2026年はスティーブン・キング原作映画が目白押しですね!
1月に公開した『ランニング・マン』に引き続き、5月に公開となった新作映画『サンキュー、チャック』を観てきました。
上映館はちょっと少ないかもしれないですが、とってもおすすめなのでお近くで観られる方は要チェックです!
グレン・パウエル『ランニング・マン』:レビュー、怒りはどこへ行く?抜かりないポップコーンムービー!
(トップ画像:引用https://gaga.ne.jp/thankyou_chuck/)
世界の終わりに、それでも踊る理由

『サンキュー、チャック』は人生賛歌という言葉だけでは言い表せない作品になっています。
近年、「ご自愛」「ありのまま」「自分のペースで」といった言葉を目にする機会が多くなった気がします。
が、本作が描いているのはそういったセルフケア的な肯定感よりも、もっと深く、もっと根源的な「存在そのものへの祝福」であると思いました。
しかもこの映画は「世界の終わり」から始まります。
インターネットが止まり、通信が途絶え、人々は日常を失っていく。
カリフォルニアの一部が海に沈んだというニュースが流れ、夜空の星は一つひとつ消滅していく。
それでも本作は、終末を恐怖としてだけ描かない。
むしろ、「終わるときにこそ価値がわかる」とでも言うように、静かに、しかし力強く、この世界に生きることを肯定していく作品であると思います。
あらすじ:崩壊していく世界、街にあふれる謎の広告…

物語は三幕構成で、しかも逆順に進んでいきます。
act 3:中学教師のマーティは、崩壊していく世界の中で日常を維持しようとしている。
しかし通信もインフラも機能しなくなり、生徒たちは授業どころではない。
そんな中、街中には「チャールズ・クランツ、39年間ありがとう」という謎の広告があふれ始める。
act2:その謎の男、チャック本人が登場する。

会計士として平凡に働く彼は、街角でストリートドラマーの演奏に出会い、衝動的にダンスを始める。
さらに通りすがりの女性も巻き込み、即興とは思えぬパフォーマンスを披露する。
act1:幼いころに両親を亡くしたチャックが、祖父母に育てられながらダンスに魅了されていく過程が描かれる。
現実的な祖父は会計士の道へチャックを進ませようとするが、それでもチャックの中からダンスへの情熱が消えることはなかった。
「ご自愛」を超えた、存在への肯定

『サンキュー、チャック』には何度か引用される詩があります。
それはアメリカの詩人ウォルト・ホイットマンによる”Song of Myself”の一節なのですが、
「私は無数の存在を内包している」(”I contain multitudes”)
https://www.amazon.co.jp/
という有名な一節があり、本作もまさにその感覚に満ちています。
特にact3で明らかなように、本作はチャック個人の人生を描きながら、その中に町の人々、ともに時を過ごした人たちとの思い出、音楽、恐怖、哀しみ、愛情、さらには宇宙そのものまでが含まれています。
本作を観ていると、「人生とは個人的な体験の積み重ね」というよりも、「そもそも世界が、存在そのものを肯定してくれている」のではないかという感覚に近づいていくように感じました。
それは「自分で自分を肯定しよう」という単なるご自愛的な力というよりも、よりじんわりと、観るものを魂ごと包みこむような愛、そしてその愛が他者との関係へと広がっていくパワーだと思います。
人生最良の瞬間が、人を最後まで支える

観た人は皆同意すると思うのですが、やはりact2のダンスシーンは作中で一番印象的なシーンだと思います。
会計士として働く中年のチャックが、街中で突然踊り始める。チャック自身も理由はうまく説明できない。
ただその場のドラムに身をゆだね、目の前の瞬間を全力で楽しむ。その場限りの、誰にも必要とされていないパフォーマンス。
それなのに、あのシーンには人生のすべてが詰まっているように感じられます。
のちにナレーションの声によって語られるように、チャックはやがて脳腫瘍に侵され、耐え難い苦痛を味わう運命にあります。

人生は決して幸福な瞬間だけではない、終わり方も選べない。
「神はなぜこの世界を作ったのか」と恨む日もあります。それでもチャックはあのときのダンスを覚えています。
「だから神は世界を作った。ただ、そのために」
人生には苦しみも終わりもあるけれど、でも「あの瞬間があった」という記憶が、世界そのものを肯定する理由になります。
『サンキュー、チャック』は観た者すべてに「踊ること」を思い出させてくれる作品なのです。

「チャックの数奇な人生 イフ・イット・ブリーズ」(スティーヴン・キング著)
まとめ:何度でも噛みしめたい…
『サンキュー、チャック』は三幕構成でしかも逆順に進んでいくのですが、これが観終わると、「またact3から観返したい」と思わせる面白い構造になっています。
そんな答え合わせゲーム的な要素もあり、惹きつけられるダンスシーンもあり、何度でも噛みしめたい、味わい深い映画になっています。
気になりましたら鑑賞してみてください。



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