今回紹介する作品は、放浪する一匹のロバの視点を通して人間世界を描いた映画『EO イーオー』です。
ヨーロッパで非常に高い評価を得るポーランドの映画監督イエジー・スコリモフスキが7年ぶりに手がけた本作は、第75回カンヌ国際映画祭で審査員賞・作曲賞2部門を受賞、全米映画批評家協会賞では外国語映画賞/撮影賞の2部門を受賞。
そしてアカデミー賞国際長編映画賞ノミネートと世界的に大きな反響を得ました。
(画像引用:(C)2022 Skopia Film, Alien Films, Warmia-Masuria Film Fund/Centre for Education and Cultural Initiatives in Olsztyn, Podkarpackie Regional Film Fund, Strefa Kultury Wrocław, Polwell, Moderator Inwestycje, Veilo ALL RIGHTS RESERVED)
映画『EO イーオー』:作品情報
サーカス団を追われ放浪する一頭のロバの視点より、人間のさまざまな面を追ったドラマ作品。
監督は、『出発』、『ザ・シャウト/さまよえる幻響』、『アンナと過ごした4日間』、『エッセンシャル・キリング』などを手がけたポーランドのイエジー・スコリモフスキ監督。
キャストには、ポーランドのサンドラ・ジマルスカとマテウシュ・コシチュキェビチ、ローマ出身のロレンツォ・ズルゾロ、そしてフランスを代表する国際派女優のイザベル・ユペールと国際色豊かな俳優陣が名を連ねました。
映画タイトル | EO イーオー |
原題 | EO |
監督 | イエジー・スコリモフスキ |
出演 | サンドラ・ジマルスカ、ロレンツォ・ズルゾロ、マテウシュ・コシチュキェビチ、イザベル・ユペールほか |
公開日 | 2023年5月5日(金) |
公式サイト | https://eo-movie.com/ 【YouTube:予告編】 |
■2022年 /ポーランド・イタリア合作映画 /ポーランド語・イタリア語・英語・フランス語 /カラー /G /88分
■参考:巨匠イエジー・スコリモフスキ監督【管理人・選】
※ポーランド映画界の異端児、イエジー・スコリモフスキ。 その特異な人生の軌跡をたどった、映画ファン必読の一冊。 その反体制的姿勢ゆえに、祖国ポーランドを離れ西側各国で映画製作を続けてきたイエジー・スコリモフスキ監督。 「亡命」直前から、祖国への回帰へと至る作家の43年間の軌跡を、貴重なインタヴュー、対話をもとにたどる。 そして、イエジー・スコリモフスキという映画作家だけではなく、彼をめぐる歴史と空間の全貌を見渡す、20世紀後半から21世紀にかけての映画の変容と未来を見つめる一冊。【引用:Amazon】
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映画『EO イーオー』:あらすじ
ポーランドのとあるサーカス団で飼われていた灰色のロバEO(イーオー)は、時に団員の横暴な扱いを受けながらも、優しく接してくれる相棒の女性カサンドラ(サンドラ・ジマルスカ)と共に幸せな毎日を送っていました。
ところがある日突然サーカス団は解散し、彼はカサンドラらと離れざるを得なくなりました。
そしてたった一頭でポーランドからイタリアへと放浪を続けるEO。
旅の途中では優しく彼に接してくる人々だけでなく、過激にサッカーチームを応援する集団や動物を虐待する人々、そして人生に迷う若い司祭(ロレンツォ・ズルゾロ)、伯爵未亡人(イザベル・ユペール)らさまざまな人と出会います。
そんな人々の姿からEOは、人間社会の優しさや不条理さ、厳しさを目の当たりにしていくのでした。
●イザベル・ユペール(Isabelle Huppert)
誕生日: 1953年3月16日生まれ
星座:うお座
身長:160cm
出身:フランス・パリ16区
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微妙な感情を表す、人間以外の存在による視点
自分がかつていたサーカスは破産し、優しかった相棒カサンドラとも別れよそへ連れていかれてしまうEO。
その後彼は誰かに拘束されてはそこから逃げ出し、また捕まってしまい…といった具合に彼の旅が展開していきます。
このように複雑な状況を抱えたロバ、すなわち人間ではない動物の視点によるさまざまな風景がここに描かれていくわけですが、このロバという存在、そして彼自身の境遇という部分に、視野の印象深さが刻み込まれています。
EOが物語中で見せる視点は単なる定点観察ではなく、まるで彼が人間となったかのような意思が感じられ、ストーリーにはどこか童話「ピノキオの冒険」を思わせるような節も見えてきます。
ある時には優しく接してくる人たちに出会い、また別の時には乱暴され、不条理な扱いを受けるEO。
その時々の反応で彼は親しく接したり、あるいは逃げたり、時には怒りを爆発させたりします。
微妙に垣間見える彼の感情のゆらぎは本作の大きなポイントの一つであり、物語から見える景色からは、単純に人間世界の真理を批判したりするようなメッセージ性より、ピュアな世界の奥行きを淡々と描いているイメージを感じさせられます。
物語に埋め込まれた「多様性」
本作では物語の世界を広げる要素として、端々から見えてくるグローバル性を感じることができます。
EOはポーランドのサーカスから離れ、一匹で孤独にローマへとたどり着きます。
その途中で見られる風景からはポーランド語から英語、イタリア語、フランス語、そしてクレジットには記載されていませんがドイツ語圏のような言語の響きも聞こえてきます。
そしてその言葉の響きに合わせて、EOがそれぞれのエピソードと遭遇します。
東欧から西欧へ、お国柄も感じられるその風景。そしてその景色はいずれも美しいものではなくどこか擦り切れていたり、荒々しい場面や目をそむけたくなるようなおぞましい風景を映し出します。
こうしたさまざまな視点をEOが発する「ロバの鳴き声」が取りまとめる格好となり、ある意味EOの存在により作品は多様性をより明確に打ち出しているわけです。
この「多様的」な要素は本作に対し、幅広いイマジネーションを与えてくれる作品として仕上げている要因となって、作品を一つのジャンルや事象に留めない、豊かな印象を見るもの与えてくるのです。
優れた映像センスを感じさせる「赤の風景」と「音」
また作中で深い印象を与える具体的な効果として、「赤に染まった風景」の効果、そして音楽の効果が挙げられます。
「赤に染まった景色」は物語のエピソードの端々に見られるのですが、ドローンショットによる先の見えない広大な地や、冒頭の穏やかなシーン、逆にショッキングなシーンなどさまざまな形で見られ、見るものの固定観念を見事なまでに打ち壊していきます。
劇中で使われている音楽はメジャー/マイナーといった調整感がなく、かつ音楽というよりは効果音に近い形で作られた楽曲です。
しかし、どこか行き場のないEOの心情を表しているようで非常に効果的な使い方がなされています。
この少し不安を煽ってくる要素は、EOの行く道に見える希望、あるいは不幸を煽るものなどさまざまな想像力を掻き立ててきます。
そこには、かすかに見えてくるEOの性格、性質をより奥行きの深いものとしており、製作者の強い思いやセンスが感じられる部分でもあります。
《ライター:黒野でみを》 クリックで担当記事一覧へ→
40歳で会社員からライターに転身、50歳で東京より実家の広島に戻ってきた、マルチジャンルに挑戦し続ける「戦う」執筆家。映画作品に対して「数字」「ランク付け」といった形式評価より、さまざまな角度からそれぞれの「よさ」「面白さ」を見つめ、追究したいと思います。
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