今回紹介する作品は新作スリラー映画『No.10』。
2013年の映画『ボーグマン』を彷彿する不穏さ、衝撃満載の作品です。
ある日突然、自分の知らない過去に翻弄され奇妙な運命に導かれていく一人の男性の姿を描いたこの物語。
その独特なドラマ展開で定評のあるオランダの鬼才アレックス・ファン・バーメルダムが監督、脚本、音楽を担当、入魂の衝撃作です。
映画『No.10』:作品情報
過去に謎を持った一人の俳優男性が、知らなかった自身の運命に遭遇し想像だにしなかった結末に進んでいく顛末を描いた異色のミステリー。
『ドレス』『ボーグマン』などを手掛けたアレックス・ファン・バーメルダムが監督、脚本、音楽を担当しました。
映画タイトル | No.10 |
原題 | Nr. 10 |
監督 | アレックス・ファン・バーメルダム |
出演 | トム・デュイスペレール、フリーダ・バーンハード、ハンス・ケスティング、アニエック・フェイファー、ダーク・ベーリング、マンデラ・ウィーウィー、リチャード・ゴンラーグ、ジーン・ベルボーツ、ピエール・ボクマほか |
公開日 | 2024年4月12日(金) |
公式サイト | https://no10movie.com/ 【YouTube:予告編】 |
■2021年 /オランダ・ベルギー合作映画/カラー/101分
映画『No.10』:あらすじ
舞台監督の妻との不倫や、肺を一つしか持たない娘など、俳優業を営む一方で波乱続きの日常を送る男性ギュンター。
彼には幼少時の記憶がなく、森に捨てられた末に里親のもとで育てられた過去がありました。
現在は役者として舞台の仕事に勤しむ毎日でしたが、ある日不倫が発覚し役者仲間に裏切られ、仕事場でも隅に追いやられ悲惨な仕打ちを受けます。
その惨めさから彼は復讐を決意します。
一方でそのころ、彼を影でずっと見守り続ける存在があることを、彼は知りませんでした……。
奇想天外な展開、自身の注意を引き付けられるポイント
アレックス・ファン・バーメルダムの作品といえば、真っ先に思い浮かぶのが、第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された映画『ボーグマン』。
普通に暮らす家庭の前に一人の訪問者が現れたことをきっかけに、徐々に展開していく独特のカラー。
とくに生々しい衝撃的なシーンがあるわけでもないのに引き込まれ、クライマックスですっかりと気持ちを撃ち抜かれる衝撃性は大きな反響を呼びました。
本作もまた、あるきっかけで物語がガラッと大きく展開するまでどこかに不穏な空気が漂い、中盤に明らかになる事実を機に思わずきょとんとなるようなショックが見るものに降りかかってきます。
彼は舞台俳優。
部隊の製作進行の足を引っ張る共演者に苛立ちを募らせながらも演技に向かい、一方で他の共演者であり舞台監督の妻と密かに不倫関係を持ちます。
ところがある日、彼を快く思わない共演者がその不倫の現場を発見、不貞が発覚し彼は仕事の隅に追いやられてしまいます。
そして、彼はその展開を知り逆襲に転じるわけですが、そこから後半の衝撃的な事実への展開となります。
「前半の物語は果たして何だったのか?」と考えさせられるほどの急激なターンとなるわけですが、このターンに物語の面白さがあるといえるでしょう。
前半の物語中では、実は彼がもともと自身の幼少時の記憶がなく、里親に育てられたという事実がふと浮かび上がります。
また娘には肺が一つしかないという事実も発覚、ここで彼は、自分にも肺が一つしかないのだろうという懸念が現われてきます。
ギュンターの日常の一部を描いた前半は、衝撃の事実にたどり着く後半と一見つながりがないようですが、その展開をうまく隠す隠れ蓑としているようでもあります。
あるいはさらに巧妙に、また別の展開を狙ったものか?
一見脈絡のない二つの展開を無理やりつなげた物語のように見えながら、そこにうまくつながりを絡ませるところにバーメルダム監督ならではの特徴が表れているといえるでしょう。
■こちらもぜひ見てほしい!!
本作への流れを汲む鬼才アレックス・ファン・バーメルダム監督作品
『ボーグマン』
裕福な家庭の日常にある日突然謎の集団が現われ、翻弄されていく姿を描いたサスペンス。集団の謎をトリッキーに隠して物語の不穏な空気感を絶妙に作り出す卓越したセンスが高い評価を集めました。
意外性・奇抜性だけではない、展開の緻密な構成
物語を読み解く重要なポイントとして、主人公ギュンターの「自分の知らない自分」という点が挙げられます。
彼は幼少の記憶を失っている上に、自身の体に関して知らないことがあるという背景があります。
そんな人物が普段の他愛もない生活の中で納得のいかないことに大きな憤りを示すわけですが、一方で自分の知らなかった驚愕の真実に対し、驚きはするもののどちらかというとすんなりと現実を受け止めるという対応を見せます。
この展開を見ると、ある意味対照的な光景であるとも見える一方で、「知らないがゆえの苛立ち」「知るがゆえの安心」といった、一つの流れを読み取ることができるでしょう。
もちろん、物語ははっきりとしたシンメトリーが描かれているわけではありません。
しかし、むしろある意味、いびつともいえる細かい展開の構築が実は緻密に作られており、作品としての質の高さを十分に感じ取れるものであります。
《ライター:黒野でみを》 クリックで担当記事一覧へ→
40歳で会社員からライターに転身、50歳で東京より実家の広島に戻ってきた、マルチジャンルに挑戦し続ける「戦う」執筆家。映画作品に対して「数字」「ランク付け」といった形式評価より、さまざまな角度からそれぞれの「よさ」「面白さ」を見つめ、追究したいと思います。
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