リチャード・リンクレイター監督の最新作、『ヌーヴェルヴァーグ』を鑑賞してきました!
2026年3月の『ブルームーン』公開からまだ間もないですが、リンクレイター監督大好きなので、高頻度で新作が鑑賞できてとてもうれしいです。
『勝手にしやがれ』の誕生前夜、映画史の裏側の物語

本作『ヌーヴェルヴァーグ』は、フランス映画史に革命を起こしたジャン=リュック・ゴダール監督の代表作『勝手にしやがれ(Bareathless)』が誕生するまでの過程を描いた作品です。
舞台は1959年のパリ。
28歳の頃のジャン=リュック・ゴダールを演じるのはギヨーム・マルベック。
当時、ゴダールは映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』で評論を書いてきた若き批評家でした。
周囲の仲間たちが次々と映画監督へ転身していく中、自分も映画を撮ることを決意したゴダールは、フランソワ・トリュフォーが考案した物語をもとに、自身初の長編映画『勝手にしやがれ』の制作に乗り出します。
ジャン=ポール・ベルモンド役をオーブリー・デュラン、ジーン・セバーグ役をゾーイ・ドゥイッチが演じています。
のちに映画史に残る作品となる一本が、どのようなカオスと試行錯誤の中で生まれていったのかが描かれていきます。
「めんどくさそうな」ゴダールの人間味が良い

まずはじめに、私はゴダール作品は1本も観たことがありません。
ヌーヴェル・ヴァーグにも詳しくなく、関連作品といえばエリック・ロメールの映画を数本観たことがあるというくらいです。
その前提での感想となるのですが、そんな私程度の前知識の人間でも本作『ヌーヴェルヴァーグ』は大変楽しめました。
本作で最も印象に残ったのはゴダールという人物の「めんどくさそうな」魅力でした。
いつもトレードマークのサングラス姿(なんと映画館にいるときもサングラスをかけっぱなし)で、撮影現場では突然予定を変える。
セリフは用意された台本に沿うのではなく、その場で思いついたものを役者に伝える。
一緒に働くスタッフからすると、決して一緒に仕事をしやすいタイプではありません。

しかし、そんな扱いづらさの奥には、自分が面白いと思うものへの確信があります。
ゴダールは最初から「映画史に名を遺す巨匠」だったわけではありません。
『勝手にしやがれ』撮影時は、まだ何者でもない無名監督として、自分の信じる方向へ突き進んでいく一人の若者でした。
本作が面白いのは、ゴダールを映画界のエリートのように神格化していないところです。
「こんな人が近くにいたら大変そうだな…」と思わせながら、それでも目が離せない存在。
そんなゴダールの人間臭さが魅力的だと思いました。
偉業が偉業として認められる以前の、監督としてのキャリアの夜明け前を覗く体験ができるようで、ゴダールをよく知らない人でも十分に楽しめる作品になっていたと思います。
偉大な作品にも、”最初の一歩”があった!

また『ヌーヴェルヴァーグ』を観て感じたのは、歴史に残る作品も、最初から完成された形で存在していたわけではないということです。
『勝手にしやがれ』は現在でこそ映画史を代表する一本ですが、その制作現場は決して整然としてはいません。
試行錯誤の連続や突然の小休止をはさみながら、そして周囲を困惑させながら、少しずつ形になっていったことがわかります。
奮闘するゴダールの姿は、映画を作る人だけではなく、何か新しいものを生み出そうとしている人にとっても励みになるものだと思います。
「良いものを作りたい」という情熱を持ち続け、試しながら進んでいくことで、いつか誰かの心を動かすものになる。
本作は、そんな「創作すること」への前向きなメッセージを持った作品だと感じました。
”時代の空気”を描く、リンクレイターらしさ
本作の魅力は、ゴダールという強烈な人物だけに焦点を当てていないところにもあります。
のちに映画史へ大きな影響を与えることになるフランソワ・トリュフォーやクロード・シャブロルなどが、まだ若い映画人として登場します。

彼らの登場シーンのたびに名前のテロップが入る演出には、不思議な高揚感がありました。
まるで後世からみた「伝説の人物紹介」や「教室に飾ってある偉人たちの肖像画」のようで、誰とは知らなくても思わずワクワクしてしまいます。
しかし同時に、リンクレイターが描いているのは、まだ何者でもなかった頃の彼らです。
撮影の合間に談笑するスタッフ。映画について語り合う仲間たち。現場に流れる自由な空気。
そうした何気ない時間が積み重なって、一つの映画運動が生まれていったのだと感じられました。
これは、『ビフォア』シリーズや『バッド・チューニング』など、会話や人との時間を丁寧に描いてきたリンクレイターだからこそ撮れる作品だったと思います。
映画好きだけでなく、何かを作る人に贈る青春映画

本作は単なる『勝手にしやがれ』制作秘話ではありません。
ゴダールという強烈な個性を持った人物を通して、「何かを生み出すこと」の面白さやむずかしさを描いた青春映画です。
めんどくさいけれど魅力的で、周囲を振り回すけれど、確かな情熱を持っている。
そんなゴダールの姿は完璧な天才というよりも、不器用ながら自分の信じるものを追い続けた一人の創作者として映りました。
そして、後に歴史に名を残す人々にも、「何者でもなかった最初の瞬間」があった。
その事実を温かく見せてくれる本作は、映画ファンだけでなく、何か新しいものを作りたいと思っている人にも響く作品だと思います。

■関連作品の紹介(管理人選)
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常に独自のスタイルを開拓・探究しながら最前線を駆け抜けたシネマの巨人にして鬼才、ジャン=リュック・ゴダール。

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