ミネソタ州で起きた、白人警官による黒人男性暴行死事件は、世界的な抗議活動に発展しています。
アメリカの根深い黒人差別問題をメディアが解説する時、必ず引き合いに出されるのが1967年の「デトロイト暴動」。
差別問題は、半世紀たってもあの頃と全然変わっていないというために引き合いに出される事件なのです。
古くは奴隷制度までさかのぼるこの問題ですが、少なくとも1964年の公民権法制定で、法の上で人種差別を禁じても一向に変わらないのが現実です。
デトロイト暴動は、それから3年後に起こった暴動事件でした。
今回紹介する映画「デトロイト」は、事件からちょうど50年が経過した2017年に公開、その中で描かれ訴えられたものは何だったのでしょうか。
歴史に汚名を残す、「デトロイト暴動」とは
デトロイト暴動が起こった発端は、警察が違法営業の酒場にガサ入れをしたことがきっかけ。
酒場にいた黒人たちが連行される様子を周囲の住民が取り巻きます。
最初はヤジ馬的だったのですが、日頃の圧政への不満から次第に暴徒化するものが現れ、街中が騒乱状態となります。
地元警察だけでは対応しきれず、ミネソタ州兵まで動員された歴史的大暴動でした。
(暴動は5日間続き、最終、43人が死亡、1189人が負傷)
その中で、映画『デトロイト』の実話モデルとなった事件は、「アルジェ・モーテル事件」といわれるものです。
街中が大騒乱となるなか、暴動の沈静化を目的に市中各地を見回る多くの警官や州兵が配置されていました。
おぞましい事件が「偶発」したのが、「アルジェ」というモーテルでした。
そこで起こった惨劇の一部始終が再現されているのですが、正直言って、緊張に打ち震え観るに堪えかねる事件だったのです。
「アルジェ・モーテル事件」の顛末
白人女性2人含め、モーテルの一室に集まって遊んでいた若い黒人数名。
そこへ、市内の騒乱で公演が中止となった二人の黒人ミュージシャンが急きょ、避難してきます。
たまたま外に出ていた白人女性に声をかけたボーカルのラリー。
女性からは、みんなが部屋に集まっているので一緒に来ないかと誘われ合流することに。
部屋ではカールたちが騒いでいました。
市中の暴動騒ぎさえなければ、ありふれた若者の集まりだったかもしれません。
しかし、カールの行った悪気のないたずらがとんでもないことに発展するのです。
窓の外の警官や州兵に、カールが発砲⁈
カールがふと窓の外を見ると、市中警戒のために集まり出した多くの警察官が目に入ります。
カールはその時、何を思ったのか誰を狙うまでもなく手にしたピストルを発射します。
正確にいえば、「ピストル」ではなく、競技用の「スターターガン」だったのです。
しかし、それがスターターガンだとわかるのは、警察官による一連の殺傷と暴行が終わった後でした。
暴動が広がるに従い、警察を狙い撃ちする狙撃者もいて、警戒していた矢先に建物の窓から聞こえた発砲音。
モーテル周辺の警察や州兵は、音がした窓に向かって一斉反撃を始めたのです。
一気に突入してきた、デトロイト市警!
窓に向けられた一斉射撃に、部屋のみんなが驚いたのはいうまでもありません。
射撃が終わると、市警が一斉に突入してきます。
白人の女性2名と、あとは黒人の男性ばかり数名。
突入後、最初に逃げ出したカールは札付きの警官フィリップ・クラウスによって後ろから射殺されます。
この「背後から射殺」は、フィリップは以前に前科があったにもかかわらず人員不足から最前線に投入されていたのです。
さて、突入以降、映画の流れの中心となるのはこのフィリップ警官による拷問。
部屋にいた無防備のメンバーを壁に張り付かせ、尋常じゃないやり方で銃のありかを聞きだすのです。
圧巻はウィル・ポールター、鬼気迫る演技
信頼されるべき警察官が、とんでもない悪行の張本人というのは、見ていて本当に辛いものです。
単なる住民で、通りすがりに近い人間を「暴徒」の一言で片づけ認めさせようとするのです。
フィリップ・クラウスを演じるのは、ウィル・ポールター。
観終わった後も、憎しみだけしか残らないような悪役を演じます。
「白状する」もののない人間をとことん追い詰めていくのです。
しかし、彼のそのリアル感があってはじめてこの映画の凄さが伝わってきます。
なぜなら、幸いにも生き残った証人から得た「拷問」を再現してくれたのですから。
今作を見る時、ひどい白人警官を引き受けた彼のインタビューが大変参考になります。
社会派の、キャスリン・ビグロー監督
監督はアカデミー賞監督賞を受賞した初の女性監督、キャスリン・ビグロー監督。
フィルモグラフィーの幅は広いが、受賞作品の『ハート・ロッカー』(監督賞、作品賞他)や『ゼロ・ダーク・サーティ』(作品賞ノミネート他)からは、社会派のイメージが強い監督です。
前者はイラク戦争の爆弾処理班、後者はウサーマ・ビン・ラーディン殺害といったように、戦争やテロに鋭く切り込んだ映画です
そのビグロー監督が挑んだテーマは、やはりすごかった!
アメリカの恥部ともいえる、依然と残る人種差別がテーマ。
実際に起こった事件に裏付けされ、公的な権力によって密室でのできごとを「有罪ありき」で進んでいく流れを見せつけています。
鑑賞後の後味の悪さが、最大の傑作!
この映画の一番恐ろしいところはエンディングでやってきます。
警官ばかりの集団で、さんざん悪態の限りを尽くしたいわば「殺人犯!」(映画ではハッキリと描かれています)。
事件後、彼らの行為は法廷で裁かれることに。
ネタバレになってしまいますが、歴史的事実として「全員無罪!」
少なくとも、3人の黒人があのような死に方をした事件だったのに…です。
法廷モノの映画は好きですが、「正義」の名の元にほとんどの映画は胸がすくような結末を迎えます。
しかし、今作ほど後味の悪い映画は観たことがありません。
この後味の悪さを見せつけることこそ、ビグロー監督の目的だったのでしょう。
●キャスリン・ビグロー監督(Kathryn Bigelow)
誕生日:1951年11月27日
身長:182㎝
出身:アメリカ・カリフォルニア州
▶おすすめの監督作品
※爆弾処理の緊張感はハンパではありません!
※実話モデルのリアル感が半端ではない緊迫の連続です。
まとめ~アメリカ黒人の死因第6位は?~
デトロイト暴動は、最初に書いたように1967年の出来事。
黒人差別は、50年後の今も全然変わっていないと今作で訴えたのが2017年。
そして、今、メディアやアメリカ史の専門家が何も変わっていないことの例えで出すのがこのデトロイト暴動。
今回の、ミネソタ州での黒人暴行死事件直後(6月9日)に、BBCが報じた記事があるので紹介しましょう。
それによると、アメリカの黒人男性の死因の主なものが「警察暴力」だというのです。
事故死、自殺、心臓病、がんなどに続き、第6位と報じています。
関連記事:黒人差別の歴史がわかるおすすめ映画3選。BLM運動に繋げ、過去を生かせない人種差別』
記事へのご感想・関連情報・続報コメントお待ちしています!