「鬱映画」といわれるジャンルがあります。
映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』に代表される、重たくて暗いテーマ、救いのないプロット、後味の悪いラストなどの特徴をもつ作品たちをそう呼びます。
そんな「鬱映画」は、見たことを後悔するのになぜか興味をそそられる不思議な魅力をもっています。
最近観た中で最も気分が沈みこんだのが、スウェーデン製の『アニアーラ』というSF映画です。
そこで今回は、映画『アニアーラ』を紹介するとともに、どのような絶望を描いているのかを解説したいと思います。
※この先の文章には映画の内容について多少のネタバレが含まれています。
(冒頭画像:引用https://video.unext.jp/title/)
あらすじ:8000人を乗せ漂流する火星移住船…
放射能で地球が汚染された未来。
人類は火星へと移住を進めていました。
巨大宇宙船アニアーラ号は、8000人もの移民を乗せ、火星へと旅立ちます。
乗客たちは、豪華な船内で少しの間過ごすだけで、目的地へ着くはずでした。
ところが航海の途中、宇宙ゴミと衝突したことで船は火星への軌道を外れます。
さらに、爆発をさけるために全ての燃料を捨てたため、アニアーラ号は宇宙の果てをさまようことに。
船内で一生を過ごすという絶望的な状態に追い込まれた乗客たちは混乱し、精神的に不安定になっていき……。
ノーベル文学賞作家の映画化作品、スウェーデン製のSF映画
本作はスウェーデンのノーベル文学賞受賞作家であるハリー・マーティンソンの代表作「アニアーラ」を実写映画化した作品となっています。
映像化にあたって、アカデミー賞を受賞した経験のある制作陣が集まり、スウェーデンとデンマークの合作として制作されたSF映画です。
絶望と向かい合う姿、淡々と描かれる残酷さ
アニアーラ号は燃料を失ったため船の軌道をもとに戻すことができず、宇宙をさまよいますが、食べ物に困ることはありませんでした。
船内では栄養素に恵まれた藻を栽培する装置が備わっているため、装置が壊れなければ食料が尽きることはありません。
つまり、生命を維持することだけはできるのです。
この点が、この物語の最も残酷なところと言えます。
食べ物が尽きれば諦めることができますが、それさえも許されず、絶望と向かい合わなければならないのです。
宇宙を永遠にさまようことになった乗客たちは混乱し、現実から逃げ宗教にすがります。
映画は人々が弱っていく姿を、時系列を追って淡々と描きます。
人の心を治癒するAI装置、「MIMA」の存在の意味…
劇中で、精神的に不安定になった人々を癒す「MIMA(ミーマ)」というAIが登場します。
この「MIMA」は、人の記憶を読み取って、それぞれが望む理想の夢を脳内に投影できる能力をもっています。
夢を見ている時は辛い現実を忘れることができるため、施設は乗客たちで溢れます。
ところが、あまりにも大勢の記憶を読み取ったため「MIMA」は故障してしまいます。
このことによって乗客たちはさらなる混乱に陥ります。
心の拠り所を失うことは、人生にとって最も辛い経験です。
そもそも「MIMA」がなければ、乗客たちはこの辛さを味わわなかったはずです。
その点において、「MIMA」という存在そのものが、絶望的な状態に追い打ちをかけたといえます。
槍のような謎の物体と遭遇、解明に明け暮れるも
宇宙をさまようアニアーラ号は、船に近づいてくる宇宙船のような人工物を発見します。
「やっと救助艇が来た」と思った乗客たちは希望を取り戻します。
前向きになった乗組員たちは、その人工物を安全に搬入するための訓練を続け、やっとの思いで成功させます。
ところが、やってきた人工物は宇宙船などではなく、誰も乗っていない槍のような形の謎の物体でした。
その事実に落ち込む乗組員でしたが、それでもめげずに「中に燃料があるはず」と考え、謎の物体の研究に明け暮れます。
「無意味」にもすがる乗組員、訪れる「虚無と無常」
でも、どんなに調べても何の発見もありません。
それもそのはず、実際には何もないただの物質が偶然船に近づいただけであるため、研究を続けても無駄なのです。
無意味と分かっている行為に努力を注ぎ続けるのは、最もしんどい作業といえます。
それでも乗組員たちは幻想にすがる以外にありませんでした。
何の報酬もやりがいも得られない労働を続けることにより、人々はさらなる絶望に沈んでいきます。
この「虚無と無常」こそ『アニアーラ』が「鬱映画」と呼ばれる所以なのです。
■参考:動画配信・レンタル・本【管理人・選】
アニアーラ(著:ハリー マーティンソン【Harry Martinson】)
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まとめ:「鬱映画」の効能?
映画『アニアーラ』を観た多くの人が、「なぜわざわざこんな陰鬱なものを観させられなければならないんだ」と思うでしょう。
楽しもうと思って映画を観ると、暗い気持ちになり、気分が沈んだ時に観るとさらに沈みます。
そんな「鬱映画」にも、ためになる効能があります。
それは、絶望的な状態を疑似体験できるというものです。
実生活で困難な状態になった時、『アニアーラ』を思い出すことによりあの映画の状態よりはましだと思えます。
「鬱映画」を観ることで、絶望的な状態になった時、冷静に対処できる能力を得られるはずです。
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こんにちは!ライターの「げん」と申します。
映像が好きで、テレビドラマのプロットなどを書いていました。また、恋愛小説をファッション誌で連載したこともあります。これらの経験をもとに、映画を通して恋愛を学ぶ記事などを書いています。
『アニアーラ』の「槍」は現在では言えば何なのか?