2023年公開の映画『ロスト・キング 500年越しの運命』。
英国王室をめぐる物語ですが、主人公はなんと平々凡々な主婦。
冴えない日々を送る彼女が「究極の推し活」の末、英国王室の歴史を覆してしまうという実話ベースのストーリーで、筋書きを聞いただけでも面白そう!
そこで今回は、前編後編の2回にわたって英国王室映画を特集していきます。
前編では『ロスト・キング 500年越しの運命』の魅力解説、後編では英国王室の歴史を垣間見れる良作を一挙にご紹介!
(冒頭画像:引用https://twitter.com/thelostking0922/)
「好き」を極めた、主婦のサクセスストーリー
映画『ロスト・キング 500年越しの運命』はいわゆる「英国王室もの」からは一線を画しています。
主人公となるのは、夫と別居中で仕事と子育てに奮闘する主婦フィリッパ・ラングレー。
歴史愛好家とはいえアマチュアであり、専門家というわけではありません。
むしろ彼女は日々社会から不当な扱いを受けて不満を募らせています。
そんなフィリッパはどのようにして「好き」を極め、栄国王室の歴史を覆していくのでしょうか?
あらすじ:極悪王・リチャード3世の無念を晴らしたい…
2012年、イギリス・レスターの駐車場下から英国王室の歴史を覆す「遺骨」が発見されたーー。
時はさかのぼり、2人の息子を育てる主婦フィリッパ・ラングレー(サリー・ホーキンス)は、※シェイクスピアの「リチャード3世」を観劇していました。
リチャード3世は英国史上稀にみる極悪人として描かれますが、フィリッパはその姿に自分を重ね合わせます。
上司から不当な扱いを受け、別居中の夫からも理不尽な言葉をかけられたフィリッパ。
「もしかしてリチャード3世も、正当に評価されていないのかも」、そんな思いが彼女の中に湧いてくるのです。
歴史愛好家でもあったフィリッパはリチャード3世にのめり込み、レスターを訪れたり、リチャード3世教会に入会するまでになります。
やがて彼女はリチャード3世の無念を晴らすべく、行方不明の彼の遺骨を探し始めるのです。
主人公の「推し」は、「邪悪なヒキガエル」?
本作をもっと楽しむために、フィリッパの「推し」こと「リチャード3世」について知っておきましょう!
シェイクスピア好きなら聞いたことがあると思いますが、リチャード3世は「邪悪なヒキガエル」などと揶揄されています。
なんでも彼は、性格だけでなく外見も醜悪で、まさに「ヒキガエル」のようだったとか。
その生き様は冷酷な悪王と呼ばれるに相応しく、幼い甥を含めた親族を手にかけた挙句、在位からたった2年と47日で戦場で惨殺されたと言われています。
リチャード3世は本当にそこまで冷酷で醜悪だったのでしょうか?
※リチャード3世、実はハンサムな王だった!
2012年9月、500年の時を超えて発見されたリチャード3世の遺骨。
現代の技術はすごいもので、頭蓋骨から彼の顔立ちだけでなく、髪の色や声色までわかってきました。
リチャード3世は幼い頃は金髪だったようで、復元されたモデルからはなかなかのイケメンであることが発覚。
悪人顔どころか、どちらかといえば「甘いマスク」の青年だったようです。
意外な発見場所で、遺骨が語る凄惨な死とは?
発見された遺骨からわかったのは、リチャード3世の容姿だけではありません。
歴史に語られるように、彼が凄惨な死を迎えたことも事実だと発覚したのです。
リチャード3世は「ボズワースの戦い」の戦いで亡くなっており、シェイクスピアの戯曲では落馬した後に惨殺されるシーンが出てきます。
遺骨からは頭蓋骨になんと10箇所も傷があり、長槍らしきものが脳まで刺さっていたことが発覚。
甲冑を剥いでめった刺しにされた痕跡までありました。
しかも彼の遺骨が見つかったのは駐車場の下。
王族なのにここまでの扱いを受けるとは、やはり悪名高き王だったというのも真実なのでしょうか?
悪人扱いは後世の策略、真偽不明のプロパガンダ?
フィリッパも疑問を抱いたとおり、リチャード3世が言うほどの悪人だったかは怪しいのです。
彼が悪人に仕立て上げられたきっかけは、テューダー王朝のプロパガンダという説も。
歴史をみてみると、リチャード3世は甥のエドワード5世を追い落として王位に就いています。
これだけ聞けば野心家と言われそうですが、エドワード5世の父(リチャード3世の兄)は贅沢三昧の暮らしをしていたような人物。
若くしてこの世を去り、王位に就いたエドワード5世はまだ12歳でした。
ここでリチャード3世が王位に就いたとしても、正当性はありますよね。
その後ヘンリー・テューダーがリチャード3世を殺してテューダー王朝を開くわけですが、この際にヘンリー・テューダーを美化するためにリチャード3世は極悪人として描かれたと言われているんです。
テューダー王朝時代の学者らによって、チャード3世は「極悪非道な暴君」とイメージづけられたのかもしれません。
結局彼が本当に親族たちに手をかけたのか、いまだに真偽は不明なのです。
■参考:シェイクスピアの「リチャード3世」本とDVD【管理人・選】
リチャード三世 (新潮文庫) 著:ウィリアム シェイクスピア
※身体に障害を負った野心家グロスター公リチャードは、兄のエドワード四世王が病に倒れると、王劇を狙い、その明晰な知能と冷徹な論理で、次つぎに残忍な陰謀をくわだて、ついに王位につく―。魔性の君主リチャードを中心に、薔薇戦争へといたるヨーク家の内紛をたどり、口を開いた人間性のおそろしい深淵に、劇詩人シェイクスピアが、真っ向からいどんだ傑作史劇である。【引用:Amazon】
嘆きの王冠 ホロウ・クラウン リチャード三世 【完全版】 [DVD]
※シェイクスピア作品の中でも人気が高くこれまでに数々の名優たちによって演じられてきたリチャード三世。人気俳優ベネディクト・カンバーバッチが“最凶の男”を全身全霊で体現する。
主演サリー・ホーキンスの、素朴な演技が光る!
さて、映画『ロスト・キング 500年越しの運命』に話を戻しましょう。
本作で注目してほしいのは、主人公フィリッパを演じるサリー・ホーキンス。
イギリス出身の女優で、『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞主演女優賞を受賞するなど、数々の名誉ある賞に輝いています。
『ブルージャスミン』で主演のケイト・ブランシェットを凌ぐほどの迫真の演技力を見せてくれたのも印象的でした。
そんなサリーが演技の世界に興味を持ったのは、なんと3歳の時!
家族でサーカスのショーを観たのがきっかけなんだそう。
当初はコメディで人々を笑顔にしたいと考えていたそうですが、小学校で初めて舞台に立ってから演劇の世界にハマっていきました。
役者を目指して王立演劇学校に入学したというから、演技への熱意は相当なもの。
「好き」を極め、成功していくフィリッパと重なるところが
それは、まさに「好き」を極めて成功していくフィリッパと重なるところがありますね。
本作では、サリーの素朴でいて、リチャード3世にのめり込んでいく真っ直ぐな演技に引き込まれます。
「好き」「気になる」、そんな気持ちも突き詰めれば、きっと日常が豊かになっていくーー。
サリーの演技は、観る人に活力と勇気を与えてくれるはずです。
●サリー・ホーキンス(Sally Hawkins)
誕生日:1976年4月27日生まれ
星座:おうし座
身長:158cm
出身:イギリス・イングランド
▶おすすめの代表作品
最大の見どころは、「推し」との掛け合い!
本作の見どころは数あれど、一番楽しいポイントはフィリッパとその「推し」リチャード3世との掛け合いです。
病気ゆえに不当な評価を受けてしまうフィリッパの前に現れるのは、彼女の空想が作り出した「推し」のリチャード3世(ハリー・ロイド)。
悪王というレッテルを貼られた彼の姿は、フィリッパの目に「同じ痛みを負う者」として映ります。
2人が親密に語り合い、時を超えた不思議な絆で結ばれていく様子は、多くの人の共感を得るのではないでしょうか。
誰しも1度は、実際に話したことはないけれど親しみを感じる人や憧れている人を持ったことがあるのでは?
そしてその人がメンターとなって、人生の支えになったり指針になってくれる時もあるはず。
フィリッパにとって※リチャード3世は人生の旅を導いてくれる運命の人だったのでしょう。
▶参考本・本当は「端正な貴公子」?(管理人・選)
※レスター大学の考古学チームが発見した頭蓋骨を元に復元されたリチャード三世の素顔は、大きめな顎、少し曲がった鼻、上品な唇を持つ端正な貴公子で、シェイクスピアが描く極悪非道な怪物には見えない。歴史と文学のはざまを揺れ動いてきたリチャード三世像に、今、科学の光が当てられようとしている。【引用:Amazon】
まとめ
映画『ロスト・キング 500年越しの運命』は、歴史愛好家の主婦が500年間行方不明だった王の遺骨を見つけてしまうというサクセスストーリー。
今までの英国王室もの映画とは違った視点で楽しめて、何かに熱中することの素晴らしさを教えてくれますよ。
次回、後編では英国王室に興味を持った人におすすめの映画を紹介していきます!
参考記事:イギリス王室の歴史が面白い映画『エリザベス』、英国史必見「絶対女王」への道!
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ウェス・アンダーソン作品の世界観が大好き!ライターの「もな」です。
映画にどハマりしたのは、小学生の頃に『ロード・オブ・ザ・リング』を観てから。
それからというもの、映画は私の人生にとって欠かせないもので、大学では映画学を専攻しました。
私の書く記事が、誰かと素敵な映画との出会いの場になったら嬉しいです。
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