雄大な自然は、時には恐ろしささえ…
今回は心あたたまるアイスランド映画をご紹介します。
アイスランドは北欧諸国の一つ、首都はレイキャビク。
日本と比べて、一年を通して気温は低く夏は最高でも10度台、冬はマイナス5度台と寒暖差が緩やかです。
夏には一日中太陽が沈まない白夜、冬にはオーロラの現象が見られます。
火山島として温泉が有名であり、世界最大の露天風呂ブルー・ラグーンがあります。
アイスランドは自然の雄大さ、時に恐ろしさを感じられます。
近年高い評価の、アイスランド映画
また、北欧では世界的に男女平等・ジェンダーフリーの考え方が社会へ広く浸透しており、中でもアイスランドは特に理解が先進的と言えます。
そんなアイスランドの映画は、近年国際映画祭で高い評価を得ています。
以下よりご紹介する2作は、各地で称賛を受けているのはもちろんのこと、
厳しい環境や状況で生きていく姿、変わることのない優しさ、思いやり、絆、目に見えない心、
それらの重要性に改めて気づきを与えてくれることでしょう。
1.映画『好きにならずにいられない』(15)
あらすじ
アイスランド・レイキャビクの空港で荷物係として働く43歳独身のフーシ(グンナル・ヨンソン)。
母親との2人暮らしで女性経験のない大男。
単調な日々を過ごすフーシのささやかな楽しみは、戦車や兵士の小さなフィギュアを集めてジオラマを作ること、ラジオ番組に大好きなヘビメタをリクエストすることです。
職場では巨体をからかわれ、同じアパートに引っ越してきた少女と遊んであげただけで誘拐犯と間違われてしまいます。
そんなフーシを見かねた母親と母親の彼氏は、出会いの機会を作るべく誕生日プレゼントにダンススクールのクーポンをプレゼント。
母親の期待に応えようとしぶしぶ出かけたフーシは、そこで美しい女性シェヴン(リムル・クリスチャンスドッティル)と出会いました。
女性への恋心が芽生えたフーシだったが、女性は心に傷を負っていた。
愛する女性を守るため、これまで閉鎖的で単調な日常を送っていたフーシからどんどん変化していくのです。
作品解説
本作は、フーシ役を務めたグンナル・ヨンソン本人をモデルに作られた作品です。
ダーグル・カウリ監督の脚本作品には度々風変わりで少し浮いたキャラクターが登場します。
本作のインタビューで語られていますが、ダーグル・カウリ監督が描きたいのは最高の登場人物とその人物の状況であり、アウトサイダーをテーマにしているのではないようです。
作中のフーシはとにかくピュアで心優しい男性です。
その見た目でからかわれたり怪しまれたりと損を被っているように見えますが、フーシの周りの特に親しい登場人物たちに注目すればフーシという人物の素敵な一面に気づくことでしょう。
本作の原題は「Virgin Mountain」=「女性経験がない、山の様な大男」です。
邦題のセンスの良さから、日本語という言語の奥深さ感じられますね。
「好きにならずにいられない」、果たして誰の言葉なのでしょうか…?
【第65回ベルリン国際映画祭「ベルリナーレ・スペシャル」部門に出品。第14回トライベッカ映画祭で作品賞・主演男優賞・脚本賞を受賞など】
2.映画『ハートストーン』(16)
あらすじ
東アイスランド、雄大で美しい自然の広がる小さな漁村。
ソール(バルドル・エイナルソン)は母と、ラケルとハフディスの対象的な2人の姉に囲まれて暮らしています。
幼馴染で親友のクリスティアン(ブラーイル・ヒンリクソン)と共に日々を過ごし、彼らは思春期を迎えました。
大人びた少女ベータに恋心を抱いたソールを後押ししようとするクリスティアン。
日を追うごとにベータとソールの距離は縮まっていきます。
そんな親友を見つめるクリスティアンは複雑な表情を浮かべていました。
ある日ソールの姉たちが開いたホームパーティーで、ソールとクリスティアンがモデルとなり描かれた2人の見つめ合う絵が居合わせた友人たちに見つかってしまいます。
皆が顔見知りで、古くからの慣習が根付く漁村。
ソールとクリスティアンに関する憶測や噂は瞬く間に広まり、容赦なく向けられる好奇の目が2人の関係をギクシャクさせてゆくのです。
作品解説
本作はグズマンドゥル・アルナル・クズムンドソン監督の少年時代の経験が元になっています。
10代で自ら命を絶った幼馴染の少年、絵を描く姉、自然や、少年時代の心から見た大人たちの姿・世界。
やがて登場人物たちは新たな性格を手に入れて物語の中で歩き始めていく、そのような執筆スタイルが好きとのこと。
作中至るシーンで示唆されている「思春期」。
心と体が大人に変わっていく成長過程、早く大人になりたい、だけど腐った大人にはなりたくない、そんなメンタルの時期だったと思い出せるのではないでしょうか。
本作における「子ども」の描かれ方、「大人」の描かれ方の違いにも注目です。
原題はアイスランド語で「Hjartasteinn」。
英題で「Heartstone」。文字通り「Heart(ハート)」と「stone(ストーン)」をくっつけた造語です。
それぞれに、「Heart」=「暖かい感情」、「stone」=「厳しい環境」という意味があり、詩的センスを感じるタイトルとなっています。
【2016年トロント国際映画祭のディスカバリー部門で上映。第73回ヴェネツィア映画祭でクィア・ライオン賞を受賞。アイスランド映画として初めてヴェネツィア映画祭のコンペティション部門で上映など】
さいごに:ライターコメント(by Sayao)
国、言語、文化、歴史、それらは映画を形作るマテリアルに過ぎません。
同じように、しかし各々に思春期を悩み、初めてを経験し、映画好きの私たちは日々、一作一作の映画と出会い心を動かされていると思います。
アイスランド映画とご紹介しましたが、あくまで枠組みです。
だからこそ、この映画たちから感じられる何かが世界から評価を得ているのだと思います。
参考記事:北欧フィンランド映画『ラスト・ディール』、老美術商が人生を賭けた仕事の行方は?
参考記事:北欧ホラー『ハッチング – 孵化 -』異常な家族の姿!母親などのファッション演出を解説
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ミステリー小説とカレー、そして猫を愛するサヤヲといいます。
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