今回ご紹介する作品は、同性愛が違法だった1970年代のソ連占領下エストニアを舞台に、青年2人の秘められた愛を描いた2024年2月9日公開の映画『ファイアバード』。
原作は、ロシアの無名俳優セルゲイ・フェティソフの回顧録を基に、レバネ監督とセルゲイ役を演じた俳優のトム・プライアーが共同で脚本を手掛けた真実の愛の物語です。
旧ソ連圏では同性法案をも大きく変えた本作。
作品紹介や主演のイギリス人俳優トム・プライアーと、ウクライナ・キーウ出身の俳優オレグ・ザゴロドニーについても解説。
最後まで読んでいただけたら幸いです。
(冒頭画像:引用https://twitter.com/firebird_movie/)
『ファイアバード』:あらすじ
1977年、ソ連占領下のエストニアで役者になることを夢みる二等兵のセルゲイ(トム・プライヤー)は、軍務をまもなく終えようとしていました。
ある日、セルゲイと同じ基地にパイロット将校のロマン(オレグ・ザゴロドニー)が配属されてきます。
彼の毅然としたオーラに瞬く間に惹かれたセルゲイ。
一方、ロマンもまたセルゲイに特別な感情を抱いていました。
共通の趣味を通して距離が近づいていくふたりの気持ちは、やがて愛情へと変わっていきます。
しかし、同性愛が違法とされるなか2人の関係が発覚すれば厳罰に処されてしまう・・・
そんな状況下でクズネツォフ大佐はセルゲイとロマンの関係を怪しく思い身辺調査を始めるのでした。
タイトル『ファイアバード』、意味するものとは
劇中、ロマンがセルゲイを誘いバレエ『火の鳥』のリハーサルを観に行くシーンがあります。
セルゲイがのちに俳優という夢に向かうきっかけにもなり、ふたりの情熱的な愛の火をつけるきっかけにもなる重要なシーン。
セルゲイ役を演じたトム・プライヤーは、火の鳥について”再生”と解釈しているとインタビューで語っています。
ロマンはセルゲイを一度は諦めますが、また追いかける・・・
そんなふたりの終わることのない不滅の愛という意味がタイトルには込められているんですね。
許されぬ同性愛、愛するふたりの行く末とは?
ソ連支配下だったこの時代、同性愛は精神病であるといわれバレてしまうと逮捕されるといった厳しい現実が待っていました。
(※収容所では5年〜7年強制労働が課せられ、過酷な労働に生きて帰れる人はいなかったといいます。)
そんな状況下でも、ロマンに素直な気持ちを伝えるセルゲイ。
一方で真面目で無口なロマンは言葉ではなく態度で愛情表現をするタイプ・・・
ふたりの仲が深まるなかで、セルゲイを守るためにロマンのとった選択がセルゲイを傷つけることになります。
そしてセルゲイの新たな旅立ちとともに、ふたりは離れ離れに。
数年後、ロマンは同僚の女性将校ルイーザ(ダイアナ・ポザルスカヤ)と結婚します。
しかし、セルゲイを忘れることができないロマンは、彼の元へ。
妻をも傷つけてしまうことになったロマンとセルゲイの愛の行方に注目です。
真実に基づく物語、制作エピソードと主要キャスト
本作は、90年代に俳優セルゲイ・フェティソフがセルゲイ・ニジニー名義で執筆した回顧録『ロマンについての物語』を基に描かれた作品。
そして脚本は、セルゲイ本人にインタビューを重ねてレバネ監督とセルゲイ役を演じたトム・プライヤーが共同で手がけています。
主人公から見える世界を忠実に再現するため細かい描写にも注意したというレバネ監督。
徴兵の着替えについてや、ソ連の飛行管制センターの無線通信の手順などはもちろん、既に退職しているソ連の基地司令官、戦闘機パイロット、航空管制センターのオペレーター経験者へのインタビューも行ったそうです。
セルゲイ役:トム・プライアー
1990年12月2日生まれ、イギリス出身。
2014年、短編映画『Breaking the Circle』を手がけ脚本家デビュー。本作では共同脚本家としてクレジットされています。
2014年の映画『博士と彼女のセオリー』でロバート・ホーキング役、2014年『キングスマン:シークレットサービス』『Dusty and Me(2016)』『Blood On The Crown(2021)』に出演。舞台俳優、プロデューサーとしても活躍。
ロマン役:オレグ・ザゴロドニー
1987年10月27日生まれ、ウクライナ・キーウ出身。
2010 年、レシャ・ウクライナ国立アカデミック劇場に所属。
映画「DEMONS」「1942」でスクリーンデビュー。
本作に出演が決まるまでの経緯:オーディション用ビデオをきっかけに、モスクワでトム・プライヤーとペーテル・レバネ監督に会い出演が決まる。
現在はウクライナに住みながら自らデザインした洋服の売上が兵士の支援となる“Brave+1 ” を立ち上げ活動。デザインはミリタリー調で、腕には「ロシア軍よ、くたばれ」と書かれたワッペンが施されている。
ウクライナの映画、舞台、テレビ俳優、モデルとして活躍。
▶いずれも、公式ホームページ他参照
同性婚を法制化へ、社会を動かした本作の魅力
セルゲイとロマンそれぞれの恋が芽生え、やがて情熱的な愛へと変わりゆく姿は、そこに真実の愛があることをひしひしと伝えてきます。
ふたりが見つめ合い、キスを交わし肌を重ねるシーンは美しく映し出されうっとり。
相思相愛なのにこの時代がふたりを引き裂き悲恋となった結末は、多くの観た人たちの心を惹きつけたことでしょう。
2021年、本作の舞台となったエストニアではLGBTQ映画として本作が初めて公開され、大ヒットを記録しました。
その影響は法も動かし、2年後の2023年には同性婚法案が成立。
翌2024年に同性婚法が施行され、エストニアは世界で35か国目の同性婚承認国になりました。
愛し合うことに性別は関係ないと突きつけ、愛し合うことを誰も妨げることはできない。
映画を観た筆者が感じたことです。
この時代に翻弄された2人の真実の愛を映画を通して触れてみてはいかがでしょうか。
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《ライター:sanae》
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