第二次世界大戦の残酷な戦場の一場面から、戦いの中で複雑な思いにさいなまれる人々の表情をとらえた戦争映画『フューリー』。
ドイツ軍との戦いに挑む連合軍米兵部隊を取り巻く人々の生き様を壮絶に描いています。
泥臭く激しい戦闘の中、死のはざまで揺れ動く人々の表情をアクティブにとらえ、戦争の残酷さを強烈に訴えていきます。
一方、撮影が困難であるといわれる第二次世界大戦のドイツ軍タイガー戦車の本物を起用。
また、部隊の親密さを表現する施策として撮影前に役者同士で殴り合いをさせるなど、さまざまな逸話もある作品でもあります。
今記事ではこの、2014年の映画『フューリー』が示す戦争というハプニングの一面がどのようなものなのか、人物の描かれ方や表情などの印象から探っていきます。
『フューリー』作品情報
第2次世界大戦下で連合軍がドイツ侵攻を進める中、絶望的な戦況に陥った一台の戦車。
その戦車を駆る連合軍米兵士たちの表情から、史事からは見えない戦争の一場面を描いた戦争ドラマです。
『エンド・オブ・ウォッチ』『スーサイド・スクワッド』『サボタージュ』などのデヴィッド・エアー監督が作品を手がけました。
主人公ウォーダディー役と務めるのはブラッド・ピット。
他にも、『トランスフォーマー』シリーズのシャイア・ラブーフ、『パトリオット』『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』のローガン・ラーマン、『ワールド・トレード・センター』『』マイケル・ペーニャらが共演を果たしています。
ペーニャは『エンド・オブ・ウォッチ』にも出演しています。
『フューリー』あらすじ
連合軍がドイツへの侵攻を深めつつあった1945年。
連合軍の米兵ウォーダディー(ブラッド・ピット)は、その最前線で「フューリー」と名付けられた戦車と部隊を率い激戦をくぐり抜けていました。
ある日、彼らの部隊に新兵のノーマン(ローガン・ラーマン)が配属となります。
5人となった部隊の中で、現場に不慣れのため仲間とのやり取りに困惑するノーマン。
そんな彼にウォーダディーはお構いなしに罵声を浴びせ、仲間たちは突っかかり衝突を繰り返します。
そして戦況は厳しく、進軍中にドイツ軍の攻撃を受け周囲の部隊は次々とやられていきます。
しかしそんな中で生き残った彼らにはねぎらいもなく、ウォーダディーたちはなおも過酷な戦いを強いられるのでした。
戦争を取り巻く「怒り」の感情を中心にとらえた物語
本作は戦争というハプニングを、最前線に立つ人や戦争によって直接的な打撃を受けてしまう人々という戦争の一側面における視点が描かれています。
その巨視的な視点との落差より、出来事のネガティブな部分をクローズアップするというアプローチ方法です。
「フューリー(Fury)」とはいわゆる「怒り」を表す英単語。
意味合いとしては同様に怒りを表す「Anger」といった言葉より、さらに強い感情としての「怒り」を示すものといわれています。
この物語の登場人物は常に不満を抱えた者ばかり。
いわゆる「怒り」を抱えた人間ばかりといえるでしょう。
特徴的なのは、一つではないさまざまな「怒り」の感情を抱えているという点にあります。
大きくは、望まない最前線に半ば無理やり送られた不条理さに対する「怒り」。
しかし、不満ながらも避けられない運命を乗り越えるために、無理やりに敵に向ける「怒り」。
一見似たような、しかし性質としては相反する二つの感情なのです。
一人の人間が抱えるにはあまりに矛盾したこの二つの感情にさいなまれ、疲弊していく兵士たち。
物語では、そんな彼らが出会いや苦労を通して一旦はつながり、連帯感でつかの間の休息を得るシーンも。
しかし、次の瞬間には壮絶な争いでその安堵を一気に破壊されるという無慈悲さを浴びせられ、兵士たちはどんどん絶望に追いやられていきます。
そしてクライマックスでは、大勢で押し迫るドイツ軍部隊との対決へと…。
どう考えても勝算のない戦いの中で生き残るべく死力を尽くす彼ら。
結果的にそれは報われないものの、ここで見せる彼らの人間性、生々しい表情からは、あらゆる感情を飛び越えて「生きる」という目的への執念を考えさせられます。
そこでは不条理さに悶々とした表情を見せる人々が抱えた重荷をすべて取り払い、人が持つべき第一に優先すべきことは「生きる」ことであると、かすかにポジティブなメッセージを示しているようでもあります。
主演ブラピの、真骨頂を発揮した存在感
登場人物の設定としては、ブラッド・ピット演じるウォーダディーが主人公とされています。
しかし、物語はどちらかといえば部隊にあとから合流する新兵ノーマンの視点が強い印象を表しています。
物語上ではウォーダディーが抱く感情がもっとも複雑に入り混じったものであり、映画の主題を考える上では最重要ポイントといえます。
ノーマンは戦争の現場そのものに直面することで想像を超えた残酷さ、壮絶さ、不条理さに大きく心動かされます。
が、その感情は目の前で起きることに素直に動かされている様子。
一方、部隊のリーダーであるウォーダディーは、そんなノーマンとは正反対にも見える部隊のリーダー。
ならず者たちを率い、行き先すらわからない戦いへの道へ仲間を引き連れていかなければならず、ある意味ブラック企業の中間管理職のように、さまざまなしがらみにさいなまれる様子にも似ています。
どちらかというと感情をあらわに出さないピットの表情や演技は、その複雑な思いに悩みながらも耐える生々しさすら感じさせるところです。
まさにこの役は彼でなければ演じられなかったという雰囲気すら見せ、物語の中心がここにあるという大きな支えにもなった印象があります。
ブラッド・ピット(Brad Pitt)
誕生日: 1963年12月18日生まれ
星座:いて座
身長:180cm
出身:アメリカ合衆国
▶おすすめの代表作品
※近年の「クールな」イメージとは違うブラピを満喫!
※主要映画賞の助演男優賞を総ナメ!
まとめ
作品としては2014年に発表されましたが、未だレビューサイトでその所感を投稿する人も多く、特に近日のウクライナ侵攻問題との風景を合わせてその世界観を評価する声も多く上がっているようです。
メディアで報じられる戦争のイメージは、国や勢力同士の争いにクローズアップされ、現場で危険な目に合っている人々の姿にはなかなか目が向かない傾向があります。
しかし近日のウクライナに関する報道では、ロシアからの侵攻による被害で困難に巻き込まれた人々の姿も多く報じられており、さらにその中で、ロシア軍兵士の戸惑いに関する報道が目を引きます。
このポイントは先述の二つの視点の間にあるギャップという部分ではイメージとしては重なり、争うことの不条理さを如実に示しています。
その意味で本作は、戦争という出来事の一部分を切り取り映像物語として描いたものではありながら、作品によって戦争の愚かさを示し、戦争、争いというものに対しての嫌悪感を煽る意向の強い作品であるといえるでしょう。
《ライター:黒野でみを》 クリックで担当記事一覧へ→
40歳で会社員からライターに転身、50歳で東京より実家の広島に戻ってきた、マルチジャンルに挑戦し続ける「戦う」執筆家。「数字」「ランク付け」といった形式評価より、様々な角度から「よさ」「面白さ」を見つめ、追究したいと思います。
記事へのご感想・関連情報・続報コメントお待ちしています!