『名もなき生涯』は実話映画。ナチスを拒否した農夫と妻の慟哭に涙

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1938年ナチス・ドイツに併合された、第二次世界大戦中のオーストリアが舞台。

そして、タイトルが『名もなき生涯』とあれば、戦時下の不条理な話を想像するには十分でした。

ハッピーエンドにはならない悲しいストーリーに違いないと、観るのをためらっていた映画。

一方で、「オーストリアの豊かな自然を背景に…」とあり、なにか誘われるものがありついに鑑賞。

内容は想像通りの辛い物語に胸が痛みます。

しかし、鑑賞後の余韻は想像以上で、いつまでも記憶に残るであろう素晴らしい映画でした。

「取るに足りない生涯」、では悲しすぎる…

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映画や伝記で取り上げられる人物は、多くはなにか歴史的に名を残した人たち。

死をも覚悟した頑(かたく)なな信念は人々のこころを揺さぶり、次第に大きなうねりとなって世界を変えていく…。

しかし、この映画の主人公はそんなヒーローや偉人ではありません。

逆に、信念は岩のように硬くても、結果は何も変わらず、また変えられずに死んでいった実在の人物なのです。

当時の、彼と彼の家族を罵った口の悪い人にとっては「無駄死に」や「犬死に」に近い、「取るに足らない生涯」の話なのです。

招集令状の配達人に、怯え続けた夫婦

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その人の名は、フランツ(アウグスト・ディール)

(実名は、フランツ・イェーガーシュテッター1907年~1943年)

家族は、妻ファニ(ヴァレリー・パフナー)と小さい3人の娘たちで、オーストリアの山間でつつましやかに働く農夫でした。

ナチス・ドイツによるオーストリアの併合は、国民がドイツ軍への従属、つまりヒットラーへの忠誠を意味します。

のどかな山あいで幸せに暮らすフランツが、農作業をしながら怯えていたのはいつかはやってくる招集令状。

郵便物を届ける配達人の自転車が、チリンチリンという音を出すたびにハッとするフランツと妻のファニ。

自然が美しすぎて、いっそう、このまま映画が終わってほしいとさえ思うぐらいです。

ヒトラーへの忠誠、拒否する意味

残雪の残る山々を背景に、種まき、牛車による耕し、秋の刈り入れに精を出す農夫たち。

それらを遮るように突然差し込まれる映像は、ヒトラーが容赦なく周辺国に侵攻していく実録映像です。

フランツに確実に迫りくる恐怖を予感させています。

しかし、彼にあるのは、戦争に赴く恐怖ではありません。

敬虔なクリスチャンでもあった彼は、もっと重苦しい決心をしていたのです。

フランツの頑なな決心、それは「ヒトラーへの忠誠」を拒否することだったのです。

妻や家族のために、「改心」できないの?

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一旦は招集に応じたフランツ。

他の招集兵とともに、ドイツ士官から閲兵を受けます。

全員が無表情ながらも「ハイル・ヒトラー」を宣誓する中、黙して宣誓の手を上げないフランツがいました。

即、その場で逮捕され引きずられるように収容所送りとなります。

彼をよく知り、事前に相談もを受けていた地元の神父たちが、妻や家族のために「改心」するよう説得を試みます。

「あなた一人に抵抗が、どれだけ世界を変えるというのだ…。」

ついにベルリンへ送還、軍事裁判へと

彼のように主に宗教的な理由などで兵役を拒否する人たちは、良心的兵役拒否者と呼ばれます。

しかし、フランツの決心は当のドイツ軍からすれば、「士気低下」そのもの。

風当たりは次第に強くなり、独房での虐めは日に日に激しくなるばかりです。

ついには、本国ベルリン移送、圧倒的不利な状況での軍事裁判へかけられることに。

最後の接見で、妻が語ったことは?

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一方、村に残された妻ファニにとっても、幼子3人を育てながら農地の維持はただでさえ大変なこと。

フランツのとった行動は、村人からは逃亡者の妻のように仕打ちを受けます。

夫のその後の情報もない中、張り裂けんばかりの胸の内がわかるのは絞り出すような嗚咽だけでした。

そんな中、彼女に届いたのは「死刑判決」が決定したという知らせ。

そして、最後の接見が許可されるというのです。

付き添いの弁護士からは、死刑執行をくつがえすために「妻から再度改心を促す」ことで、これが最後のチャンスだと添えられます…。

まとめ~好演の夫婦役~

フランツが収容所や独房で看守から暴力を受けるシーンは、多少トーンが抑えられているとはいえさすが目をそむけたくなります。

オーストリアに残った妻とやりとりする手紙が二人の絆を証明してくれますが辛さが増すばかり。

フランツ役のアウグスト・ディールも素晴らしいですが、妻ファニ役のヴァレリー・パフナーの演技も光る映画です。

最後にインタビュー映像をご覧ください。

<追記>

フランツの死刑から100年近くが経過し、今、映画を通じて世界に知らしめられる彼の名前。

彼の死はその後、教会や国によって名誉回復がはかられたとのことです。

映画の最後に流れるテロップですが、原題A Hidden Life」の出典となった言葉を紹介しておきましょう。

「歴史に残らないような行為が世の中の善を作っていく。

名もなき生涯を送り今は訪れる人もない墓にて眠る人々のお陰で物事がさほど悪くはならないのだ。」

(出典:ジョージ・エリオット)

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