
ディストピアは、ユートピア(理想郷)の対義語として使われます。
和訳としては、「暗黒郷」「絶望郷」といった表現が見られますが、そのままカタカナ使いが一般的のようですね。
今回、このテーマを取り上げた理由は、人類が衰退していく末路は決して望まないが「今、生きている人たちへの警鐘」として見るべきものが多くあるように思うからです。
逆の言うと、人類はどこまでも「ユートピア」に果てしない希望を持っているはずだから。
さて、この『死の谷間』、今、最も売れっ子のマーゴット・ロビーが主役にもかかわらずあまり話題になっていないのがちょっと残念。
マーゴット・ロビーのスッピンもさることながら、最後まで余韻の残る、一見の価値のある映画です。
「アダムのA」、アルファベット最後の「Z」は誰を指すのか?

この映画のどこがディストピアかを一言でいうと、核戦争で汚染された地球です。
地形から偶然そうなったのか、主人公アン(マーゴット・ロビー)の住む谷間は幸運にも核汚染から免れたというところから物語は始まります。
原題は、ロバート・C・オブライエンの小説「Z for Zachariah」がそのままタイトルに。
内容が宗教的で、また見ようによっては哲学的だと言われる理由はここにあります。
主人公アン(マーゴット・ロビー)が子どもの頃に読んだ絵本で「The ABC Bible Book」というのがありました。
アルファベッドを覚えるために、「AはアダムのA、BはベンジャミンのB…」と、聖書に登場する人物の名前を使っているのです。
最後の「Z」が、ザカリアのZ(Z for Zachariah)というわけです。
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死の影の谷間 (海外ミステリーbox) [ ロバート・C.オブライアン ]
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「死の谷間」は、創世記の再来か?



人類最初の人間Aが「アダム」、すると人類最後の人間Zは、本作に登場するこの3人というわけでしょうか。
あるいは、物語の最後に残る唯一の1人のこと?
3人とは、核汚染後に「死の谷間」に生き伸びた、アン、ルーミス(キウェテル・イジョフォー)、ケイレヴ(クリス・パイン)。
最初はアンが、自分しか生存していないと思っていたところへ、ふいっと現れたのがエンジニアだという男ルーミス。
「死の谷間」で、しばらく二人で暮らす男女。
それは、まるで創世記の再来を意味し、二人はエデンの園に暮らすアダムとイヴの例えだといわれます。
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マンガ旧約聖書(1) 創世記 (中公文庫) [ 里中満智子 ] 感想(2件) |
アダムとイヴ?に近づく、もう一人の男
次に現れる男ケイレブは、地下に潜っていた元鉱山労働者。
まるでイヴをそそのかすために現れた蛇にたとえられ、アンとルーミスの関係に変化が表れ始めます。
聖書から物語を引っ張ってきたというが、それがなければストーリーは究極の三角関係。
しかし、核戦争後のディストピアを、新たな天地創造の始まりと捉えるとどうでしょう。
そして、登場人物が3人しかいないこの映画、向かうところが次第に怪しくなります。
協働する二人が、ある夜、女と男を意識



アンとルーミスがはじめて出会った時こそ、お互いに用心はしたものの、やっと出会えた生存者同士としてアンの家で同居することに。
アンには、父から教わった農耕や狩猟の技がありました。
また、ルーミスは男の力に加え、エンジニアとして機械類を扱える知識を持っています。
二人で役割を分担し、少しづつ生活レベルを上げていくことに。
そんな二人は、ある夜、果実から作ったワイン酒で収穫をお祝いし合います。
すっかり酔った二人、そこになんともいえない空気が漂います。
これまで、生き延びることしか頭になかったのに、お互いが男と女を意識し出したのです。
収穫のワインに酔った女の誘いに…
酔ったアンは、ルーミスを誘います。
少なくとも、お互いに好意をもって暮らしている二人、遮るものはなにもありません。
時間も果てしなくあります。
しかし、誘われたルーミスはなんとアンを拒みます。
そして、ルーミスは「今、性急にここで男女の関係になることはない、お互いをもっと時間をかけて理解し合ってからでも遅くない。」となだめるのでした。
このシーンは、映画の後半、そしてクライマックスに繫がる見どころです。
世紀の2枚目、クリス・パインにザワツク



アンの誘いをルーミスが断ったあとも、二人が協力し合って過ごす日々になんら変化はありません。
映画を観ている方も、二人きりの時間がずっと続くのだから、お互い納得するならそんな選択もあったもしれない、などと思っていると…。
なんと、二人の間に男がもう一人出現し、「エデンの園」は大きく変化していきます。
観客にも落ち着かない妙なさざなみが立ってきます。
ちなみに、ケイレブ演じるクリス・パインは、「世紀の2枚目」と言われたイケメン俳優。
素朴なルーミス演じるキウェテル・イジョフォーとのイメージ格差が際立ち、キャスティングの妙に唸ってしまいます。
「3人」になって、一気に変わる世界観
ケイレブを見つけたアンは、地下に長く潜んでいたケイレブの事情を聞き、家に招こうとします。
しかし、そこには見るからに動揺しているルーミスがいました。
ルーミスはアンに頼まれ、渋々、ケイレブを家に入れることを承知するものの、以降、3人で暮らす空気感は一気に変わることに。
アンは普通にケイレブと接しているように見えます。
しかし、ルーミスには、アンがなにかにつけケイレブの肩を持っているように思えてなりません。
わけもなくイラ立つルーミス。
挙句のはてにルーミスは聞かれもしないのに、アンに「ケイレブが好きなら一緒になってもいいよ。」と言ってしまったのです。
結末は突き放され感か、示唆的か?
(最後のネタバレなし)
3人での共同生活ですが、どこかに危険をはらんだものを感じます。
たとえば、狩猟に出かけたケイレブとルーミスですが、銃を構えたケイレブがルーミスに挑戦的になります。
また、近くの滝つぼの前に立つルーミスのすぐ後ろに、ケイレブらしき男の影が。
一方、アンには以前、ルーミスを誘惑したような気配はなく、どちらかといえばケイレブに送る視線の方が気になります。
そして、アンはケイレブに予想もしない行動に出るのでした。
映画の結末は、ちょっと突き放されたような感じもありますが、観ようによってはいかにも示唆的です。
始まりの「A」はわかったが、最後の「Z」が誰なのかを謎かけしているようにも見える不思議な映画です。
まとめ~3人の素晴らしい演技力~



予告編にもチラッと見えますが、アンがテーブルの上にあったガラスコップを落とすときの表情をしっかり見て下さい。
マーゴット・ロビーが、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』で見せる顔とは正反対の顔です。
また、キウェテル・イジョフォー(『それでも夜は明ける』など)も、クリス・パイン(『スター・トレック』も、主役映画がいくつもある名優です。
ぜひ、彼らの絶妙の表情や仕草から、今作の醍醐味を味わってみて下さい。
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最後に、今もっともイケてる女優「マーゴット・ロビー」が登場する映画の紹介です。
ぜひ、映画選びの参考にして下さい。