アリス・ウー監督、NETFLIX映画『ハーフ・オブ・イット』。青春は100分にまとまらない!

ハーフオブイット
『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』

今回ご紹介する映画は Netflix公開映画『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』(20)です。

舞台はアメリカの田舎町、主人公は中国系の成績優秀な高校生エリー。

エリーの心に秘めた想いや戸惑い、そして決意といった彼女の内面にあるものをやさしく包んでいくような映画です。

筆者は、声優内山昂輝さんのラジオ番組「内山昂輝の1クール!」内で絶賛されていたことがきっかけで視聴したのですが、これが最高でした。

その魅力について紹介します。

(冒頭画像:引用https://www.facebook.com/TheHalfofItNetflix/)

『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』あらすじ

ハーフオブイット
左:エリー、右:ポールhttps://www.facebook.com/inscrutable/

内向的で成績優秀な女子高生エリー(リーア・ルイス )は、体育会系な男子学生ポール(ダニエル・ディーマー)からの依頼で、マドンナ的存在の女子アスター(アレクシス・レミール)へのラブレターを代筆することになる。

代筆についてのやりとりを重ねるうちに、ポールとエリーの間には友情が芽生える。

しかし、ポールの恋するアスターはエリーの片想い相手でもあり、エリーは複雑な心境を抱える。

エリー、ポール、そしてアスターの奇妙な三角関係のゆくえは…

左:エリー、右:アスターhttps://twitter.com/TheHalfOfItt/

監督の手腕が光る、血の通ったマイノリティーの主人公描写

本作の監督脚本を務めたアリス・ウー監督はレズビアンを公言している人物で、本作で描かれる三角関係も実体験を基にしているのだそうです。

監督のアイデンティティが主人公エリーの揺れ動く感情や行動にリアリティを与えているのは間違いありません。

アリス・ウー監督
アリス・ウー監督 https://www.facebook.com/inscrutable

また単なる三角関係ものに留まることなく、多様性という観点からブラッシュアップされた青春映画として成立させることに成功しています。

例えば主人公エリーは、アジア系=勤勉というステレオタイプに加えて、レズビアンというマイノリティの要素が乗っています。

監督はエリーの内面を丁寧に描くことによって、ステレオタイプの枠組みを利用しながらも、その型を絶妙にずらし、わたしたちに潜む偏見を「エリー」という人間そのものへの注目に変えています。

多数派ではない者の物語を語ることで、少数派という立場を換骨堕胎させているのです。

多様性を反映しているという点では映画『ブックスマート』も似た傾向があると思いますが、『ハーフ・オブ・イット』の場合は登場人物の描写がよりきめ細かく、ナイーブなティーンエイジャー描写が素晴らしいものになっています。

ハーフ・オブ・イット
訳:「私たちは時折沈黙のマイノリティーとして描かれる。私たちは数の内に含まれないのです」(アリス・ウー) https://www.facebook.com/inscrutable

●アリス・ウー監督(Alice Wu)

誕生日:1970年4月21日生まれ

星座:おうし座

出身:アメリカ・カリフォルニア州

▶アリス・ウー監督の主な作品


素顔の私を見つめて(作品情報) 

”ハーフ・オブ・イット”に込められたもの

本作冒頭には哲学者プラトン『饗宴』からの引用があります。

「人間の身体は神ゼウスによって二つに分裂させられてしまったため、一人では不完全であり、人間は自らその片割れ(=愛)を探し求めている」と。

このプラトンの引用を本作に落とし込むならば、「高校生活の中で、自分の属するコミュニティに対して違和感を感じ、自分を見失ってしまったり押し殺してしまうティーンエイジャー」を表しているのではないでしょうか。

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エリーの旅立ち

※ラストのネタバレあります※

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本作はエリーの田舎町からの旅立ちをもって幕引きとなっています。

エリーは自分の才能(頭脳明晰)を生かしてバイトをすることで家計を助けるという、立派な娘という側面がありる一方、恋愛に対しては臆病で、引っ込み思案なところがありました。

そんな彼女が高校卒業のタイミングで思いを寄せるアスターと真正面から向き合い、次なる舞台へ向けて旅立つラストシーンは印象的です。

若者がまだ見ぬ世界に不安と期待を抱えて、未来へ立ち向かっていく姿は美しい。

「若者の旅立ち」があらゆる作品のモチーフになっているのは、それだけパワフルかつポジティブな力がそこにあるからだと思います。

妊娠した高校生が里親を探す、ジェイソン・ライトマン監督『JUNO/ジュノ』(07)の主人公ジュノは、「自分には母親はまだ早い」という「気づき」が、若者の旅立ちを象徴しているようであり、彼女の人生をステップアップさせるきっかけになりました。

エリーの場合は「町を出る」という決断が、新しい世界に飛び込む一歩になったのだと思います。

スポーツで全米優勝するとか、首席で大学に入るとか、何かまとまった成果だけでなく、エリーやジュノやその他多くのティーンたちが踏み出す一歩が人生の原動力になることは多いと思います。

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まとめ:面白いのはこれから

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終盤のモノローグで、エリーは本作について「ラブストーリー」でもなく、「欲しいものを手にいれる話」でもないと語ります。

ちなみに英語で青春映画ジャンルのことを”coming-of-age film”と言います。

”coming-of-age”には「成熟する」という意味と「物事がうまく行き始めるとき」という意味がありますが、

邦題にある通り「面白いのはこれから」だとすると、まさに”coming-of-age”映画なのだと思います。

エリーの言うようにこの映画は「ラブストーリー」や「欲しいものを手にいれる話」といった言葉ではまとめられないのです。

青春の真っただ中にいる方、恋愛色の強い映画が苦手な方、どんな方にもおすすめできる素敵な映画だと思いました。

気になりましたら鑑賞してみてください。

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