今回おすすめする映画は、イギリスの君主として現在も在位しているエリザベス2世の素顔に迫ったドキュメンタリー映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』です。
2022年で在位70周年を迎える英国の女王陛下、エリザベス2世の素顔に追ったドキュメンタリー。
『ブラックバード 家族が家族であるうちに』『ゴヤの名画と優しい泥棒 』などを発表してきたロジャー・ミッシェル監督が本作を手がけました。
『エリザベス 女王陛下の微笑み』作品情報
ミッシェル監督は2020年より発生した新型コロナウイルスの感染拡大で新作製作に着手できない中で、この状況を逆手に取り本ドキュメンタリー企画を提案、本作の製作に至りました。
しかし、残念ながらミッシェル監督は2019年9月に急逝、本作が遺作となりました。
映画タイトル | エリザベス 女王陛下の微笑み |
原題 | Elizabeth: A Portrait in Part(s) |
監督 | ロジャー・ミッシェル |
音楽 | ジョージ・フェントン |
出演 | エリザベス2世、フィリップ王配、チャールズ皇太子、ウィリアム王子、ヘンリー王子、キャサリン妃、ジョージ王子、メ―ガン妃、ダイアナ元妃、ザ・ビートルズ、エルトン・ジョン、ダニエル・クレイグ、マリリン・モンロー、ウィンストン・チャーチル ほか |
公開日 | 2022年6月17日(金) |
公式サイト・Twitter | elizabethmovie70.com @Elizabeth70_SCM |
■2021年/イギリス/カラー/90分/英語/5.1ch/ビスタ/日本語字幕:佐藤恵子/字幕監修:多賀幹子/
『エリザベス 女王陛下の微笑み』あらすじ
弱冠25歳で即位し、2022年に在位70周年を迎えるエリザベス2世の生い立ちを、1930年代から2020年代までのアーカイブ映像や周辺の人たちの証言からたどります。
作品では、エリザベス女王からサー(勲爵士)の称号を受けたエルトン・ジョン、同じくメンバーが称号を受けたザ・ビートルズ、聖マイケル・聖ジョージ勲章を授かったダニエル・クレイグ、生前に女王と対面を果たしたマリリン・モンローなど、女王にゆかりのある著名人のコメントなども含めて、知られざる女王の真実を探っていきます。
「エリザベス2世」の人間としての本質
本作で非常に興味深いのは、エリザベス2世という人物の、人間としての本質にかなり深くまで迫っていることにあります。
劇中では公の行事におけるコメントの様子など、公式映像として一般的に見られる映像も多くあります。
しかし一方で、普段の生活を映したプライベート映像や、普通の状況では見られないオフマイクの状況の映像までもが映し出されているということです。
例えばこれを日本の皇室に同じものとして当てはめてみるとわかるでしょう。
まずイギリスの王室、日本の皇室とその社会的な違いを差し引いたと考えてもここまでのプライベートな姿が一般にさらけ出されることは考えられません。
その点でいえば、本作はエリザベス2世という人物にスポットを当てた作品であると同時に、イギリスの王室という場所の空気を感じられる作品であるともいえます。
登壇の前の一時、ふとしたことでジョークを飛ばすエリザベス2世の立ち振る舞いは、非常に印象的です。
真顔で普通のことを語る中、ふっと冗談が混じる様は、まさに典型的なイギリス風のジョークの飛ばし方。
そして放送が押し迫る緊張の中、エリザベス2世のジョークはふと緊張を和らげ、和やかな空気をその場にもたらします。
そんな他愛もない一幕さえもが、劇中に描かれるエリザベス2世の本質につながっていくところに、本作の芯の部分を感じ取ることができるでしょう。
非常に一貫性のある人物の描き方に注意を払っていることがうかがえ、作品で訴えようとしているメインのテーマを違和感なく受け取ることができる作品といえます。
▶おすすめの代表作品
『英国王のスピーチ』(予告編)
「記録映画」で終わらせないエリザベス2世のイメージ
本作を構成している素材は、実際にエリザベス2世を取りまくリアルな環境だけではありません。
時にふっと有名な映画のワンシーンなどを取り入れ、麗しき女王の姿をイメージしたパートを彩ったりしています。
こうした表現方法はドキュメンタリーという作品の性質に対して作者の思惑が入り過ぎ、客観性を欠いていると評価される恐れもあります。
しかし本作での表現はバランスのとり方が巧みであり、主観的過ぎる見え方を防いでいるところに作者のセンスの高さを感じさせます。
最もそのセンスを感じさせる要素は、全体的に幅広い視点でエリザベス2世のイメージを描いている点にあります。
本作は展開をいくつかのセクションに分けており、エリザベス2世のイメージをそれぞれのセクションにおけるテーマで描いています。
それぞれのセクションでは、単に人物像としての性質を取り上げているだけでなく、客観的にイギリスという国に対して誇れる姿、そして批難される姿と、さまざまな姿を垣間見ることができます。
一方でエリザベス2世を見るイギリス国民の声にも、長く国を率いてきた彼女をたたえる声だけではありません。
時に困惑する声、疑う声や、盲信の余り暴挙に出る人と、ここにも幅広い視点が置かれています。
実際にはさらにさまざまな事情や事実もありながら、ポイントがうまく整理されていることで物語構成のうまさが際立っており、単なる記録映画ではないポップな空気感も覚える作品となっています。
音楽から見えるエリザベス2世のイメージ
また、本作は音楽のセレクトも非常に印象的です。
エリザベス2世からの受勲者としても有名なザ・ビートルズ。
70年代~80年代に活躍したイギリスのネオ・スカバンドであるマッドネス。
さらにイギリスのミュージシャンではありませんが、アメリカのDJユニット、チート・コーズの「Queen Elizabeth」など。
音から受けるイギリスのカラフルな空気感も、この作品のアピールポイントの一つであります。
エンディングは、ザ・ビートルズが1969年にリリースしたアルバム『アビイ・ロード』に収録された有名なナンバー「Her Majesty」で締めくくられています。
単に映画のエンディングを飾るだけではないヒネリの利いた演出が光るパートですが、同時にこの映画のテーマをうまくまとめたものであるといえるでしょう。
それはイギリスという国のイメージ、そしてその国の頂点に立つ人とはこのような人物であるというイメージを強く納得させるものであります。
最後に、日本メディアが取り上げた「在位70周年記念」のニュースを紹介しておきましょう。
《ライター:黒野でみを》 クリックで担当記事一覧へ→
40歳で会社員からライターに転身、50歳で東京より実家の広島に戻ってきた、マルチジャンルに挑戦し続ける「戦う」執筆家。「数字」「ランク付け」といった形式評価より、さまざまな角度から「よさ」「面白さ」を見つめ、追究したいと思います。
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