文明社会が崩壊した地球において、生き残った人間たちで新たな社会を形成したアメリカ、シカゴ。
新たな社会の門出を迎えた一人の少女が、異端とされ追われる身となりながらも、自身の信念を貫くべく戦いに身を投じていく姿を描いたのが、映画『ダイバージェント』シリーズです。
今回は2014年に第一作を公開、シリーズ三作を通して世に大きな印象を残したこの『ダイバージェント』シリーズの魅力を考察します。
『ダイバージェント』シリーズ: 作品情報
全米で大ヒットしたヴェロニカ・ロスのヤングアダルト小説を、『ファミリー・ツリー』のシェイリーン・ウッドリー主演で映像化したシリーズ作品。
全人類が16歳になると強制的に五つの派閥に振り分けられ、そのた中で生涯を過ごすことで平和を築いた近未来世界。
派閥を超えたダイバージェント(異端児)であると認識された一人の少女が、抹殺対象とする政府の手から逃れる中で、仲間たちとともに体制に立ち向かっていく姿を描きます。
第一作『ダイバージェント』を、2021年公開の映画『ヴォイジャー』などを手がけたニール・バーガー監督が担当。
第二作『ダイバージェントNEO』、第三作『ダイバージェントFINAL』をロベルト・シュヴェンケ監督が手がけました。
メインキャストには主人公・トリスをウッドリーが担当、その恋人・フォーを『アンダーワールド』シリーズのテオ・ジェームズが演じます。
さらに『セッション』『トップガン マーヴェリック』のマイルズ・テラー、『ベイビー・ドライバー』『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)のアンセル・エルゴートと、今をときめく豪華俳優陣が名を連ねています。
(あらすじのあとに、プロフィールを紹介)
《原作者紹介》
●ヴェロニカ・ロス(Veronica Roth)
誕生日:1988年8月19日生まれ
出身:アメリカ・ニューヨーク
▶本作タイトル:「ダイバージェント 異端者」
『ダイバージェント』あらすじ
近未来世界の、かつてアメリカのシカゴと呼ばれた街。
ここでは全人類が16歳になると強制的に「勇敢(ドーントレス)」「無欲(アブネゲーション)」「平和(アミティー)」「高潔(キャンダー)」「博学(エリュダイト)」という五つの派閥に振り分けられることで平和が築かれていました。
「無欲(アブネゲーション)」の両親を持つ少女ベアトリスは、派閥を決める「選択の儀式」において、どの派閥にも該当しない「異端者(ダイバージェント)」であると判定されてしまいます。
「異端者は、派閥システムの妨げとして、政府の抹殺対象となる」そのことを知った彼女は、振り分け検査者の協力もあって儀式の結果を偽り「勇敢」のファクションに所属、自ら名前をトリスと変えてその危機をやり過ごします。
軍事・警察の役割を担う「勇敢」における厳しい訓練を耐え抜き、強さを蓄えていくトリス。
しかし何者かによる異端者暗殺計画が動き出し、彼女にも危険が迫ります。
一方、トリスは危機から逃れる中、五つの派閥の裏で恐ろしい陰謀が動き始めていることを突き止めるのでした…。
『ダイバージェントNEO』あらすじ
近未来の世界で危険因子とされていた「異端者(ダイバージェント)」のトリスは、派閥の裏で企てられていた陰謀を阻止し「勇敢」のコミュニティーからの脱出に成功します。
しかしトリスの宿敵である「博学」の指導者ジェニーンは魔の手を止めず、彼女はさらなる逃亡を余儀なくされていました。
そんな中、トリスらは派閥に属さない「無派閥」の連中と出くわします。
派閥連中をよしとしない彼らはトリスらを捕らえますが、彼女の仲間のフォーが自ら無派閥のリーダー・イブリンの息子であることを告白したことでトリスらは九死に一生を得ます。
一方、ジェニーンの悪事は一時止められたものの、相変わらず派閥を中心とした社会システムは保たれており、イブリンはその身勝手な策略を非難すべくジェニーンの暗殺を画策していると明かします。
トリスたちはこの状況に業を煮やし、「博学」の指導者たちが「異端者」を排除する理由を突き止めるべく「高潔」のコミュニティーに潜入します。
真実に向かって奔走する中で、彼女らは「異端者」とこの世界にまつわる衝撃の真実にたどり着いていくのでした…。
『ダイバージェント FINAL』あらすじ
人類を五つの派閥に分類・管理する社会体制がトリスらのクーデターによって崩壊し、あとに残された「高潔」「平和」「無派閥」らを中心とした新たな支配者の勢力が拡大していったシカゴ。
そんな中でトリスは人類が社会体制崩壊に向かった真相を確かめるべく、仲間とともに巨大なフェンスとゲートに囲まれたシカゴからの脱出を試みます。
塀の外でトリスらは、放射能に汚染され酷く荒廃した光景を見て絶望しながら、それでも真相にたどり着くべく歩みを続けます。
ところがそんなトリスらを追う「無派閥」者たち。
「無派閥」の執拗な追っ手に追いつかれトリスたちが絶体絶命と思ったそのとき、見えない壁が壊され、現れた部隊により「無派閥」の追っ手たちは一掃されます。
またもや大きな救いを得たトリスたちは「壁の向こうの人たち」に連れられ街に到着、先進的な技術を持つ彼らがシカゴに築いた社会体制が、人類を救う施策を得るための実験であったことを知ります。
彼らが人類存続のために奮闘していたと知り、その彼らを信用するトリスたち。
しかしその裏にはさらに巨大な闇がうごめいていたのでした。
成長を遂げる一人の女性の姿、現世界につながる構図
本作は社会や世界の縮図的な構図が描かれる中で、今まさに社会に飛び出そうとする若者たちが、自身の信念を信じ戦う姿を魅力的に描いています。
映画は当初、この作品の制作費として4000万ドルを予定していましたが、配給元のライオンズゲートが『ハンガー・ゲーム』シリーズの成功を受けて8000万ドルに増額したという経緯があります。
『ハンガー・ゲーム』は2008年に刊行されたアメリカの作家スーザン・コリンズの同名小説が原作の物語ですが、本作の映画化という点においてはその発表時期やテーマという部分で共通するものも考えさせられます。
世界の裏でうごめく闇というこの設定を「都市伝説的」と見る人もいるかもしれません。
しかし一方でメディアという存在の信憑性が疑われるような状況にある現在において、このような不穏な動きは世界のあちこちで感じられるようになっているのもまたしかり。
作品の発表時期を考えても非常に時代の潮流を示した作品といえるでしょう。
その意味では近未来的な背景を持ちながらも、現代の人間からかけ離れた印象は違和感を持たれるものであり、ドラマ作品で高く評価されているシェイリーン・ウッドリーを主人公としてキャスティングしたことは大きな成功要因の一つとなりました。
シリーズ第一作の序章で、ウッドリーの印象をそれほど強く感じなかった、という人も少なくないのではないでしょうか。
しかし時間軸が進んでいくにつれその印象は確固たるものへと進化し、物語の最後には強い光を放つまでになります。
一女性の成長の様を描くという意味で、ドラマ出演で大きな評価を得られているウッドリーを起用したのは、この点において適切だったといえるでしょう。
シリーズ通してあどけなさすら残る少女が、一人の自立した女性へと成長していく様は、物語の主題を強く表すとともに非常にポジティブなイメージを見る者に印象付けてくれます。
●シェイリーン・ウッドリー(Shailene Woodley)
誕生日:1991年11月15日生まれ
星座:さそり座
身長:173cm
出身:アメリカ
▶おすすめの代表作品
●テオ・ジェームズ(Theo James)
誕生日: 1984年12月16日生まれ
星座:いて座
身長:183cm
出身:イギリス・オックスフォード
▶おすすめの代表作品
物語を際立たせる気鋭の俳優、この二人にも注目!
また、本作はメインキャストのシェイリーン・ウッドリー、テオ・ジェームズに目が行きがちですが、シリーズを通して二人と対照的な性質を見せるピーター役のマイルズ・テラー、ケイレブ役のアンセル・エルゴートにも要注目です。
テラーは2022年5月公開の『トップガン マーベリック』、エルゴートも2021年公開のスティーヴン・スピルバーグ監督作『ウエスト・サイド・ストーリー』にそれぞれ出演と、話題作でメインキャストを務め、近年では要注目の若手俳優。
一方、本作のピーターは、信念を貫こうと生きるトリスとは全く正反対に、常に「悪役」的立場に。常に自分の都合のいい立場にこだわり、仲間を裏切ることすらいとわないという悪ぶりを見せます。
ケイレブもトリスの実の兄でありながら、どこか自分に自信のない面を見せ、ときにトリスとフォーを苛立たせます。
ピーター、ケイレブの劇中における存在感は、核心に向かって目の前に立ちはだかる壁をものともしないヒロインとともに、物語のテーマを際立たせる役割を果たしています。
二人とも主演作を持つスター的存在ですが、こうしたワルぶり、ヘタレぶりは逆に本格的な俳優としての資質を試されるポイントでもあり、それをしっかりと務め上げ、その存在の意味をしっかりと見せた二人からは、改めて「本物の俳優」であることを認識させられます。
特にエルゴートは端正なマスクでわりに細身の長身男性だけに、ヘタレという部分では表現も多少難しい部分があったのではないでしょうか。
今後の彼らの出演作を見る上では、本作で見せた演技力、存在感はある意味出演作の期待度を推し量る基準になり得るといえます。
●マイルズ・テラー(Miles Teller)
誕生日: 1987年2月20日生まれ
星座:うお座
身長:183cm
出身:アメリカ
▶おすすめの代表作品
●アンセル・エルゴート(Ansel Elgort)
誕生日: 1994年3月14日生まれ
星座:おとめ座
身長:193cm
出身:アメリカ
▶おすすめの代表作品
まとめ:ファイナルの意味
このシリーズはそれぞれ1作品の展開で見えた結末が次へと持ち越され、ラストの『ダイバージェント FINAL』におけるエンディングでも、どこか釈然としないシーンで幕を閉じます。
実は当初第三作『ダイバージェント FINAL』のあとに、完結編となる第四作が作られる予定となっていました。
ところが第三作の興行成績が思わしくないという判断から、続編を作るという計画は無期限延期となった経緯があります。
続編が作られないのは、第三作のラストでも十分に様々なことを想起させられる、ある意味第三作でイメージを完結させて幕を閉じた格好となっているから、という理由もあるかもしれません。
とはいえ、続編がまだ見られないのは非常に残念な状況ではあります。
先に紹介したメインキャスト4人のほかにも、ビル・スカルスガルド、ゾーイ・クラヴィッツ、ナオミ・ワッツ、オクタヴィア・スペンサー、ジェフ・ダニエルズといった豪華な俳優陣が名を連ねています。
映画ファンとしてはこれだけをとってもポイントの高い作品シリーズであり、広大ながら普遍的なテーマを扱った作品がどのようなエンディングを迎えるのか、その行く末が見られる日が来るのを、心待ちにしたいところであります。
《ライター:黒野でみを》 クリックで担当記事一覧へ→
40歳で会社員からライターに転身、50歳で東京より実家の広島に戻ってきた、マルチジャンルに挑戦し続ける「戦う」執筆家。「数字」「ランク付け」といった形式評価より、様々な角度から「よさ」「面白さ」を見つめ、追究したいと思います。
記事へのご感想・関連情報・続報コメントお待ちしています!