ホアキン・フェニックスといえば、映画『ジョーカー』(19)で狂気の演技を披露したことで有名ですが、その6年前に撮られた映画でもヤバい演技を披露していました。
この映画は、第69回ヴェネツィア国際映画祭で、銀獅子賞(監督賞)を受賞。
主演のホアキン・フェニックスとフィリップ・シーモア・ホフマンは、男優賞を共同受賞しています。
今回は、そんなホアキンの演技が気になる映画『ザ・マスター』のキャスト・あらすじ・見どころを紹介します。
それでは、どうぞ!
映画『ザ・マスター』・作品情報
まずは、映画『ザ・マスター』の予告編・作品情報です。
映画タイトル | ザ・マスター |
原題 | The Master |
監督 | ポール・トーマス・アンダーソン |
出演 | ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミーアダムス、ラミ・マレック、ローラ・ダ―ン、アンビル・チルダース、ジェシー・プレモンス他 |
公開日 | 2012年 【YouTube:予告編】 |
映画『ザ・マスター』:あらすじ
■原題:『The Master』。宗教の教祖の意味にだけに終わらない、深い意味とは…。
■第2次世界大戦直後のアメリカ。
■海軍帰還兵のフレディ・クエルは、赴任先からアメリカへ戻るが、戦争のストレスからアルコール依存賞を患っていた。
■社会生活にうまく順応できない彼は、写真撮影の仕事を得るがそれもうまくできない。
■そんな日々の中で、ある事件をきっかけに逃げ込んだ船の中。
フレディは、宗教団体の指導者で”マスター”と呼ばれる男、ランカスター・ドッドに出会う。
■ドットには人々の悩みを解放する独自の宗教メソッドがあり、フレディは心の平静を取り戻す一方で2人の間の奇妙な絆も深まっていくことに…。
監督のポール・トーマス・アンダーソンについて
映画『ザ・マスター』の監督を務めたのは、ポール・トーマス・アンダーソンです。
テレビ番組のアシスタントなどを経て、短編映画『シガレッツ&コーヒー』(92)で短編監督デビューを果たします。
その4年後には、映画『ハードエイト』(96)で長編監督デビュー。
初老の賭博師と若者の親子のような関係を描いたフィルムノワール作品で、デビュー作とは思えない才能を感じさせています。
その後、ポルノ産業の光と影を映し出した『ブギーナイツ』(97)、10人の男女を描いた群像劇『マグノリア』(00)、冴えない男がある出来事をきっかけに騒動を起こす姿を描いた『パンチ・ドランク・ラブ』(02)、カリフォルニアの石油王の栄光と挫折を描いた『ゼア・ウィル・ビー・ブラット』(07)、トマス・ピンチョンの探偵小説を映画化した『インヒアレント・ヴァイス』(14)などの作品を発表。
ヴェネツィア国際映画祭、ベルリン国際映画祭、カンヌ映画祭といった世界の3大映画祭を制している天才映画監督です。
(個人的には、『マグノリア』の空からカエルが大量に降ってくるシーンが衝撃的で、いまだに頭から離れません。
今回の『ザ・マスター』は、あるカルト教団を調査している中で、ヒントを得て作られた作品だといいます。
映画『ザ・マスター』:主要キャスト
ここでは、映画『ザ・マスター』の主なキャスト4人を紹介します。
ホアキン・フェニックス/フレディ・クエル役
主役のフレディ・クエルを演じるのは、ホアキン・フェニックスです。
映画『スペースキャンプ』(86)で映画デビュー。
若くして亡くなった実の兄で俳優のリバー・フェニックス(70-93)の急死から、しばらく俳優活動から遠ざかっていましたが、映画『誘う女』(95)で、俳優活動を再開。
リドリー・スコット監督の『グラディエイター』(00)、『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』(05)、スパイク・ジョーンズ監督の『her 世界でひとつの彼女』(14)、ガス・バン・サント監督の『ドント・ウォーリー』(18)など、数々の作品に出演。
最近では、2019年公開の映画『ジョーカー』での、虐げられていた男が悪のカリスマになるまでを描いた姿が印象に残っています。
今後は、リドリー・スコット監督と再タッグを組む『Kitbag(原題)』(2023年公開予定)で、ナポレオンを演じることが決まっています。
フィリップ・シーモア・ホフマン/ランカスター・ドッド役
宗教団体の指導者の”マスター”ランカスター・ドットを演じるのは、フィリップ・シーモア・ホフマンです。
『Triple Bogey on a Par Five Hole』(91)で映画デビュー、アル・パチーノ主演の『セント・オブ・ウーマン 夢の香り』(92)で注目を集めると、ドット・ソロンズ監督の『ハピネス』(98)、『パッチ・アダムス トゥルー・ストーリー』(98)、『あの頃ペニー・レインと』(00)、トム・クルーズ主演の『M:i:III』(06)などの作品に出演し、名バイプレーヤーぶりを発揮。
(本作品のポール・トーマス・アンダーソン監督とは、『ハードエイト』(96)、『ブギーナイツ』(97)、『マグノリア』(00)、『パンチドランク・ラブ』(02)にも出演する盟友です。)
『カポーティ』(05)では、作家トルーマン・カポーティを演じて、第78回アカデミー賞の主演男優賞を受賞。
その演技には、ますます磨きがかかり、名優への道をさらに突き進むかに思えました。
しかし、残念ながら、2014年2月に、薬物の過剰摂取のためアパートの一室で死去。
映画界は、惜しい才能をなくしてしまいました。
彼には、現在17歳になる息子がいます。
クーパー・ホフマンです。
ポール・トーマス・アンダーソン監督は、クーパーを主演に据えた新作『リコリス・ピザ』を撮りました。
監督は、どのような気持ちで彼をレンズ越しに覗いていたのでしょうか?
クーパー・ホフマンの父親譲りの演技にも注目です!
参考記事:『リコリス・ピザ』あらすじ&異色キャスト!新人女優アラナ・ハイムとあの俳優が登場
エイミー・アダムス/ランカスター・ドットの妻ペギー・ドッド役
マスター、ランカスター・ドッドの妻ペギー・ドッドを演じたのは、エイミー・アダムスです。
『私が美しくなった100の秘密』(00)で映画デビュー。
『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02)で注目を集めると、数々の作品に出演。
『チャーリー・ウィルソン・ウォー』(07)、クリント・イーストウッド監督の『人生の特等席』、『バイス』(18)などの作品で、良い演技を披露しています。
最新出演作は、『ディア・エヴァン・ハンセン』(21)です。
参考記事:映画『ディア・エヴァン・ハンセン』キャストとあらすじ!劇中・サントラ版の歌も素晴らしい!
ラミ・マレック/クラーク役
マスターの娘の婚約者クラーク役を演じるのは、ラミ・マレックです。
映画『ナイトミュージアム』シリーズ(06、09、14)で広く知られるように。
『ボヘミアン・ラプソディ』(18)で、第91回アカデミー賞で主演男優賞を受賞。
『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(21)では、悪役として大抜擢されています。
次回作は、クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー(原題)』で、2023年7月公開予定です。
映画『ザ・マスター』:見どころ
ここでは、映画『ザ・マスター』の見どころを紹介します。
ひとつの場所にとどまることができない男、フレディ・クエルを怪演
ホアキン・フェニックス演じるフレディは、第二次世界大戦で精神のバランスを崩し、アルコール依存症になってしまった男。
(本作でのホアキンは、酒の影響で唇が左に微妙に上がってしまっています。作品中にこの表情をずっと作り続けているのですが、スゴイ!としかいいようがありません。)
突然、怒り狂い暴れ出したりと、情緒不安定な部分を持つ彼。
現場ではホアキンの演技が本当に予測不能で、スタッフもなにをするかわからない状態で撮影したといわれています。
(撮影しているスタッフたちがそうなので、観る人はもっとわけがわからないのではないでしょうか?)
フレディは1つの場所にとどまることができない人間です。
何かから逃げて逃げて逃げまくっているように見えます。
人に追われて畑をひたすら走り続けるシーンやバイクで疾走するシーンは、美しさすら覚えました。
(映画『ジョーカー』にも、このようにひたすら逃げるシーンがあったように思います。)
内面に孤独と焦燥感、「ランカスター・ドッド」を好演
フィリップ・シーモア・ホフマンの演技にも注目です!
宗教団体コーズのマスター、ランカスター・ドッド。
いかがわしさを持ちながらも、しばし落ち着いた雰囲気で紳士的な振る舞いを見せるマスター。
しかし、内面は孤独と焦燥感を抱えています。
そして、激しさも!
(自分の意見と違う人間に対して突然キレて、「豚野郎!」などと罵ったり。)
映画は、この2人の演技でほとんど成り立っているといっても過言ではありません。
ホアキン・フェニックスとフィリップ・シーモア・ホフマンの演技合戦
ザ・マスター(作品情報)
マスターが、フレディに尋問のような宗教メソッドを行うシーン。
執拗に自分への過去の質問をされている内に何かが解放され、感情が張り裂けんばかりに叫んだり、泣き出したりするホアキンの演技は、なんとも常軌を逸していて迫力満点でした。
これに対して、冷静さを保ちつつも、感情を微妙に動かされるフィリップ・シーモア・ホフマンの表情だけの演技も秀逸でした。
フレディとマスターが牢屋に入れられるシーン。
独房のトイレを破壊したり、頭でベッドを揺り動かす激しい行動を取るフレディと、それをなだめようとするマスター。
マスターは、彼を落ち着かせようとしますが、次第にお互いの感情が爆発し、「くたばれ!くたばれ!」「お前なんか役立たずだ!」と罵り合うことに。
(この感情の爆発は、台本通りに演じたというより、2人の即興から生まれたもののように思えました。)
特別な感情を抱きながらも包み込むようにフレディを見守るマスター。そして、マスターを慕うフレディ。
この関係は、マスターと弟子という枠を超え、親子のような、恋人のような、生まれる前から結ばれている運命のような、不思議な関係でした。
劇中で流れる代表的な歌、歌詞にも注目
映画『ザ・マスター』は劇中に流れている音楽もポイント。
その歌詞が、主人公たちの心情を読み取るカギとなります。
ここでは、気になった曲を3曲紹介します。
1.『GetThee Behind Me Satan』
ホアキン・フェニックス演じるフレディが、写真家としての職を得て働くときに流れる曲です。
「悪魔が私の身体の後ろに張り付いている」という歌詞の曲。
この曲は、エラ・フィッツジェラルドが歌っています。
Get Thee Behind Me Satan(Ella Fitzgerald
2.『ショパン 別れの曲』
ホアキン・フェニックス演じるフレディが、昔の恋人の元を訪れるシーンでは、ショパンの別れの曲が流れています。
フレディの切ない気持ちを代弁するようなメロディ。
本編では、この歌がジャズ風にアレンジされていて、聴きごたえがあります。
ここでは、仲道郁代さんの演奏を。
3.『On A Slow Boat To China』
物語のラストで、フィリップ・シーモアホフマン演じるマスターが、フレディに
「君はいつも自由だな。好きな場所に行く。行くがいい。勝手気ままに生きろ!」
というセリフのあとに歌う歌です。
「君をさらって乗せよう。ゆっくり進む中国行きの船に。二人だけで乗っていこう」という詞なのですが、劇中では、別れの切なさを表現しています。
本来この曲は、スタン・ゲッツやソニー・ロリンズ、エラ・フィッツジェラルドなどなど、有名なジャズプレイヤーやボーカリストに演奏されてきた、アップテンポな曲です。
ここでは、ドイツのジャズ・ボーカル「ガブリエラ・コッホ」の歌う『On A Slow Boat To China』を。
まとめ
映画『ザ・マスター』のキャスト・あらすじ・見どころについて紹介しました。
この作品は、わかりやすい単純明快なストーリーの映画というわけではなく、なかなか解釈が難しいタイプの映画です。
1度観てもよくわからないかもしれませんが、何度か観ていくうちに解釈が変わる味わい深い映画らしい作品ともいえます。
ホアキン・フェニックスと今は亡きフィリップ・シーモア・ホフマンの圧巻の演技を見るだけでも価値があるのではないでしょうか?
映画『ザ・マスター』、気になった方はぜひご覧になって下さい。
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