政府の嘘に挑んだジャーナリスト(ジャーナリズム)が、ここ数年話題です。
書籍では、堤未果氏の『政府は必ず嘘をつく』、望月衣塑子氏の『新聞記者』(同名映画も)。
アメリカ映画では『すべての政府は嘘をつく』、日本映画では『新聞記者』と同じ題材で、ドキュメンタリー『i 新聞記者ドキュメント』が話題になりました。
●政府は必ず嘘をつく 増補版 (角川新書) ●新聞記者 ●すべての政府は嘘をつく
共通しているのは、「政府は必ず嘘をつく」。恐ろしい言葉です。
さて、ここで取り上げるのは、映画『記者たち 衝撃と畏怖の真実』。
この映画も、まさしく政府の嘘に挑んだジャーナリストの話です。
原題は、『Shock and Awe』で、2003年にアメリカが仕向けた対イラク攻撃の作戦名が元になっています。
アメリカは2001年9月11日の同時多発テロを受け、大量破壊兵器を隠し持つとしてイラクへ攻撃を仕掛けたのでした。
「イラク戦争」が題材、イランへの攻撃を思い出させる
政府の嘘に挑む、逆に言えば、政治権力に挑戦するジャーナリストたちへの応援歌となっています。
「Shock and Awe」は、イラク戦争の作戦名というが、まるで同時多発テロの恨みを晴らすかのようですね。
攻撃によって相手にショックを与え、アメリカに対し畏怖の念(おそれ畏まること)を抱かせようとしたかに聞こえます。
2020年初めの、イランとの報復合戦をほうふつとさせます。
作戦の結果は、テロ支援国家とレッテルを貼られたイラク・フセイン政権を、崩壊へと導いたのは周知の通り。
しかし、「本当に大量破壊兵器はあったの?」
という疑念が、当時からずっと付きまとっていました。
ニューヨーク・タイムズ社、大量破壊兵器をどう伝えた?
弱小メディア「ナイト・リッダー社」が追い続けたこと
さて、映画の見どころはイラク戦争の大義名分となった大量破壊兵器に関する情報合戦です。
しかも、映画のメインとなるジャーナリストたちは、大手ではなく弱小メディアのメンバーたちです。
ブッシュ政権がイラク攻撃へ傾いていく中で、符牒を合わせるかのようにニューヨーク・タイムズ社はじめとする大手新聞社は「大量破壊兵器はある」との姿勢でした。
同時多発テロの痛々しい記憶が残るアメリカ国民も、多くの人たちが政府を支持します。
そんな中で、唯一「ナイト・リッダー社」という小さな通信社だけは政府の嘘を嗅ぎ取っていました。
主人公は同社ワシントン支局長の、ジョン・ウォルコット(ロブ・ライナー)。
ロブ・ライナーはこの映画の監督でもあるのですが、自らも主要キャストとして出演しています。
記者たちが、元政府高官や内部告発者から得た情報
ジョン支局長の配下として、二人の記者、ジョナサン・ランデー(ウディ・ハレルソン)と、ウォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)が登場します。
小さな通信社のスタッフとはいえ、支局長以下3人は協力し、時に罵り合いながら彼らなりの情報網を駆使し嘘を暴き始めます。
情報源としたのは、ブッシュ政権の外交政策に懐疑的だった元政府高官や現官僚の内部告発など。
映画の中では、当時の政府主要メンバー、ブッシュ大統領、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官が語った実際のニュース映像が差し込まれて行きます。
大量破壊兵器が存在するという証拠のないまま進んで行く国策。
記者たちが一様に疑ったのは、「イラク攻撃ありき」ではなかったのか!
●ウディ・ハレルソン(Woody Harrelson)
誕生日:1961年7月23日生まれ
星座:しし座
身長:177㎝
出身:アメリカ・テキサス
▶おすすめの代表作品
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※ウディ・ハレルソンが魅せる、弱小新聞社の記者魂を好演!
ジャーナリスト、ビル・モイヤーズの言葉
映画を見て面白いのは、記者たちが記事をつくるために情報源とする多様な人たちの登場。
真実を本当に語っているのは誰かという見極めです。
もし情報源である政府要人が自分たちのやり遂げたい目的のために、あえて偏った情報を流し報道させていたとしたらどうなるのでしょう?
映画の中で、著名なジャーナリスト「ビル・モイヤーズ」の言葉が紹介されています。
「多様で独立した、自由なメディアこそ米国の民主主義に必要だ。」と。
逆に言えば、イラク戦争に関して、自由でない偏ったメディア報道があったことを伝えてくれる映画なのです。
大量破壊兵器の、歴史的結末
フセイン政権崩壊後にイラク入りした調査団の報告は、「大量破壊兵器はなかった」という歴史的報告でした。
今ではそれを覆す証拠、つまり「大量破壊兵器の存在」を示すものは何もありません。
むしろ、存在を肯定していた大手メディアが、間違った報道をしていたことを詫びたニュースが大きく取り上げられました。
さて、この映画のいわんとするところ。
通信社「ナイト・リッダー社」は弱小ながら大したものだ!
ではありません。
それは、映画の冒頭に紹介される、イラクからの帰還兵の言葉にさかのぼります。
まとめ~ジャーナリストの役割~
同時多発テロが勃発し、愛国心にかられイラク戦争に志願した兵士がいました。
突然息子が志願したことに、両親も愕然とします。
厳しい訓練に耐えやっと赴いた戦地。しかし、彼は脊髄を損傷し帰還。
映画では、若くして車椅子生活となった青年の証言から始まります。
証言を求められたのは、上院の退役軍人公聴会。
最初は、あらかじめ用意したメモを読みながら証言するのですが途中から自分の言葉で語り出します。
そして、途中で委員長に質問をします。
「なぜ、戦争を始めたのですか?」と。
ジャーナリストの役割は、大スクープでもリーク合戦でもありません。
犠牲者となった彼の疑問こそ、映画の究極のテーマだったのです。
参考:正義とジャーナリズムの『ペンタゴン・ペーパーズ』は社会派大作映画だった!
(ベトナム戦争の「嘘」を摘発したジャーナリストの映画です。)
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