1987年(日本では1989年)に公開された映画、『バグダッド・カフェ』。
筆者がここ最近観た映画で、一番浸ってしまった映画です。
何日も何日も頭から離れず、尾を引いてしまうような映画に出会えることって稀で幸せなことですよね。
この映画、東京は「目黒シネマ」で『コーヒー&シガレッツ』と同時上映で観た作品なのですが、当初、筆者は『コーヒー&シガレッツ』を目的に目黒シネマに足を運んだのです。
本当は、心の宝箱に鍵をかけて大切に…
1本見ても2本見ても同じ値段なのがミニシアター。
新たな映画との出会いの場所です。
『バグダッド・カフェ』も、初めは正直な気持ち、「ま、観てみるか」といった気持ちで鑑賞しましたが、終演後、「また宝物みたいな映画が増えてしまった、、!」と心の底から感動してしまいました。
本当は心の宝箱に鍵をかけて大切にしまっておきたい。
そんな映画、『バグダッド・カフェ』の持つ不思議な魅力を紹介していきたいと思います。
■『バグダッド・カフェ』のこと【管理人・選】
バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版(作品情報)
※ラスヴェガス近郊の砂漠にたたずむ、さびれたモーテル”バグダッド・カフェ”。そこに現れたのは旅行中に夫と別れたばかりのドイツ人女性ジャスミンだった。家庭も仕事もうまくいかず、常に”怒り”モードの女主人ブレンダは、言葉も通じない珍客にストレスをつのらせるばかり。だが、いつしかジャスミンの存在は、この店をオアシスのようにうるおし始めるのだった……。
初公開の1987年以来、世界中のアーティストがカヴァーした名曲「コーリング・ユー」と共に、多くの熱狂的な支持者を生み出した伝説の”ミニ・シアター”ムーヴィー。
※ニュー・デレクターズ・カット版から約10年の時を経て、パーシー・アドロン監督が再び監修し、ここに4K修復版として復活!
本邦初公開の映像特典や監督と主演によるオーディオ・コメンタリーも収録し、スチールブックに収納した、これぞ『バグダッド・カフェ』の究極版!【引用:Amazon】
寂れたモーテル、ジャスミンの出会いとは:あらすじ
広い砂漠を突っ切っている道路の途中、ある一組の夫婦が喧嘩をしており、妻であるジャスミン(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)は重い荷物を引きずり車を飛び出してしまいます。
やっとの思いでたどり着いた先が、モーテル、カフェ、ガソリンスタンドを併設している寂れたお店「バグダッド・カフェ」です。
ジャスミンはその日、モーテルに宿泊することになりました。
お世辞にも綺麗な受付とも言えず、客の入りも芳しいとは言えないたたずまいのお店ですが、行き場のないジャスミンはこのモーテルでしばらくの間生活をすることに。
勝手にモーテル内のあちこちを掃除をしてしまったり、突拍子もない行動で初めはこの場所から浮いていたジャスミン。
ある時、手品をカフェの客に披露することで日ごとに客は増え、ジャスミンのマジックと人柄の効果でお店は大盛況となります。
初めは異色の存在であるジャスミンを邪険に扱っていた気の荒い女主人ブレンダ(CCH・パウンダー)も、一緒に生活をしていく中でいつのまにかジャスミンに気を許し、お店の雰囲気もぐんとよくなります。
このままお店も繁盛して、仲間たちとも仲良く生活できて、めでたしめでたし!
と、そううまくはいかずに・・・?
見どころ①:すべてを受け入れる、温かい存在に
あなたの周りでもいませんか?
簡単に言えば「人気者」、最近の言葉で言うと「人たらし」とでも言うのでしょうか。
多くの人を、なぜかとりこにしてしまう人のことです。
すごく面白いジョークを言うわけでもない、秀でた才能があるわけでもないけれど、何故か一緒にいると安心して、この人といると落ち着くな…という存在。
それがこの映画におけるジャスミンだと思います。
初めはとんでもない行動をして周囲を驚かせましたが、だんだんと周りに人が集まってきました。
その証拠に、初めは反抗的ともとれる態度をとっていたブレンダの娘と息子も、ジャスミンとの出会いをきっかけに、だんだんと柔らかい態度へと変わっていきました。
ジャスミンを疎ましく思っていた女主人のブレンダでさえも、いつのまにかジャスミンと良いコンビに。
「この人は自分を認めてくれる」「自分を許してくれる」そう思ったときに、人は人に自分のことをさらけ出せるのではないかな。
筆者はそう考えているのですが、ジャスミンの人柄はまさにわたしのとっての「お母さん」そのもの。
バグダッド・カフェにとって、ジャスミンはすべてを受け入れてくれる母のような温かい存在だったのではないかなと思いました。
見どころ②:「仲が良すぎるわ」、と離れる人も
バグダッドカフェの雰囲気が良くなってきたあたりで、モーテルに長期滞在している客、彫師のデビー(クリスティーネ・カウフマン)が「あなたたちは仲が良すぎるわ」という言葉を残して出て行ってしまいます。
「?」と思う人もいるかもしれませんが、わたしはこのセリフがとても突き刺さりました。
ジャスミンの登場によって、つかず離れずだったバグダッドカフェのメンバーたちが、一気に「家族」のようになりました。
他のみんなにとっては喜ばしいことだったのでしょうが、きっとデビーにとっては「馴れ合い」のように感じられてしまったのではないでしょうか。
カフェのメンバーが一人離れていってしまった。
それは寂しく悲しいことでもありますが、きっと新たな旅立ちの門出です。
みんなで仲良くワイワイするだけでなく、デビーとの別れは人生で「こういう人がいるのもアリだよな」と、考えさせられる1シーンでした。
見どころ③:寂しさと温かさ、奏でる最高の音楽
と、ここまでの説明でどんな映画を想像しましたか?
「ほのぼのストーリー?」「ちょっと切ない感じ?」どちらのイメージも湧いてくると思うのですが、まさにこの映画は、ほんわかするのに、なぜか故郷に帰りたくなるような寂しさが同居している映画だと思います。
人里離れた砂漠の中にポツンと佇むカフェ、真っ赤な夕日に浮かぶブーメランなど、なぜか「ジーン」とくるシーンが多いのが特徴です。
そしてその切なさをさらに助長させるのが、主題歌であるジェベッタ・スティールのコーリング・ユー。
この曲はこの映画と最高のマリアージュ、ペアリング、マリッジ……もうよいですか?
ぜひ、実際の映画の映像の中で聴き届けて下さい。
これ以上ない掛けあわせということです。
■主題歌「コーリング・ユー」(ジェベッタ・スティール)【管理人・選】
※映画『バグダッド・カフェ』の主題曲「コーリング・ユー」1曲で世界に知られることになったジェヴェッタのソロ作品。プリンス他の華やかなプロデュースが目立つが,ミネアポリスのゴスペルの花としてならしたキャリアからくる風格と実力にむしろ注目。【引用:Amazon】
まとめ
この映画は、爆弾が落ちるとか、怪獣が襲ってくるとか、そういう「大事件」が描かれているわけではありません。
なにげない日常の中にある、小さなイライラだったり、些細な心のトゲトゲをそっと癒してくれます。
それをいかに読み取り、自分の中でかみ砕いて心のお薬にできるか。
それがこの映画を楽しむポイントだと思います。
参考記事:心温まる映画を洋画から選んで紹介。家族・友情・人生そして奇跡の物語
《ライター:永瀬花帆》
グラビアアイドルとして活動中。ミニシアター系の映画をまんべんなく見ます。
普段映画を観ない方にも「観たい!」と思っていただけるような記事を目指してます!
「些細な心のトゲトゲをそっと癒して」素敵な表現ですね。私にとっても映画は自分の生活において欠かせないものなので、その時の気分によって別世界に連れて行ってくれる映画の存在に改めて感謝したくなるような素晴らしい記事でした。「バグダッド・カフェ」の主題歌「コーリング・ユー」を聞くだけで、あの砂漠の乾いた独特な雰囲気や、登場人物達の印象的な表情を思い返させてくれますよね。そしてなんだか感傷的な気分になりましたし久々に見直したくなりました。
さすがsophieさんの守備範囲は凄いですね!私はこの記事で初めて今作を観て返す返す、その素晴らしさに感動しました。「コーリング・ユー」の、思い出を辿るような遠くから聞こえる声と合いまって、自然と涙が出るような作品ですね。