映画『TAR/ター』(22)は、一度見ただけでは分からない難解な内容が話題となり、公開直後から様々な考察がなされている作品です。
「オーケストラの女性指揮者が精神的に狂っていく」というストーリーからイメージすると、映画『ピアニスト』(01)または映画『ブラック・スワン』(10)と似た世界観をもっている本作。
そのジャンルは「スリラー」という扱いになっていますが、ホラーやミステリー、さらにブラックコメディ的な要素も含まれていて、ジャンルレスな映画となっています。
本記事では、物語を考察するのが好きな方にはうってつけの映画『TAR/ター』の見どころを紹介していきます。
(冒頭画像:引用https://gaga.ne.jp/TAR/about/)
※これ以降の文章には多少のネタバレが含まれています。予備知識なしで映画を観たい方はご注意下さい。
映画『TAR/ター』:作品概要とあらすじ
作品概要:アカデミー賞6部門ノミネート
本作は『リトル・チルドレン』(06)のトッド・フィールド監督が、16年ぶりに手がけた長編作品となっています。
監督からの熱烈なオファーを受けたオスカー女優のケイト・ブランシェットが主人公を演じ、「最高の演技」と評されています。
また、ベネチア国際映画賞など数々の賞を受賞し、アカデミー賞では6部門でノミネートされました。
あらすじ:成功をおさめた指揮者、過度なストレスとは
リディア・ター (ケイト・ブランシェット)は、オーケストラの指揮者として頂点を極めていました。
並外れた才能と努力によって、女性として初めてベルリン・フィルの首席指揮者に就任し、音楽家として圧倒的な権力を手に入れたのです。
多忙なリディアは、マーラーの交響曲第五番の録音、新曲の制作、さらに自伝の出版など重圧のかかる大きな仕事を抱えていました。
そんな中、かつて教え子だった女性指揮者のクリスタから、情緒不安定なメールが届きます。
レズビアンであるリディアは、過去にクリスタと性的な交際をしていましたが、成功を手に入れた今となっては邪魔な存在でした。
リディアはクリスタへの返事をせず、その代わりに彼女をオーケストラ界から追放する内容のメールを楽団に送ります。
このことが原因で様々なトラブルへと発展します。
過度なストレスを受けたリディアは、精神に異常をきたしていき……。
●ケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)
誕生日:1969年5月14日生まれ
星座:おうし座
身長:174㎝
出身:オーストラリア
▶おすすめの代表作品(管理人・選)
※パトリシア・ハイスミス原作。セリフより、主演二人の表情が物語を進めていきます。
徹底した「音楽」シーン、リアリティの追求
主人公のリディア・ターは架空の人物ですが、実際にいるのではと錯覚するほどリアリティがあります。
映画の冒頭で、インタビューのゲストとして出演したリディアが自らを語る場面があります。
そこでは経歴が事細かに紹介され、生い立ちや音楽観などを、専門用語を交えながら饒舌に話します。
リディア・ターのキャラクター設定を異常なほど詳細に定めるとともに、オーケストラ業界を綿密に取材することで、リアリティを生み出しているのです。
このリアリティへのこだわりは、映画のテーマである「音楽」にも表れています。
本作には練習やリハーサルも含め、オーケストラの演奏シーンが多数出てきます。
その全ての指揮を主演であるケイト・ブランシェット自らが行い、それを同時に生録音して本編で使っているのです。
さらに※演奏した音源をCDとして実際に発売するという徹底ぶりです。
このリアリティの追求によって、説得力のある映画となっています。
■参考:『TAR/ター』(SHM-CD)【管理人・選】
※今作は、エルガーのチェロ協奏曲やマーラーの交響曲第5番からアイスランドの作曲家、ヒドゥル・グドナドッティルの新作まで、幅広いトラックリストを収録。実際のレコーディング風景、リハーサルの様子、映画の登場人物が聴く音楽、そしてリディアが取り組んでいる音楽の完成版を組み合わせたもので、監督フィールドが言う、「クラシック音楽制作に関わる仕事の複雑さ」をリスナーに体験させることによって映画を補完するものになっています。【引用:Amazon】
不安を煽る見えない何か、こだわりの演出
本作には楽器を演奏するシーン以外には音楽がつけられていません。
その代わりに、日常の様々な音が流れます。
ノックの音、メトロノームの音、冷蔵庫の音など。
それらによって、主人公のリディアは精神的に不安定になります。
あえて劇伴をつけないことで、不安を煽る音を強調しているのです。
また、鏡や窓ガラスや衝立など、現実との境界を表すものが劇中で多数登場します。
はっきりと見えないことによって、観客は想像が掻き立てられ、不安が募ります。
「見えない何かを想像させて、恐怖を搔き立てる」ジャパニーズホラーのような演出が使われているのです。
この恐怖の象徴として存在するのが「クリスタ」というキャラクターです。
クリスタは主人公のリディアを狂わせるきっかけとなる最も重要な登場人物のはずですが、劇中でその姿を現しません。
その存在を確認できるのは、メールの文面、送られてきた本、記事の写真のみであり、直接リディアと対峙することはありません。
はっきりと登場させないことによって、クリスタという存在の不気味さを際立たせているのです。
何度も観たくなる、魅力の「考察系映画」
この映画には、解決されずに終わる謎や伏線が数多くあります。
その中から主な事柄を挙げると、以下になります。
- スマホの画面でメッセージを打っているのは誰?
- 部屋にいた女の幽霊の正体
- ラストシーンの意味とは?
このように多くの謎の答えが示されていないため、それを解くには何度も観返さざるを得ません。
様々な考察がなされている理由はここにあります。
人は謎が残されると解きたくなり、答えを見つけた時に快楽を覚えるもの。
その心理を巧みに用いた、魅力溢れる映画となっているのです。
まとめ
「映画をどのように解釈するかについての権利は観客にあると私は考えている」という言葉をトッド・フィールド監督は述べています。
この映画は一つのテクストとして私たちの前に提示されているのではないでしょうか。
そこに正解不正解など存在せず、その答えは観客それぞれの自由な解釈に委ねられています。
映画『TAR/ター』は、「考察することそれ自体」を楽しむ作品なのです。
参考記事:TARのケイト・ブランシェット、マニッシュな魅力と磨かれたファッションアイコンを解説!
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こんにちは!ライターの「げん」と申します。
映像が好きで、テレビドラマのプロットなどを書いていました。また、恋愛小説をファッション誌で連載したこともあります。これらの経験をもとに、映画を通して恋愛を学ぶ記事などを書いています。
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