原題の意味「頑固者」、もうひとつの俗語とは?
原題は『The Mule』。
頑固者、片意地者といった意味のほか、俗語で「麻薬や密輸品の運び屋」の意味もあります。
この映画で主人公アール・ストーン(クリント・イーストウッド)が運ぶものは、まさに「麻薬」であり邦題の『運び屋』はストレートなタイトルになっています。
物語は実話で、なんと80歳台の主人公がメキシコの麻薬犯罪組織に手を貸していく姿は、悪人とはいえ痛々しいものがあります。
一方で、「片意地を張っていた」彼の家庭人としての姿が織り込まれることで、どこか同情的にならざるを得ない極上の人間ドラマに仕上がっています。
『運び屋』クリント・イーストウッド監督・主演の名作
監督兼主演のクリント・イーストウッドは、現在90歳をとうに超えています。
実は、主人公のアールとほぼ一緒の年齢なのです。
驚きますよね、制作当時89歳で監督し主演もこなすなんて!
ラストのエンドロールとともに流れる音楽は、トビー・キースの「Don’t Let the Old Man In」(老いを迎え入れるな)。
これを聴くと、主演クリントイースト・ウッドの老いた姿と重なり、さらに味わい深い作品に仕上がっています。
●クリント・イーストウッド(Clint Eastwood)
誕生日:1930年5月31日(ふたご座)
身長:193㎝
出身:アメリカ・カリフォルニア州
▶おすすめの代表監督作品
※監督作品。スナイパーのカッコ良さと悲哀があふれています。
※監督と主演。イーストウッド自身の人生と主人公を被らせているようでたまりません。トビー・キースの音楽も最高!
自由気ままな、園芸農場の経営者だったが…
さて、物語は園芸家の主人公アールが、自ら育てた自慢の「デイリリー」(ユリの品種)を一輪切り取り、パーティに持参するところから始まります。
年配とはいえオシャレな出で立ちで、洒脱な会話のできるアールはパーティなど仲間の集まる場所ではいつも人気者。
しかし、しばらく映画を見ていると彼が園芸農場や友達付き合いだけに興味を持ち、家族のことはずっと放ったらかしにしてきた過去がわかってきます。
仕事優先だった彼は、娘の結婚式すらすっぽらかした前歴があり、娘にはもう何年も口をきいてもらっていません。
また妻も、いつも口先だけでいい加減なアールに対し皮肉ばかり言っていました。
左:タイッサ・ファーミガ(ジニー) https://www.facebook.com/TheMuleFilm/
そんなアールに親しみを持ち、なにかと声をかけてくれるのは孫のジニー(タイッサ・ファーミガ)ぐらい。
(タイッサ・ファーミガは誰かに似ていませんか?彼女のお姉さんは、ヴェラ・ファーミガなんですよ!)
失業した彼に持ち掛けられた、簡単な仕事とは?
さて、そんなノー天気だった彼に転機が訪れます。
経営していた園芸農園が、インターネット通販の影響で経営不振となる中、アールは失業してしまうことに。
孫ジニーの知り合いだと名乗るアールに近づいてきた男から、ある仕事を持ち掛けられます。
それは、トラックで「荷物を運ぶだけ」の仕事。
園芸農場時代にアメリカ各州をトラックで配達していた彼にとっては、うってつけの仕事ですぐに飛びついたのです。
約束事はひとつ。荷物が何かを詮索しないこと。
ただ、運ぶ荷物がいつも気になり、それが「麻薬」だと気づくのに時間はかかりませんでした。
一気に金回りがよくなり、有頂天になる「運び屋」!
何度目かの配達で「違法の荷物」に気付いた頃には、彼はすでに平常心を無くしていました。
なぜなら、簡単すぎる仕事だったのと、配達後に渡される礼金の多さにすっかり味をしめていたのです。
受け取った金の使い道は、かつての仲間たちへ「イイカッコ」をするためにあっという間に散財。
再び、次の仕事を請け負うという繰り返しだったのです。
と、ここまで書くとアールはどうしようもない極悪人のようですね。
悪人と善人?の間をさまよう、老人の意外な結末!
しかし、この映画の見どころは彼の悪行と並行して、90歳近い老人の「悲哀」が描かれているところ。
金の心配がなくなったせいかもしれません。
やたら家族のことを気にし始め、妻や娘たちの言葉に耳を傾け始めます。
家族はアールの悪行も知らずに喜ぶのでした。
そして、この映画にはもうひとつの見どころが!
捜査線上に、浮かび上がらなかったワケ
実は、最近大口の麻薬売買はあるというのは、麻薬取締局コリン・ベイツ(ブラッドリー・クーパー)はある程度情報を持っていました。
摘発のために、ベイツは「運び屋」を探すことに執念を燃やしていました。
(少しネタバレあり)彼は捜査線上でアールに何度か接近していたのですがなかなか気付きません。
逆に麻薬組織からすれば、それこそよぼよぼの老人アールが運び屋の適材だったのです。
まとめ~エンディング曲でハッとすること~
老人アールが最後にとる行動はちょっと驚きです。
エンドロールとともに流れる曲の、歌詞の一説を紹介しましょう。
曲は、トビー・キースの「Don’t let the old man in」です。
【YouTube:Toby Keith – Don’t Let the Old Man In】
♪Don’t let the old man in, I wanna leave this alone(老いを迎え入れるな もう少し生きたいから)♪
最初に聞いた時は、歌詞は映画の主人公アールに向けられたものであると思い耳を傾けます。
次が、数々の名作に登場してきた「頑固者に違いない」名優クリント・イーストウッド。
そして最後が、若者も老人もすべて、いずれは歳をとる、この映画を見ている人たちへのメッセージではないだろうかと思えてくるのでした。
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参考記事:感動映画のエンディング曲、余韻に浸って席を立てない洋画といえば
トビー・キースは、残念ながら2024年2月、長いガン闘病の後亡くなられました。ちょうど前年の2023年にカントリー・アイコン賞を受賞していたのですが、その時のステージで披露したのがこの「Don’t let the old man in」だったとのこと。きっと万感の思いを込めて歌ったことでしょう。
ご冥福をお祈りします。