今回紹介する映画は、『クリーン ある殺し屋の献身』。
一人の少女をめぐって元殺し屋の孤独な男が、危険な戦いに身を投じるという、ある意味ジャン・レノ、ナタリー・ポートマン出演の映画『レオン』を彷彿する物語。
本作ではアカデミー俳優の呼び名も高いエイドリアン・ブロディが、元殺し屋の孤独な清掃員を熱演、抜群の存在感を醸し出しています。
映画『クリーン ある殺し屋の献身』作品情報
かつて凄腕の元殺し屋として名をはせながら、足を洗いスラム街でひっそりとゴミ清掃員として暮らす男が、一人の少女との出会いで救われ、彼女を助けるための戦いに挑む姿を描いたアクション。
『Grace』『キラー・ドッグ』などを手掛けたポール・ソレットが監督を担当しました。
主演は『戦場のピアニスト』でアカデミー主演男優賞を獲得、以後『キング・コング』『プレデターズ』『グランド・ブダペスト・ホテル』と、話題作で抜群の存在感を見せるエイドリアン・ブロディ。
ブロディは『キラー・ドッグ』に続いてソレット監督とのタッグを組んでおり、さらに製作、脚本、音楽と作品作りに関わり、幅広い才能の一端を見せています。
映画タイトル | クリーン ある殺し屋の献身 |
原題 | Clean |
監督 | ポール・ソレット |
出演 | エイドリアン・ブロディ、グレン・フレシュラー、リッチー・メリット、チャンドラー・アリ・デュポン、ミケルティ・ウィリアムソン、ミシェル・ウィルソン、ジョン・ビアンコ、RZARZA ほか |
公開日 | 2022年9月16日(金) |
公式サイト | https://clean-kenshin.com/ 【YouTube:予告編】 |
■2021 /アメリカ/カラー/94分
映画『クリーン ある殺し屋の献身』あらすじ
とあるスラム街で清掃員として孤独な生活を送るクリーン(エイドリアン・ブロディ)。
近所に住むディアンダ(チャンドラー・アリ・デュポン)という少女は、彼が過去に追った心の傷にどこか重なるところもあり、どうしても放ってはおけない存在でした。
ある時ディアンダは、街を縄張りとしている麻薬ギャングたちに目をつけられ、誘拐されてしまいます。
クリーンはギャングたちの根城に飛び込み、彼女を救い出すとともにギャングたちを半殺にしてしまいます。
ところが半殺しにされたギャングの中には、ギャングのボスであるマイケル(グレン・フレシュラー)の息子がおり、マイケルは復讐のために血眼になってクリーンを追いはじめます。
こうしてディアンダのため、そして自身の心の傷に向き合うため、クリーンは1人で彼らに立ち向かっていくのでした……。
「らしさ」が生きる、エイドリアン・ブロディならではの存在感
本作の見どころは、なんといっても主人公を務めたエイドリアン・ブロディならではの、クールな元『殺し屋』ぶり。
今も語り継がれる、アカデミー賞主演男優賞受賞作品『戦場のピアニスト』での存在感、それはまさしく「ブロディ」らしさをそのまま表したようなものでした。
具体的には、どんなに大きな変化が周りで起きようと、ほとんど表情を変えないままで、かすかに「憂い」のようなものを見せるもの。
この大きな変化を見せない演技、雰囲気作りの中で、どこかに自身の感情を見せることこそ「ブロディ」らしさの真骨頂といえるでしょう。
本作におけるクリーンという存在は、まるで円の中心に置かれたコンパスの針のようにブレず、かつ動じない存在。
それゆえに彼の直接的には見えない感情の変化そのものが、物語のアウトラインをしっかりと描いてゆきます。
元殺し屋という薄汚れた、危険な世界に生きた男の、クールかつ哀愁味を帯びた生き様。
そこにまさに「ブロディ」らしさがぴったりとマッチしています。
●エイドリアン・ブロディ(Adrien Brody)
誕生日: 1973年4月14日生まれ
星座:おひつじ座
身長:185cm
出身:アメリカ合衆国
▶おすすめの代表作品
戦場のピアニスト(作品概要)
※ブロディを語るうえで、この作品は外せません!
※「感情をあまり表に出さない」演技の印象もあるブロディが、新し境地にチャレンジした感もある作品。
「ありきたりのアクション」で終わらない、真のリアリティ
一方、本作にはどこか生々しい現実を追求した姿勢も見られます。
冒頭にも書きましたが、本作のベースの中には、物語の人物構成よりリュック・ベッソン監督が手掛けた『レオン』を感じさせるところがあります。
ただし、本作はベッソンの描いたある意味「オシャレな世界観」、小洒落たような映像感とは違い、どこかリアリティーを深く追求したものとなっています。
ヒロインのディアンダは黒人。
クリーンのバックグラウンドは定かではありませんが、演じたブロディはアメリカ人ながら、親よりユダヤ系の血を受け継いでいます。
そして敵対するギャングのボス・マイケルは、ある意味極右的暴力性すら感じさせる白人男性。
この人物構成は、いまだアメリカ社会の底辺に隠れながら根付いている差別意識の象徴のようなものを感じさせるところでもあります。
そして差別される側、つまりクリーンと呼ばれる元殺し屋の激しい戦いが、物語のメッセージ的な要素となっているようにも見え、物語の味わい深さをより一層濃いものとしています。
「クリーン」というタイトルに込められた真意
生きるか死ぬかの生々しく激しい鍔迫り合いも多く描かれたこの物語。
薄汚れた印象もある物語の中で、主人公が「クリーン」という名で呼ばれているのはユニークでもあり、意味深いものであるとも感じられます。
悪役であるマイケルのほかには、人々には笑顔などほぼ見られない物語ですが、壮絶なアクションの一方でふと見られる心の触れ合いなども本作の魅力の一つ。
ラストシーンはどこかフワフワした雰囲気で物語を締めくくっていながら、なぜかポジティブな方向に作品を向けている印象も感じられます。
タイトルまでも「クリーン」という名にした意図は、主人公の名を取ったということ以上に物語の意味深さを感じさせるものであるといえるでしょう。
《ライター:黒野でみを》 クリックで担当記事一覧へ→
40歳で会社員からライターに転身、50歳で東京より実家の広島に戻ってきた、マルチジャンルに挑戦し続ける「戦う」執筆家。「数字」「ランク付け」といった形式評価より、さまざまな角度から「よさ」「面白さ」を見つめ、追究したいと思います。
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