のある作品であります。
そう思わせる一つのキーとして、物語の最後に登場する『ルクレツィアの肖像』と呼ばれる画。
ルクレツィアといえばモデナおよびフェラーラ公アルフォンソ2世・デステの最初の妃であるルクレツィア・ディ・コジモ・デ・メディチをはじめ、イタリアのさまざまな人物を想起させます。
物語中ではとある家族の過去の生活が恐怖の大元となるわけですが、どちらかというとそのバックグラウンドは描かれていません。
ただしどうしても「どこにでもありそうな話」になりがちな展開を、このシーンでイタリアという空気感をふっと吹かせて、作品のアイデンティーを示しているようでもあります。
使用されている音楽はクラシック的な生楽器を想像させる豊かなサウンドを使用しています。
また、「新たな時代を作る作風」というよりは、映像作りの新たな空気感の中で、伝統的な映画のセオリーを深く突き詰め、融合させたというという独特の方向性も感じられます。
ラストシーンにはホラー映画の名作といわれる数々の作品のオマージュ的な要素も感じられ、斬新なアプローチがふんだんに見られる一方で、筋金入りの映画ファンも安心して見ることができる作品であるといえるでしょう。
《ライター:黒野でみを》 クリックで担当記事一覧へ→
40歳で会社員からライターに転身、50歳で東京より実家の広島に戻ってきた、マルチジャンルに挑戦し続ける「戦う」執筆家。映画作品に対して「数字」「ランク付け」といった形式評価より、さまざまな角度からそれぞれの「よさ」「面白さ」を見つめ、追究したいと思います。
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