今回ご紹介する作品は近年注目が集まるA24製作映画、『カモン カモン』(21)です。
監督・脚本は『20センチュリー・ウーマン』『人生はビギナーズ』のマイク・ミルズ。
主演を『ジョーカー』『her/世界でひとつの彼女』のホアキン・フェニックスが演じています。
今記事のテーマは「家族」。『カモン カモン』そして、マイク・ミルズ作品を通じて彼の家族観を考察していきたいと思います。
実は「家族」がちょっと苦手、と思っている人はぜひ参考にして下さい。
(冒頭画像:引用https://www.facebook.com/cmoncmonmovie/)
映画『カモン カモン』:あらすじ
ニューヨークでジャーナリストとして働くジョニー(ホアキン・フェニックス)は、ある日ロサンゼルスに住む妹から頼まれ、彼女の9歳になる息子ジェシー(ウディ・ノーマン)の面倒を見ることに。
まだ幼いジェシーは天邪鬼な態度でジョニーを困惑させるのですが、共同生活をおくる中で2人の距離は次第に縮まっていきます…。
マイク・ミルズ監督の家族観
マイク・ミルズ監督は家族を題材に作品づくりをすることが多い監督です。
しかしながら、マイク・ミルズ監督が提示する家族像は、規範的でいわゆる「普通」の家族とは違っており、どこか「いびつさ」を含んでいます。
過去作の『人生はビギナーズ』では「自分はゲイだ」と告白した父親と息子の関係性を、『20センチュリー・ウーマン』ではシングルマザーの母親と息子の関係性を描いていました。
本作でも叔父と甥っ子の疑似家族関係、そして甥っ子ジェシーの父親は精神を病んでいるという描写があります。
ホームドラマで描かれるような、あたたかくて愛にあふれた家庭。
そういったいわゆる「健全な家族」像にコンプレックスがある筆者はマイク・ミルズ作品を観ると救われたような心地になります。
一筋縄ではいかない共同生活
ひょんなことから、甥っ子ジェシーの親代わりになったジョニー。
やんちゃで好奇心旺盛なジェシーは、ジョニーに対して「なぜ結婚しないの?」といった鋭い質問を容赦なくぶつけて彼を困らせることも。
しかしジェシーの行動は、単なる「こどもらしさ」からくるものだけではないのです。
行動で示される、「愛情不足」のSOS
ある時ジェシーはジョニーとの買い物中、わざといなくなった振りをして、その後何事もなかったようにジョニーの前に姿を現します。
これはいわゆる「試し行動」の一つで、大人の気を引くためや、気持ちを探るためにわざと迷惑をかける行為です。
この試し行動には、愛情を確認したいというねらいがあると言われています。
(ちなみに試し行動は子どもだけでなく、愛着障害、愛情不足のある大人にも見られる行動です)
ジェシーの行動に手を焼いていることをジョニーが妹に相談する場面で、妹がそれとなく説明していますが、幼いジェシーにとって両親不在の中、突然叔父との生活を強いられるというのは大変不安な状況。
自由奔放に振る舞っているように見えても、ジェシーが愛に飢えていることは明らかなのです。
「分かり合えなさ」から逃げない
度重なる試し行動、突飛な発言に振り回されながらも、ジョニーは根気強くジェシーと向き合い続けます。
家族は最も身近な他人、と言われるように、たとえ血縁関係の結びつきがあったとしても、人は相手を完全に理解することはできません。
幼いジェシーでさえもそれを感じ取っています。
「普通」の家族から外れてしまったジェシーの苦しみをジョニーはそのまま理解することはないでしょうし、彼が欲している愛情を与えることはできないかもしれない。
それでもジョニーは「大丈夫じゃなくていい」と何度でもジェシーを抱きしめることで、お互いの「分かり合えなさ」もひっくるめて愛を示していくのです。
モノクロから感じられること
本作は白黒のモノクロ映画ですが、実際は黒と白の間には無数のグラデーションが存在します。
人間にも同様にグラデーションがあります。
人間は状況に応じてその人の振る舞いが変わるので、一時の印象でその人を評価することはできません。
人間関係には一つの正解、解決策なんてものはなく、極めて複雑で年を取ってもわからないことだらけ。
ジョニーとジェシーもグラデーションを生きる中で時にぶつかったり、慰め合ったりしながらお互いの距離感を確かめていく。
モノクロ映像がつくるやわらかな輪郭は、そんなふたりをやさしく見守っているようでもあります。
まとめ:マイク・ミルズ監督の包容力
マイク・ミルズ監督は、家族表象に着目した作品を撮る傾向にあります。
彼の作品において、登場人物たちの家族は皆何かがずれていたり、欠けたりしているのだけれど、マイク・ミルズ監督はそのいびつさをあたたかく包む力があります。
「家族」にしんどさを抱えている人には特におすすめしたい監督です。
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※著者:usao
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