2018年のノーベル平和賞は衝撃的でした。
どこかの国のトップが選ばれるのと違い、この年選ばれたのは世界中の紛争地で今も続いている性暴力と戦う2人でした。
ひとりは、イラク北部の少数派ヤジディー教徒の権利擁護を訴える人権活動家のナディア・ムラドさん。
(もう一人は、コンゴ民主共和国の医師、デニ・ムクウェゲさん。)
参考記事:『2018年ノーベル平和賞、紛争下で性暴力と闘う2氏に』(AFP.NEWS)
今記事で紹介する映画『バハールの涙』の悲しい物語は、奇しくもナディア・ムラドさんが襲われた2014年の同じ悲劇から始まります。
THE LAST GIRLーイスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語―
クルド人自治区で起こった、ISの襲撃と集団拉致
ナディア・ムラドさんを人権活動家と紹介しましたが、元は彼女は2014年イスラム過激派組織「IS(イスラム国)」によって町ごと襲撃され集団拉致の後、凌辱された女性の一人だったのです。
映画『バハールの涙』はこの歴史的事実を原点とし、女性監督エヴァ・ウッソン氏によって制作されました。
中東イラク・クルド人自治区で夫と子どもと平和に暮らしていた弁護士バハール(ゴルシフテ・ファラハニ)たちを襲ったのはISの武装集団。
成人男性はその場で手あたり次第に殺害。
残された女性と子どもは自分たちのアジトに連れ帰ります。
女性は性的奴隷として売買、子どもは将来のIS戦闘員として訓練を受けさせるのが目的。
バハール自身もその家族も例外ではありませんでした。
地獄の拘束から自力脱出、バハールの決心!
映画では、冒頭からISと闘うたくましい兵士バハールが映し出されます。
彼女が引率するのは女性ばかりの数名の小部隊。
そこから、昔の彼女の仕事や面影を想像することはできません。
深く悲しみをたたえた陰鬱な表情だけが際立つ戦士そのもの。
ISに拉致され蹂躙されていた彼女、監視の目を潜り抜け脱出したことが回想シーンによって明らかにされていきます。
バハールたちと行動を共にする男性兵士も何人かいるのですが、攻め込むのは今しかないと煽るバハールを制し「連合軍の空爆」があるまで待てとなだめるのが印象的です。
原題『太陽の女たち』、被害者でいるより戦いたい
バハールの目的は、敵対するIS部隊の掃討であることに違いありません。
バハールを慕い、同じく兵士となった女性たちはもとはといえばみんな普通の市民。
銃など触れたことのない女性たちだったのですが、彼女たちを動かしたのは「被害者でいるより戦いたい」という気持ち。
そして、回想シーンから次第に明らかになってくる目標があったのです。
それは、ISが支配する地域で兵士訓練をさせられている子どもたちの奪還でした。
原題「太陽の女たち」(Les filles du soleil=Girls of the Sun)は、女性ばかりの戦闘部隊の由来となります。
PTSDになりながら、取材を続ける戦場記者
一方この映画は、紛争地の実態を危険を顧みず取材するジャーナリストの目を通して語られています。
紛争地取材のジャーナリストといえば思い出すのは、女性の戦場記者メリー・コルヴィン。
画像にあるように、片眼を失っても戦場へと出向く記者マチルド(エマニュエル・ベルコ)はメリー・コルヴィン氏がモデルです。
彼女の生涯は、『プライベート・ウォー』(ロザムンド・パイク主演)で映画化されています。
壮絶な紛争現場で見聞きしたストレスから、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされながらも取材を続け、2012年にシリアで命を落とした実在人物です。
本作に登場する記者マチルドも、子どもを国に残してもなお取材をやめられない人物として描かれています。
自身も苦しみながら、子どもの救出のため兵士となって戦い続けるハバールから悲惨な過去を聞き出してシーンは見どころです。
まとめ~今も囚われの身となる人たち~
実際にあったジェノサイド(大虐殺)からの着想であり、ナディア・ムラドさんが国連親善大使として包み隠さず語った内容からそのリアル感が半端でない映画と気付きます。
主演のゴルシフテ・ファラハニ自身もイラン出身ですが、演じる彼女の慟哭が聞こえてきそうです。
特に、拉致された臨月の妊婦たちをかかえ、隔離部屋から脱出を図るシーンには胸が詰まります。
しかし、脱出できたのはごく一部。
今も囚われの身となっている多くの人たちに思いを寄せざるを得ません。
●ゴルシフテ・ファラハニ(Golshifteh Farahani)
誕生日:1983年7月10日(かに座)
身長:169㎝
出身:イラン・テヘラン
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