第92回アカデミー賞(2019年作品が対象)レースは稀に見る激戦でした。
ノミネート作品が発表された時点では次のような状況です。
ノミネート部門数の多いのは、1位『ジョーカー』(11部門)、2位は同数で『アイリッシュマン』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『1917 命をかけた伝令』(10部門)でした。
いかがでしょうか、いずれも甲乙つけがたい秀作が目白押しだったのを覚えている人も多いのでは。
今記事では、この中から「最後のマフィア映画」として大きな反響を呼んだ『アイリッシュマン』を取り上げてみたいと思います。
(参考記事:アカデミー賞10部門でノミネート、タランティーノ監督の「ワンアポ」はどんな映画?)
アカデミー賞10部門ノミネートの、総合的高評価作品
さて、『アイリッシュマン』がノミネートされたアカデミー賞の部門は以下の10部門です。
作品賞、監督賞、助演男優賞(2人)、脚色賞、衣装デザイン賞、視覚効果賞、撮影賞、編集賞、美術賞。
これを見るだけでも、いかに「総合的な高評価作品」であることが伺えます。
もちろん、主要部門の作品賞と監督賞にもノミネートです。
『アイリッシュマン』が取り上げた題材は、実在したアイルランド系アメリカ人(=アイリッシュマン)「フランク・シーラン」(ロバート・デ・ニーロ)の半生です。
といっても、日本人にはあまり馴染みのない名前ですよね。
時代は1950年~80年代、彼はマフィアが暗躍するアメリカの闇社会で生きた「ヒットマン=殺し請負人」でした。
公開にあたっては動画配信専門サイトNETFLIXとマーティン・スコセッシ監督がタッグを組んだことでも大きな話題となりました。
(一般劇場公開がされた後、NETFLIXの独占配信となっています。)
マフィア映画と言えば、マーティン・スコセッシ監督
血なまぐさい場面がいくつも出てきますが、時代がそうさせたのか救いようのない犯罪人の生きざまはなぜか胸を打ちます。
マーティン・スコセッシ監督は、この人間臭い「マフィア映画」が真骨頂です。
代表作は『グッドフェローズ』(1990年)や、『カジノ』(1995年)などが有名ですよね。
今作同様、主演にはいずれもロバート・デ・ニーロを起用。
彼のしびれる演技は、彼自身がマフィア世界で生きてきたかのような凄味を感じさせファンにはたまりません。
闇社会の実在人物を演じた2人、助演男優賞にノミネート!
今作の見どころは、マーティン・スコセッシ監督とロバート・デ・ニーロの強力タッグ。
それだけも魅力ある映画ですが、さらに助演の二人がすごかった!
ノミネート10部門のひとつで、助演男優賞2人と紹介しましたが、主演に勝るとも劣らない名優二人が登場します。
一人は、主人公の殺し屋フランク・シーランを、マフィア世界にリクルートしたラッセル・ブファリーノ役で、ジョー・ペシ。
静かすぎる口調に、怖さが一層増すといったキャラクターを演じるジョー・ペシには引き込まれます。
もう一人は、裏社会のラッセルと組み、当時の政財界を陰で操ったとされるジミー・ホッファ役で、アル・パチーノ。
ジミーは押しの強い実業界大物で、政財界とのコネクションをテコにのし上がっていった人物。
存在感のあるアル・パチーノのキャラクターにピッタリです。
映画を支えた、視覚効果賞ノミネートについての秘話
もうひとつ、『アイリッシュマン』がノミネートされた部門で特徴的なのが「視覚効果賞」。
CGなど撮影上の特殊効果を使い、現実を超えた映像の実現をしたテクニックに対して選ばれるものです。
さて、アイリッシュマンのどこが視覚効果撮影を使っているのか、マーティン・スコセッシ監督自らが語る紹介映像があります。
【YouTube:『アイリッシュマン』特別映像|~新たな伝説の誕生秘話~】
実は、前段より述べてきた主演ロバート・デ・ニーロ、助演のアル・パチーノ、そしてジョー・ペシの実際の年齢は、みんな70歳台後半です。
もちろん、この映画で実年齢で通用する場面はいくらでもありました。
しかし、たとえばフランク・シーランの30歳代、40歳代を演じるとなると今のロバート・デ・ニーロではなかなか厳しいものがあります。
そこを、マーティン・スコセッシ監督は代役を使わず「特殊効果」を使い、すべて本人で押し通したと語っています。
実際、映画の中では違和感なく半世紀近い人間の物語を見ることができました。
この素晴らしい醍醐味は特殊効果あってのものといえるのではないでしょうか。
三浦瑠麗氏のコラム・コメントで、ここにきて話題に!
いろいろな話題が満載の『アイリッシュマン』を紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
そんな中、今マスメディアに頻繁に登場する国際政治学者・三浦瑠麗氏が、最近になって本作視聴後の感想を雑誌コラムに紹介したことで話題になっています。
雑誌とは、政治・経済を中心とする総合メディアの「プレジデント社」発行のオンライン・マガジン。
参考記事:三浦瑠麗「映画『アイリッシュマン』のクレイジーな時代はつい最近」
実は、今作は3時間半にもわたる長尺映画なのですが、いつも鋭い切り口のコメントが印象的な氏をもってして、「身じろぎもせず見入ってしまった。」とあったのです。
実際に筆者が劇場で見た時にも、終わってみればアッと言う間の3時間半!
まとめ~悪人なおもて往生す?~
さて、この映画の究極のテーマは何でしょう?
題材がマフィアで、まして容赦なく人を殺してきた残忍非道な悪人の話。
しかし、あれだけの家族愛や恩義に固い生き方を見せられると、映画を見終わった後「悪人なおもて往生す」といいたくなります。
単なる任侠だけのヤクザ映画ではない、「どうしようもなかった人間への愛情」がマーティン・スコセッシ監督のいつものテーマというものの、なんともホッとする結末の背景にはいったい何があるのでしょう。
三浦氏のコラムでのコメントで『そこにわずかに残っている何かを懐かしく思い出しながら、どっぷりとアイリッシュマンの世界に浸った…』とあったのはコレだったのではないでしょうか。
「やっと死んでくれてありがとう」とでも言いたくなるような奥深い不思議な映画です。
参考記事:『アイリッシュマン』あらすじと意味、マフィア映画カジノと同じマーティン・スコセッシ監督
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