今回はピクサー最新作『私がビーバーになる時』をご紹介します。
なんと『ミスターインクレディブル』以来のピクサー作品を劇場で観ました…
観た感想と、原題「Hoppers」にちなんで「ピクサー作品はまだ跳べるのか?」と現在位置を探ってみました。
小さい子供たちと一緒にわいわい映画を観るのもいいですね。
(トップ画像:https://www.facebook.com/Pixar)

感想➊:「ピクサー」ブランドが生む期待
ピクサーといえば「子ども向けアニメーション」という枠を軽々と飛び越えるスタジオでした。
ユーモアと冒険の裏側に、人生や存在に関する深い問いを忍ばせてくる…その巧さの原点にして頂点ともいえるのが『トイ・ストーリー』でした。

今回紹介する新作の『私がビーバーになる時』もまた、動物の世界と人間社会を行き来する奇想天外な設定を持つファミリーアニメとなっています。
しかし、本作を見終えた正直な感想は…「おしい、もうひと跳びしてほしかった」。。
『私がビーバーになる時』、導入はピクサーらしさ全開!

『私がビーバーになる時』の序盤はめちゃくちゃ魅力的でした。
主人公メイベルが祖母とともに過ごした記憶がほとんど言葉を使わずに描かれます。
季節の移り変わりや繰り返される日常の行動を通して、二人の信頼関係や価値観が静かに伝わってきます。
この説明的なものに頼ることなく、映像で感情を表現するのはピクサーの十八番っぽいと思います。

『カールじいさんの空飛ぶ家』の冒頭モンタージュもそうであったように、私たちは短い時間でキャラクターの人生や感情を理解することができます。
冒頭を見て「ああ、これがピクサーだよな」と感じる人も多いと思います。
感想➋:「モフモフ」動物コメディとしての楽しさ
その後、物語は一気に動き出していきます。
メイベルは自身の通う大学の科学技術によってビーバーの身体に意識を移し(?!)、住む場所を追われた動物たちを、とある開発計画の危機から救おうとします。
ビーバーの王ジョージをはじめとする多様な動物たちとの交流はコミカルで、テンポよく楽しめます。

なにより、アニメーションによるそれぞれの動物たちの毛並み表現は圧巻です。
そんな「モフモフ」感あり、アクションやギャグありの作品なのでファミリー映画としてとても楽しめるものになっています。
食物連鎖を真っ向から描く、ピクサー・スタジオの工夫
特に印象的だったのは食物連鎖をきちんと描いている点です。
『ライオンキング』など動物が主人公のアニメーションでは、捕食関係があいまいに処理されることも多いです。

しかし、『私がビーバーになる時』は自然の秩序としての「食べる・食べられる」関係が消されてしまうことはありません。
ただし「食事シーン」のような軽やかな処理でさっと見せることで後味の悪さは残さない。コメディのテンポを邪魔するものにはしない。
このあたりのバランス感覚にはピクサースタジオの工夫が感じられます。
物語が跳びきれない理由、メイベルの成長にも期待
とはいえ、物語が進むにつれて少しずつ物足りなさも見えてきます。。
まず、主人公メイベルの内面的成長がやや弱かったように思います。
彼女の「自然を守りたい」という強い信条は最初から最後まで一貫しており、その価値観が揺らぐことはありません。
「生態系への介入は危うい」というテーマも持ち出されるものの、主人公の価値観を大きく変えるほどのドラマもなく、「真っ向から自分の思いをぶつける」猪突猛進なメイベルをずっと見させられるというのがちょっと残念でした。

大学卒業というところまで描くのであれば、「大人としての信念の通し方を身に着ける」的な、モラトリアムからの卒業的な、もう一歩踏み込んだところまで見たかったなと思います。
同様に周囲のキャラクターにももう少し掘り下げが欲しかったところです。
ビーバーの王ジョージをはじめとする動物界のキャラクターについてももっと身近に感じたかった。
メイベルと対立するジェリー市長も、やや単純な対立構造として描かれている印象があります。
ジェリー市長については都市開発をすすめることになった経緯や葛藤が描かれていれば、より対立構造が立体的になったと思います。
感想➌:ピクサーの、過渡期を感じた一本

結果として『私がビーバーになる時』はポップで楽しいアドベンチャー映画としては十分に成功していると思います。
一方で、かつてのピクサー作品が魅せてきた「もう一段深い問い」には届いていない印象です。
自然保護というテーマは誠実に扱われていますが、そこから人間と自然の複雑な思索へ踏み込む…というところまでは到達してませんでした。
先ほど述べたようにキャラクターの掘り下げも少し物足りません。
それでもピクサーには、まだ跳ぶ力がある!!
それでも、本作を単なる失敗作と呼ぶ気にはなりません。
この作品はこれまで扱われることのなかった日系アメリカ人を描くなど、文化的な広がりへの挑戦もみられます。
また、要所要所で魅せるユーモアや映像表現には目を見張るものがあります。
そう考えると本作は、いまのピクサーが模索の途中にあることを示す作品なのかもしれません。

思い返せば、ピクサーはこれまでにも「本来そこに属さない存在」の物語を繰り替えし描いてきていました。
『レミーのおいしいレストラン』では、料理人ではないネズミが厨房に立っています。
『ソウルフルワールド』では、魂が自分の人生の意味を探しています。
身体や立場を超えて自分の居場所を見つけようとするテーマは本作にも受け継がれていると思います。
本当の跳躍は次回の『トイ・ストーリー5』に待っていると期待したいです!
まとめ:『ピクサーの舞台裏』もあわせてどうぞ!

余談ですが、今回『私がビーバーになる時』を見に行こうと思った理由があります。
それは、ディズニープラスで配信中のドキュメンタリー『ピクサーの舞台裏』(Inside Pixar)を見てめちゃくちゃ感動したからです。
ディレクター、脚本家、カメラマン、建物管理者、カフェのパティシエ(!)…
と、ピクサースタジオで活躍するさまざまな役割の人たちが紹介されるのですが、どれも興味深くて一気見しました。
作品に登場する文字情報を世界中の言語へ対応させるため、ローカライズを担う部署の回まであるのです。
彼らの素晴らしい仕事ぶりを『私がビーバーになる時』鑑賞中に感じられたのも楽しかったです。
『ピクサーの舞台裏』もあわせて、気になりましたら鑑賞してみてください。
参考:ピクサーの舞台裏を配信で見る | Disney+(ディズニープラス)


記事へのご感想・関連情報・続報コメントお待ちしています!