今回お話する映画『チョコレートドーナツ』は、1970年代の実話から生まれた映画です。
性的マイノリティへフォーカスし、差別や偏見に立ち向かう姿を描いています。
近年、国々で個人のセクシャリティを尊重する活動が見られるようになったものの、当事者への差別や偏見、人権侵害の問題は絶えません。
1989年にようやくデンマークが世界で初めて同性カップル(結婚)の権利を法的に認めました。
そのことからもわかる様に、本作は依然として同性カップルたちが受け入れられず、マイノリティへの風当たりがまだまだ強い時風に、ひとりの子どもの幸せを願い守ろうとしたゲイのお話なのです。
(冒頭画像:引用https://www.facebook.com/chocolatedonuts.movie/)
物語の舞台、1970年代のアメリカとはどんな時代?
1970年代のアメリカと言えば、暗く不安定な時代という印象を受けるのではないでしょうか。
ベトナム戦争の泥沼化、大統領暗殺、公民権運動など、60年代半ば頃から、アメリカ国内には混乱が見られます。
迎えた70年代。
加速するインフレや上昇する失業率、若者層やマイノリティの層をはじめとする国民は将来への不安を感じずにはいられない時代であったことでしょう。
しかし一方で、カルチャーの観点では興味深い発展が見られました。
60年代後半に登場したヒッピー、SF映画のようなファンタジーの物語、ゲイ・黒人・ラティーノなどのアンダーグラウンドなシーンからのちにメインストリームへ押しあがったディスコ。
政治への不信、経済不況、格差から目を背ける様な、或いは立ち向うかのような文化が盛り上がりを見せたのです。
本作の舞台は、まさにそういった時代背景をとらえています。
※劇中曲「I Shall Be Released」 (Studio Outtake – 1971)
魅力はストーリー以外にも!『チョコレートドーナツ』作品情報
実在したルディ、映画化までの道のり
オリジナルのシナリオは、ジョージ・アーサー・ブルームによって書かれました。
彼の近所に住んでいたルディというゲイの男性は、同じアパートに住む肉体的・精神的に障害を持ち薬物依存症の母親から育児放棄されていた子どもと何度か一緒に過ごしていました。
そんなふたりの関係にインスパイアされて、養子縁組についてのフィクションが出来上がります。
映画化の企画が立ち上がったものの上手くいかず、その後20年間このシナリオは忘れられることになってしまいました。
2011年、ジョージ・アーサー・ブルームの息子で音楽監督のPJブルームが見せたシナリオを読み、崩れ落ち涙を流したトラヴィス・ファイン監督。
そして映画化が果たされました。
トラヴィス・ファイン監督はインタビューにて、
「この物語が持っている痛みは、ゲイの痛みでも、ストレートゆえの痛みでもない。
白人の痛みでも、黒人の痛みでもない。
裕福な人間の痛みでもなければ、貧しい人間の痛みでもない。
愛する子どもを、自分の意思に反して取り上げられたなら誰にでも感じられる普遍的な痛みなんだ。」
と語っています。
(引用:トラヴィス・ファイン監督 インタビュー|『チョコレートドーナツ』 オフィシャルサイト)
本作がデビュー作!注目は、俳優アイザック・レイヴァの無言の語り
マルコ役を演じたアイザック・レイヴァは、マルコと同じダウン症候群を持つ俳優です。
トラヴィス・ファイン監督は彼からマルコの役柄を作り出している為、劇中のマルコはセリフのない表情演技が多く取り込まれています。
想像力を掻き立てる表情やしぐさ、アイザック・レイヴァが演じるマルコから目を逸らせなくなることでしょう。
『チョコレートドーナツ』:あらすじ
1979年、アメリカ・カリフォルニア。
ある夜のこと、シンガーを目指しながらショウダンサーとして日銭を稼ぐルディ(アラン・カミング)と、ゲイであることを隠しながら検事局で働いていた弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)は出会い、互いに惹かれて愛し合いました。
ルディの住むアパートの隣には、母親から愛情を受けずに育ったダウン症の子どもマルコが住んでいます。
ある日母親が薬物所持で逮捕され、家庭局に連れていかれてしまったマルコ。
しかしマルコは家に戻ろうと施設を抜け出しひとり夜道を歩いていたところ、再びルディたちと出会いました。
マルコを守りたい、そこで2人は「いとこ」と関係を偽りマルコと共に暮らし始めます。
新たな生活、夢への道をスタートさせ、互いにかけがえのない存在となっていく3人。
ところがある日、ルディとポールがゲイのカップルであることが周囲に知られ、2人はマルコと引き離されてしまいます。
2人は世間の差別と偏見にあらがうべく、大切なマルコを取り戻す裁判に挑むことを決意したのです……。
参考記事:青春ムービー『Love, サイモン 17歳の告白』ゲイであることの告白と葛藤、男子高生の物語
さいごに:ライターコメント(by sayao)
本作はいかにもマジョリティの人たちへ分かりやすく表現された作品の様に思います。
わたしたちは大概、性に敏感です。
3人のマイノリティを取り巻く人たちの言葉、態度、行動からは、決して他人事とは思えない現実味を感じました。
これはマイノリティたちの話というだけでなく、困難から逃げず乗り越えようと努力する大切さを考えさせてくれました。
《ライター:サヤヲ》 クリックで担当記事一覧へ→
ミステリー小説とカレー、そして猫を愛するサヤヲといいます。
様々な視点から映画をたのしむきっかけとなれれば幸いです。
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