みなさんは、「芸術映画」と聞くとどんなイメージを持ちますか?
理解するのが難しそう、映像が綺麗、言葉にできないけど面白い……などなど、色々とあると思います。
しかし、「芸術映画」と一口に言っても色々。
物語の筋がほとんどない映像詩のようなものから、意外としっかりとストーリーがあるものまで様々です。
今回は、物語もアーティスティックな映像も楽しめるアート映画を厳選して3本ご紹介します!
(冒頭画像:引用https://www.facebook.com/wimwendersfoundation)
『ザ・フォール/落下の王国』:現実の出来事が夢に反映
※自殺描写に関する言及があります。ご注意ください。
ターセム・シン監督の2005年の映画『落下の王国』は、様々な世界遺産のある何十カ国もの場所でロケが行われた荘厳な映像が特徴です。
1915年のロサンゼルス。主人公は、撮影中に怪我をしたスタントマンのロイ(リー・ペイス)と、同じ病院に入院していたオレンジ積みの少女アレクサンドリア。
ロイは怪我で半身が不随になってしまったばかりか、恋人を主演俳優に取られて失意のどん底にいました。
腕を骨折しただけで自由に動くことのできるアレクサンドリアと出会ったロイは、自殺するためのモルヒネを彼女に取りに行かせようと考えます。
それは、思いつきの作り話を語って、続きと引き換えに薬を手に入れるというものでした。
物語を語る力が、生きる力に変化する
ロイの語った作り話は、同じ相手に恨みのある6人の男が力を合わせて復讐を果たすという物語。
映画では、ロイの語る物語と病院での場面が交互に挿入されます。
そして、おとぎ話に登場する人物を演じるのは、ロイや病院の先生、看護師の女性など、現実世界のそこかしこで登場するのと同じ俳優たち。
現実で起きた出来事が夢に反映されるような、不思議な感覚を味わえます。
自分が思いつきで語った物語とそれを聞く少女によって、様々なことを諦めようとしていたロイが葛藤し変化していく「語り」の力を見ることができます。
ちなみに、ロイ役のリー・ペイスは、ベッドにいるだけでは分かりませんが身長が200センチ近くある体躯と端正な顔の持ち主。
おとぎ話の主人公である山賊の衣装が様になっていて、素晴らしい存在感を発揮しています。
特徴的な衣装の数々は、世界的に有名な衣装デザイナーの※石岡瑛子の作品です。
独特の雰囲気が色彩豊かな画面にピッタリ合っています。
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※日本を代表するアートディレクターであり、グラフィックデザインを皮切りに、プロダクトや衣装デザイナーとしても活躍した石岡瑛子の世界で初めてとなる大規模回顧展が2020年11月から東京都現代美術館にて開催(~2021年2月14日)。(中略)さらにジャンルを広げ、オリンピックやオペラ、サーカスの衣装デザインも手掛け、その結実としてアカデミー賞とグラミー賞を受賞。多岐に亘るジャンルの仕事に挑戦し、いずれも高い強度で成し遂げた石岡瑛子の仕事を総覧する。【引用:Amazon】
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『パターソン』:詩とともに生きる1週間
ジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』は、記憶に新しいという人もいるのではないでしょうか。
アメリカ、ニュージャージー州のパターソン市に住む、バス運転手のパターソン(アダム・ドライバー)は、仕事の傍らに詩を書くのがライフワーク。
毎日同じ時間に起きて、同じバスのルートを運転し、目に留まったものや感じたことをノートに書き連ねます。
そんなパターソン氏の、月曜日から日曜日までの1週間を淡々と描いたジャームッシュ監督らしい作品です。
「何も起こらない」1週間から見えるもの
パターソン氏の毎日は決まったルーチンがあり、何の変わり映えもないように見えます。
しかし、映画を見ていると、バスの乗客の会話やバーでの出来事、土曜日に起こるとある事件など、実はたくさんのことが起こっているのも事実。
そんな「何も起こらない」1週間にいかに物語や詩が隠れているか、見れば見るほどに見えてくる、不思議な心地よさがあります。
筆者はよく深夜にこの映画を観ます。
時間がゆっくり流れていくようで、忙しい時期や不安なことがあった日など、気持ちを落ち着かせたい時におすすめです。
非凡から平凡まで、アダム・ドライバーの魅力
本作の主演であるアダム・ドライバーといえば、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)から始まる3部作のカイロ=レン役が有名ですよね。
なかなか癖の強い印象がありますが、実はオフビートな作品でたくさんの脇役を演じ、爪痕を残してきた演技派でもあります。
『パターソン』は、そんなアダム・ドライバーの強烈な個性を匿名性に落とし込んだ「ユニークな普通の人」という役がピッタリはまっている作品です。
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※アメリカのモダニズム詩人、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ(1883~1963)の代表作『パターソン』(Paterson)。
ジム・ジャームッシュ監督の同名映画にヒントを与えたこの長篇詩が追い求める「アメリカ的なるもの」とは? 【引用:Amazon】
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人間になりたいと願う天使:『ベルリン・天使の詩』
ヴィム・ヴェンダース監督の『ベルリン・天使の詩』は、1987年西ドイツのファンタジー映画です。
主人公は、天使のダミアン(ブルーノ・ガンツ)。
毎日高いところや雑踏に紛れて人間たちを見守っています。
小さな子供以外の人間には見えなかったり、モノに触れることができない特性から、天使たちは人間に直接関わることはできません。
しかし、ダミアンはある日サーカスの空中ブランコ乗りの女性に恋をしたことで、「人間になりたい」と思い始めるようになり……。
当時のベルリンの風景を、天使の視点で旅する
この映画が撮影されたのは、89年にベルリンの壁が崩壊するわずか数年前のこと。
当時の街の風景が収められた映像の中に、崩壊直前のグラフィックアートでいっぱいになった壁も含まれています。
劇中で特に説明はありませんが、ダミアンがいよいよ人間になろうという時に画面いっぱいに登場するので、きっとすぐにわかるでしょう。
『ベルリン・天使の詩』は中盤までの画面がモノクロですが、この場面からは鮮やかなカラーになります。
人間になったダミアンが、色覚や痛覚といった身体の感覚を初めて体験し、ブランコ乗りのマリオンを探す様子はとても美しいです。
「子供が子供だった時」から始まるモノローグのドイツ語の響きと一緒に、ぜひ映像から読み取れる物語に注目してみてください。
秋の夜長に、素敵なアート映画を!
筆者おすすめのアート映画を紹介してきました。
どの作品も劇伴控えめの、淡々とした場面が多くあるのが共通していて、家で見ていると気が散ってついスマホを見たくなってしまうかもしれません。
しかし、一度集中して映像に身を委ねることができれば、素敵な2時間になること間違いなしです。
ぜひ、いつもとは違った映画体験にチャレンジしてみてください!
参考記事:アートが題材の映画10選。美術館・絵画ファンにぴったりな洋画作品、ジャンル別にご紹介!
《ライター:ぜろ》 担当記事一覧はこちらをクリック→
高校2年生で『アベンジャーズ』を観て以来の映画ファン。大学と大学院では映画研究にどっぷり浸かっていました。
アナログでファンアートを描いてはインスタグラムに載せています。楽し〜!
話題の作品や、そこにつながる過去の名作、注目のキャストなどをわかりやすく楽しく紹介していきたいです!
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