家々が軒を連ねる街中、いつもの貨物列車
アゼルバイジャンは、黒海とカスピ海の中間、南コーカサス地方にある共和国です。
険しいコーカサス山脈の南側で、映画に流れる遠景は都心からかなり離れているのでしょう、遠くの赤茶けた山並みが目立ちます。
舞台となるのは、家々が長屋のように軒を連ね人々が寄り添うように暮らす集落。
ただ、この集落にはひとつ困りごとがあったのです。
それは、集落の中心部を貫通している貨物路線です。
家々からすれば、生活圏となるいわば庭や路地にあたるところを定期的に貨物列車が通過していくのです。
もっとも、当の住民たちにとっては毎日の生活ルーティンの一部になっていたのです。
このルーティンから生まれたエピソードが、小っ恥ずかしくもこんなにもほのぼのとした映画となりました。
線路上の洗濯物、取り入れるのどかな景色
主人公は、持ち主が不明となった青いブラジャー。
そして、青いブラの持ち主を迷子にしてしまった原因は自分であるかのように、一生懸命に持ち主を探すヌルラン(ミキ・マノイロヴィッチ)。
ヌルランの仕事は、貨物列車の運転手。
だだっ広い草原を突っ走るのは慣れたもの。
しかし、この集落を通過する時だけは最新の注意を払っているのでした。
というのも、列車の接近を知らせる警笛とともに、村の少年が笛を鳴らしながら線路上でくつろぐ人たちを追いはらうのですが、住民はいつものこととギリギリまで移動しません。
毎日のことながら、焦る運転手のヌルラン。
実はヌルランは定年を間近に控え、最後まで無事故で通したいという気持ちもひしひし伝わってきます。
ひっかけた青い「ブラ」、一旦捨てたものの…
ある時は、子どもが遊んでいたボールをひっかけたことも。
また、ある時は干されていたシーツが列車のフロント窓を覆ってしまったこともありました。
マジメなヌルランは、一日の運転を終えるとその都度覚えていた場所を訪ね列車が引っかけたものを住民に返していたのです。
さて、いよいよ定年を迎える最終日でしょうか、いつものようにスピードを落としつつ集落を通過している時でした。
住民が取り入れを忘れたのか、線路をまたいで干してあった洗濯物が目の前に現れます。
警笛を鳴らすも時すでに遅く、干してある洗濯物をすべて引きちぎって列車は通過してしまいます。
一日の仕事を終え列車の清掃をしていた時、ヌルランが見つけたのは昇降用の取っ手にひっかかった青いブラでした。
翌日から始めた、「ブラ」の持ち主探し
一旦は、ブラをごみ箱に捨てようとするヌルラン。
しかし、ふと持ち主のことが気になったのか、ボールやシーツを持ち主に返してあげた時と同様、ヌルランはブラを一旦家に持って帰る決心をしたのです。
ところで、この映画、実は登場人物全員のセリフが一切出てこないところが面白いところ。
ブラを発見したヌルランの表情、家に持って帰るときの戸惑い…。
そして、翌日以降、一軒一軒の家を訪ね歩き女性にブラを差し出すシーンなど、どんな微妙なシーンも動きだけで進んでいきます。
初老の男が突然カバンの中から青いブラを散り出し、応対に出た女性にきっとこう言っているに違いない…
想像は外れることなくストーリーが進んでいくという、非常に面白い構成になっています。
門前払いの連続、しかし中には試着する女性も…
さあ、見どころはヌルランと「持ち主候補女性」とのやりとりシーン。
そして本当の持ち主に巡り合うまでの彼の並々ならぬ苦労です。
とにかく面白い!
一部ネタバレありで紹介しましょう。
初老の真面目そうなヌルランに、手元のブラから持ち主の年齢や体格、ましてバストサイズなど知る由もなく、行き当たりばったりの訪問が始まります。
ドアをノックし、玄関口に出てきたおばあさんに恐る恐るブラを見せるヌルラン。
反応は推して知るべし!です。
しかし、中にはあっけらかんとした女性もいて、高級品(?)なのかすごく興味を示しなんとその場で試着する女性もあらわれます。
残念ながら、サイズがまったく会わず残念がっていたら、突然、女性の旦那(恋人?)が帰ってきて怒鳴られることも。
ヌルランが一生懸命であるだけに余計に笑ってしまいます。
訪ねても訪ねても、一向に持ち主に行き当たらない可哀そうな青いブラ。
現場近くのホテルに泊まり込み、あきらめずに毎日持ち主探しをするヌルラン。
安宿の一室に大切に置かれた青いブラと、疲れ始めたヌルランが一緒にいる光景はなにかおとぎ話を観ているようです。
時折挿入される、コーカサス地方の赤茶けた山々や自然の景色、顔を出す街の女性たち、そして行き場のないブラ。
このなんとも奇妙、かつ不思議な組み合わせがもたらす空気感はなぜかホッとします。
まとめ~世界各国から集めた美人キャスト~
実は、ヌルランにはうっすらと残る記憶があったのです。
それは、ある時列車で集落を通過していく時に運転席から見てしまった光景でした。
小さな民家の窓越しに見えたのは、着替え最中の女性でした。
その時の青いブラだったような気もするのですが顔はわかりません。
謎解きも楽しみながら観ると、あっという間の2時間です。
世界各国の美女でキャスティングされたこの映画、誰が試着をして誰に追い返されたのでしょう。
なお、中央の男性(左から3番目)はユニークな作品を世に出す、今作のファイト・ヘルマー監督です。
ちょっと脱力系のこの映画、最後はほのぼの観満載です。あわせてこんな映画も!
参考記事:『パターソン』は、ほのぼの癒すハッピー映画。詩情豊かな日々の幸福感
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