『ドリス・ヴァン・ノッテン/ファブリックと花を愛する男』
最初に紹介する『ドリス・ヴァン・ノッテン/ファブリックと花を愛する男』は、ァッションデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテンに密着したドキュメンタリー映画。
世界中の注目を集めるショーの準備及び舞台裏から、アトリエ、工房、そして自宅での彼のプライベートに迫り、今作中では2015SSレディースコレクションから2016 / 17AWメンズコレクションを追っています。
ドリス・ヴァン・ノッテンとは
ベルギーのファッションデザイナー。
ベルギー・アントワープにあるアントワープ王立芸術学院出身。
あらゆるカルチャー、テイスト、時代をMIXして、美術品とも言われる独自のスタイルを創り出しています。
特にテキスタイルにこだわりがあり、素材や色彩の組み合わせに鋭い感性が発揮されます。
1986年、ロンドン・コレクションにて同学院出身の6名が共同で発表したコレクションAntwerp Sixが話題となり、アントワープ発のファッションが世界から注目を集めるきっかけになったことから「アントワープの6人」と呼ばれるデザイナーの1人となりました。
ドリス・ヴァン・ノッテンの色彩感覚の源
ドリス・ヴァン・ノッテンは、アントワープ郊外で、まるでお城のような豪邸に住んでいます。
特に季節ごとに色とりどりの花が咲き競う庭は本当に美しくて、類まれな色彩感覚と発想は、この美しい庭の自然によってもたらされている部分も大きいのかもしれません。
美を愛する気持ち
お花を植えたり、庭の手入れをしたり、菜園で育てた採れたての野菜を調理することを愛するところにも自然な美しさへの優しさが溢れているようです。
「ファッションと呼ばれるものよりもっとタイムレスなものを作りたい。着る人と共に成長するような服を。」
そんな想いを根底にしているからこそ、一点一点の商品を愛し、全てに名前がつけられているそうです。
ファブリックに最もこだわり、様々な色や質感のものを重ねて、切り替えていく感性は、庭に咲く花々を摘んで組み合わせてブーケにして、選んだ部屋の選んだテーブルに飾る、その丁寧な生活に重なるものがあります。
創作活動を支えるパートナーの存在
邸宅で共に暮らすパートナーのパトリックとの関係は、仕事仲間から徐々に絆を深め28年続いています。
イブ・サンローランとピエール・ベルジェのように波乱万丈な激しい恋愛ではなく、関係性の危機など「特に思いつかない」というほど穏やかに育まれたようです。
「いつから恋心を持っていた?」の質問に照れてはぐらかしてしまうほど、ドリスは控えめで純粋で、とても素敵なカップルでした。
控えめな天才デザイナー
コレクションのバックヤードでは良い意味でとても地味です。
シンプルなシャツにパンツスタイルで、たくさんのスタッフに埋もれてしまいそうなほど。
自身の服をフィッティング中のモデルに「ちょっと直すよ、僕は(こう見えて)デザイナーだからね」と話しかけている様子は謙虚で微笑ましくなるほどです。
モードの世界で強くしなやかに生きる
美の基準ですら恐ろしいほどのスピードで変化し、コレクションごとに世界から鋭く評価されるラグジュアリー・ファッションモードの世界。
余程心の強さがなければ、この世界で長く存在し続けることは至難の業です。
ドリス・ヴァン・ノッテンがこれほどしなやかに強くデザイナー人生を生きていけるのは、美しい庭と、パトリックをはじめとする周りの人々に愛されているからなのでしょう。
そしてその庭も、人々との関係性も、全てはドリス・ヴァン・ノッテン自身の美しい人間性が作り上げたものなのだと感じさせてくれる作品です。
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『ディオールと私』~ラフ・シモンズ~
次に紹介するファッション・ドキュメンタリー映画は、『ディオールと私』。
2012年春、世界的に知られるクリスチャン・ディオールのアーティスティック・ディレクターにラフ・シモンズが就任しました。
男性ブランドを展開していたミニマリスト(シンプルで最小限のデザインを特徴とする)のシモンズにとって、老舗ブランドのオートクチュールを手掛けることは大きく困難な挑戦でした。
さらに通常では約半年をかけるコレクションを、たった2カ月で準備しなければならなかったのです。
『ディオールと私』は、ラフ・シモンズがクリスチャン・ディオールで、自身初のオートクチュール・コレクションを発表するプレッシャー、迷い、葛藤に迫ったドキュメンタリーです。
そして世界のディオールのお針子たちの、熟練したプロフェッショナルな技術と仕事ぶりも見どころです。
ラフ・シモンズとは
ラフ・シモンズは、1995年AWのミラノの展示会にて、プレゼンテーション形式で自身の名を冠したブランド「ラフ シモンズ」のコレクションを発表しました。
大学では工業デザイン、写真などを専攻し、ファッションについては独学で学びました。
主にメンズウェアを展開し、トラッドで伝統的なテーラードスタイルと、若者文化からインスピレーションを受けたユースカルチャーを融合させたデザインが特徴です。
ゴージャスな美しさを陰で支えるプロフェッショナルの技術と葛藤
お針子さんたちの仕事ぶりは本当に素晴らしく、エレガントでモードなドレスや、豪華絢爛なショーのセッティングは、ファッションフリークだけでなく、美しいものや卓越した職人さんの技術を愛する全ての人の心をときめかせざるを得ません。
そして、観ていて何よりも胸打たれるのは、包み隠さずカメラに収められた、プレッシャーに押しつぶされそうなラフ・シモンズの苦悩です。
美しい世界を生み出す一握りの才能
20代、欲しいものは泉のように枯れることなくあふれ出して、ランチには100円のパンで小銭を節約し、「今月も服を買ってお金が無くなって水道が止まった」と笑っている友達と、あそこのこれを買った、次はあそこのあれが欲しい、と会話が尽きなかったあの頃の憧れが蘇るようでした。
筆者自身は3Kとも言われたファッションの仕事を続けていたのは好きな気持ち故に他ならず、義務感も使命感も皆無で、ただその美しい世界の片隅にその身を置いておきたいという私欲のためだけでした。
しかしその美しい世界は、たった一握りの天才の中で、多くの挑戦と苦しみの末に生み出されていたのだ、ということを改めて認識し、深い敬意と感謝の気持ちを示したいと思ったのでした。
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美とモードに人生を懸ける二人の天才
ファッション・ドキュメンタリー映画の魅力は、世界のトップラグジュアリーブランドのデザイナーのインスピレーションの源や、その偉大な使命感に触れてみることではないでしょうか。
美しさの追求に妥協の無い天才たちの人となりに触れれば、きっといつも目にしているファッションも、もっと眩しいものに見えてくるかもしれません。
《ライター:kako》
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