コメディ?『金持を喰いちぎれ』を考察、80’sロンドンを舞台に強烈インパクト・メッセージ!

金持ちを喰いちぎれ
(C)1987 National Film Trustee Company Ltd. All rights reserved.

今回紹介、考察する作品は、80年代のロンドンを舞台に、金持ちと貧乏人の激しい抗争をブラックユーモアたっぷりに描いた映画『金持を喰いちぎれ』です。

1987年に公開された本作は評論家筋でさまざまな物議を醸しながら、30年近くの時を経て日本公開!。

今の時代に見ても強烈なインパクトを放つ、風刺とメッセージが詰まった物語です。

当時イギリスのコメディー集団を率いたピーター・リチャードソンが作品を手がけ、ポール・マッカートニーをはじめ世界的に名だたるミュージシャンが多数出演を果たしています。

映画『金持を喰いちぎれ』:作品情報

ロンドンの上流階級と底辺に暮らす者たちの過激な対決をブラックユーモアを込めて描いたストーリー。

作品を手掛けたのは、イギリスのコメディ集団「コミック・ストリップ」の創設者であったピーター・リチャードソン監督

音楽を、イギリスのロックバンドであるモーターヘッドが手掛けました。

またそのボーカリストであるレミー・キルミスターは作品にもキャストとして出演を果たしました。

他にもザ・ビートルズポール・マッカートニー「ザ・ポーグス」シェイン・マガウアンザ・ローリングストーンズビル・ワイマンらミュージシャンが多数カメオ出演を果たしています。

(C)1987 National Film Trustee Company Ltd. All rights reserved.
映画タイトル金持を喰いちぎれ
原題Eat the Rich
監督ピーター・リチャードソン
出演ロナルド・アレン、ラナー・ペレー、フィオナ・リッチモンド、サンドラ・ドーン、レミー・キルミスター、ノッシャー・パウエルほか
公開日2023年7月14日(金)
公式サイトhttps://bastards-eattherich.jp/#modal 

■1987年 イギリス映画 /カラー /89分

社会の底辺が、金持ちを喰いちぎる!:あらすじ

(C)1987 National Film Trustee Company Ltd. All rights reserved.

自分の力に物言わせどんな難問もねじ伏せてしまう上流階級の内務大臣ノッシュは、ソ連のスパイが仕組んだ女性スキャンダルの罠をものともせず、その剛腕ぶりを見せつけており、ある意味上流階級の象徴的な姿をさらしていました。

その一方で、ロンドンの高級レストラン「バスターズ」でウェイターとして働いていたアレックスは、金持ちの客や上司にいびられながらも強く生きていました。

しかしその強気な態度が上司からは鼻つまみとされ、ある日レストランをクビになってしまいます。

社会の最底辺に堕ちたアレックスでしたが、全く動じる様子も見せず仲間たちとともに「バスターズ」を襲撃。

店を乗っ取り、店名を「Eat the rich」として上流階級の客人に料理を出すようになります。

金持ち連中の間ではたいそうな評判となった「Eat the rich」の肉料理。

ところがその材料には、思わぬ秘密が隠されていたのです…。

ユーモアはあるけど、「コメディー」じゃない!?

(C)1987 National Film Trustee Company Ltd. All rights reserved.

「そりゃあないだろ!?」と思わず叫んでしまいそうなハチャメチャ活劇。

イギリスの作品らしいブラック・ユーモアのテイストを交えて描いているところにも、強い作品のカラーが示されています。

物語の構成や画角など、まさに古き良き80年代の雰囲気をたたえた作品です。

しかし物語の終わり方は、このカラーに対しては斬新さすら感じるものがあります。

金持ちと貧乏人、といえばダン・エイクロイド、エディー・マーフィー出演による1983年の映画『大逆転』を思い出します。

『大逆転』は、一人の底辺に生きる男と、陰謀により底辺にまで落とされた男の、ハチャメチャ「大逆転」ぶりを描いた物語でした。

しかしこの物語では、『大逆転』で見られるような大団円はなく、ラストシーンに見られるのは横暴にふるまう大きな力と、それに反抗する弱者たちの激しい攻防、そしてそのはかない終焉であります。

そこには80年代に見られたロンドン・パンクの衰退の姿とも重なって見えます。

また物語では金持ちと貧乏人、両者が激しくぶつかり合う中で社会主義と思しき裏に潜む勢力が、相打ちとなるぶつかり合いのはざまでまんまと消え失せるという物語が描かれます。

かつて世界で栄華を誇ったイギリスという国の絶対的優位が揺らぐ姿も見えており、今の時代では忘れられながらも時に危惧されるような状況において出現する可能性のある構図を、想起させるものとなっています。

物語に織り込まれた、「モーターヘッド」の存在意味

(C)1987 National Film Trustee Company Ltd. All rights reserved.

この作品の大きな見どころの一つは、豪華ミュージシャン群の中で光る、イギリスのヘヴィーロック・バンド、※モーターヘッドレミー・キルミスターの出演にあります。

イギリスを代表する世界的なロックバンドのフロントマンであったレミーですが、彼の役柄はいわゆる「蚊帳の外」の人間であります。

ある意味社会に反旗をひるがえすというイメージもあったこの時代のロック、しかもハードロック/ヘヴィ・メタルといった重低音ロックの先駆けとして揺るがない存在感を見せつけるモーターヘッド。

彼はこのバンドのボーカリストでした。

社会に反旗を翻したパンク・ロックとは少々異なる位置づけにあったモーターヘッドの音楽性は、絶大な人気を誇りながらもパンクのような大きなムーブメントを作り上げるには至らず、どこか享楽的なイメージも兼ね備えていました。

■※伝説のモーターヘッドとレミー・キルミスター【管理人:選】


モーターヘッド 極悪列伝

※ジャンルを超えてインパクトを与えた豪快暴走サウンドでロック・シーンの権化として君臨したモーターヘッド。2015年にバンドの象徴であるレミー・キルミスターが死去し、活動を停止した後も、その威光は消えることなく輝き続けています。【引用:Amazon】


レミー・キルミスター自伝 ホワイト・ライン・フィーヴァー

※デビュー50周年&生誕70周年を迎えた”極悪”レミーことレミー・キルミスター自伝の日本語訳がついに登場!その幼少時代からツアー道中、ドラッグや酒の話まで、レミー節が炸裂!!他では絶対に見ることのできないレミーの幼少期の秘蔵写真も多数収録!

▶Amazonプライム会員:特典(動画・ミュージック・本・ライブ・DVD他)

その意味で、彼が物語のメインストリームの外より客観的な視点で主人公たちを眺める姿には、深い意味合いが感じられるところです。

この作品の音楽を担当したモーターヘッドが演奏する主題歌の「Eat The Rich」はギンギンに歪んだギターとヘヴィーなビートが強烈なロックナンバーです。

一見普通の人には「とっつきにくい映画かも…」と思わせるような匂いをイメージとして漂わせています。

しかし、英国では非常に親しまれたバンドであり、映画に使われた音楽としては2016年に公開された映画『シング・ストリート 未来へのうた』の冒頭で流れた「Stay Clean」など、有名なナンバーもたくさんあります。


シング・ストリート 未来へのうた(作品情報)

イギリスとロック、深い繋がりを感じさせる要素

(C)1987 National Film Trustee Company Ltd. All rights reserved.

バンドはレミー以外にもたくさんのミュージシャンが脇役としてカメオ出演も果たしています。

中でも注目すべきは、あの※ザ・ビートルズのメンバーであったポール・マッカートニー

彼はいわゆる「リッチ」、富豪衆の一人として登場するわけですが、ここにも物語の大きなポイントが隠されていると言っていいでしょう。

■※ザ・ビートルズとポール・マッカートニー【管理人・選】


PAUL McCARTNEY THE LIFE ポール・マッカートニー ザ・ライフ

ビートルズの解散から40年以上たった今でもその人気は衰えず、彼らの出身地であるリバプール市内では青色のミニバスが観光客を乗せてビートルズ所縁の地を巡っている。4人組の中でもハンサムで甘い歌声が人気であったポール・マッカートニー。ビートルズはもちろん、ポールの人生や歌をより深く知るのに、恰好の一冊となるはずだ。【引用:Amazon】

▶Amazonプライム会員:特典(動画・ミュージック・本・ライブ・DVD他)

強い影響力を持って急成長を遂げたロック・ミュージックは、80年代になるとアメリカやイギリスなどを中心にさまざまな変革を遂げ、やがて商業的な波に大きく取り込まれます。

つまりは「ロック」は「リッチ」に「喰いちぎられてしまった」わけであります。

ポールの位置づけはまさにそんな印象すら覚えるところであり、現題「Eat the Rich」というタイトルにはまるで「奪われた我々のロック文化を取り戻す」というカラーの意味合いまで感じられることでしょう。

非常に雑多な雰囲気の画作りにコメディーテイストと、とらえどころのない作品にも見えますが、奥深い部分には辛辣な作品のメッセージが込められているようでもあります。

《ライター:黒野でみを》 クリックで担当記事一覧へ→

黒野でみを,プロフィール40歳で会社員からライターに転身、50歳で東京より実家の広島に戻ってきた、マルチジャンルに挑戦し続ける「戦う」執筆家。映画作品に対して「数字」「ランク付け」といった形式評価より、さまざまな角度からそれぞれの「よさ」「面白さ」を見つめ、追究したいと思います。

nandemonews20201225@gmail.com

ブログ統計情報

  • 1,381,336 アクセス

Be the first to comment

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください