最近、「新感覚ホラー」という表現で、新たなジャンルがなりそうな映画が話題になっています。
新感覚ホラーに、まだ確定した定義はありません。
だからこそ、一旦「新感覚」と仮置きしているような気もしますが、今、意外と人気なのです。。
その代表が、フローレンス・ピュー主演『ミッドサマー』。
言い方は別にしてホラーというだけあって、ハッキリ言って怖い!映画です。
しかし、ホラー映画につきものの「暗闇」は一切なく、逆に透き通るような青空とお花畑の中で物語は進んでいくのです。
確かに、これまでのホラーとは違う「新感覚」がピッタリきます。
ホラー嫌いの人が考える、ホラーの定番とは
かつての定番ホラーには、いくつか顕著なセオリーがあったのも事実。
たとえば、最初に登場するのは明るく屈託のない女性たち。続いて、出かけた先が曰く因縁のある場所。
暗闇・静けさを演出する重低音、突如現れる影と予兆…
クライマックスでは、目をそらしたくなる血しぶきと周囲をつんざくような金切り声が続くことに。
これだけでも、女性を中心にホラー嫌いの人たちの理由は揃っています
一方、恐怖におののきながら惨殺されていく女優も、いわば新人女優の登竜門のような配役。
仮に有名女優だとしても、ホラー部門で有名なだけで、大河系やロマンス系のトップ女優、話題女優が金切り声を上げ殺されることはまずありません。
これが、古典的なホラーではないでしょうか。
『ゴーン・ガール』が、ホラー映画の常識を変えた!
ところで、『ゴーン・ガール』をご存じでしょうか。
行方不明になった主人公の女性エミー(ロザムンド・パイク)を探す夫(ベン・アフレック)の話です。
あんなに可愛かったエミーは、なぜ失踪したのか?
この謎が解き明かされていく過程で、とんでもない恐ろしいエミー像が浮き彫りになってきます。
演じるのは、ヒロインもロマンスもこなす、トップ女優のロザムンド・パイク。
まさかの展開で、彼女は怪物になり下がってしまうのです。
ちなみに、彼女はこの作品で数々の映画賞を総ナメにし、アカデミー賞主演女優賞にノミネートまでされています。
ここでひとつ、ホラー映画の節目が変わったかもしれません。
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『ミッドサマー』が支持される、ホラーの「新感覚」とは?
『ミッドサマー』の主人公ダニーを演じるのは、今売り出し中のフローレンス・ピュー。
すでに、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(助演女優賞ノミネート)や『ブラック・ウィドウ』にも登場する話題女優です。
映画の出だしで、ダニーの両親が自殺する場面があるものの、それが定番ホラーの血しぶきかと言うとそんな映画ではありません。
後半に繋げる、ダニーのトラウマになった深い悲しみとして描かれています。
そんなダニーを気遣う恋人クリスチャン(ジャック・レイナー)も一応、ちゃんといて彼女に支えようとします。
(ただ、「一応」が今作の伏線でもあるのですが、煮え切らない男との関係が恐ろしい結末に繫がっていきます。)
気晴らしで参加した、スウェーデンの「夏至祭」
両親の自殺が原因で、うつ状態の続くダニー。
ある日、大学のクラスメイト、ペレからクリスチャンや他の仲間と一緒に自分の出身であるスウェーデンの「ミッドサマー(夏至祭)」に行かないかと誘われます。
気分展開のつもりで訪れた、ホルガという地方の夏至祭では、90年に一度の祝祭が催されようとしていました。
さて、この映画の特徴のひとつが、美しい花が咲き乱れ北欧特有の太陽が沈まないという環境です。
そんな村で、楽し気に行われるさまざまな祝祭の儀式。
ダニーは出発前に起こった家族の悪夢をしばし忘れるのでした。
ペレにすすめられるまま、村の儀式に参加するダニーたちですが、祝祭のはずがいつしか「奇祭」の様相を呈してきます。
同時に、一緒に来た友人との仲間割れや、行方不明になるものも現れ、ダニーはいつしか孤立することに…。
悲鳴が聞こえるのは、主人公の「こころの中」
頼りとする恋人クリスチャンは、一通りの気遣いを見せてくれているようですがダニーの不安は募るばかり。
そんな中、「祝祭」はいよいよクライマックスへと向かい、ダニーは信じられない光景を目にします。
そこには、「深夜の暗闇」もなく「切り裂くような金切り声」もありません。
眩しすぎる陽光と優しすぎる笑顔に包まれ、ごく自然に行われる宗教的行為のようでした。
悲鳴が聞こえるのは、ひとりダニーという女性の「こころの中」だけ。
そして、エンディングでは、魂の叫びが「男」に向けられたものであることに気付くのです。
女性が作った、もうひとつのホラー映画
『ミッドサマー』の監督は、アリ・アスター監督。
この作品によって、彼はホラー映画の巨匠とまで言われるようになります。
確かにこの映画をホラーというなら、これまでにないホラーの「新境地」であることに間違いはありません。
女性ファンの多い、新進女優フローレンス・ピューの熱演も見逃せません。
そして、もう一作。
新感覚のホラー映画を紹介しましょう。
監督はソフィア・コッポラという女性監督で、第70回カンヌ国際映画祭の監督賞に輝いた作品です。
女性たちが、こぞって男を嬲り殺すという『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』です。
南北戦争時代に、女学校の宿舎近くでひとりの女生徒が負傷兵マクバニー伍長(コリン・ファレル)を発見します。
本来男子禁制の宿舎ですが、校長のマーサ(ニコール・キッドマン)は伍長の傷が癒えるまでという約束で看病することに。
夏休みで宿舎に残っていた生徒たちは、しばらく滞在することになった「男」に興味津々です。
キリスト教の教え通り、規律正しい生活していた彼女たちですが次第に理由を付けて男の部屋をのぞくようになります。
興味を持ったのは生徒だけではありません。
直接看病をする教師エドウィナ( キルスティン・ダンスト)は、好意すら持ち始めたのです。
次第に乱れる宿舎の規律、女性校長の決心
(少しネタバレあり注意)
一方、再び軍に戻されることを嫌がり、なんとか宿舎に住みつこうと考えるマクバニー伍長。
校長はじめ、女性たち全員に媚を売っていたのです。
女性たちの間に瞬く間に広がる嫉妬心で、宿舎の規律と平和は次第に壊れ始めます。
宿舎の平安が乱れることを察したマーサ校長は、マクバニー伍長への接し方を変えだすことに。
女性たちがまとうキレイな衣装とは裏腹に、後半以降のドロドロとしたシーンは血しぶきこそ見えないものの、恐ろしい結末を予想するには十分でした。
エンディングで、宿舎に再び平和な日々が戻り何もなかったかのように誰かの死体を見送る彼女たちがいます。
それは、これまでの殺意むき出しのホラーには感じなかった「種類の違う怖さ」になるでしょう。
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