今回紹介する作品は、映画『裸足になって』です。
2002年に内戦が収束したとされるアフリカ・アルジェリアで、国に根強く残る女性差別や貧困などの問題を提起、さまざまな問題をはらんだ国の中で生きる女性たちの姿から、世界に対する強いメッセージを唱えた作品です。
前作『パピチャ 未来へのランウェイ』に続きムニア・メドゥール監督が自身のルーツであるアルジェリアを舞台としてこの国にはびこるさまざまな問題をシリアスに、生々しく描きました。
また作品には主演のリナ・クードリをはじめ、ナディア・カシ、アミラ・イルダ・ドゥアウダら前作に引き続いての出演者が登場しています。
(画像引用:(C)THE INK CONNECTION – HIGH SEA – CIRTA FILMS – SCOPE PICTURES FRANCE 2 CINÉMA – LES PRODUCTIONS DUCH’TIHI – SAME PLAYER, SOLAR ENTERTAINMENT)
映画『裸足になって』:作品情報
ムニア・メドゥールが監督がアルジェリアにはびこる問題を一人の女性の運命を通して活写。とある事故で理不尽にも自身の夢をなくした少女の、再生の姿をシリアスに描いた物語です。
主演を務めたリナ・クードリは、メドゥール監督の前作『パピチャ 未来へのランウェイ』にも出演の他、『GAGARINE/ガガーリン』『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』などの話題作に出演し注目を集めています。
さらに第94回アカデミー賞の三部門で受賞を果たした『コーダ あいのうた』に出演したろう者の俳優トロイ・コッツァーが製作総指揮として参加しています。
映画タイトル | 裸足になって |
原題 | Houria |
監督 | ムニア・メドゥール |
出演 | リナ・クードリ、ラシダ・ブラクニ、ナディア・カシ、アミラ・イルダ・ドゥアウダ、ザーラ・ドゥモンディ他 |
公開日 | 2023年7月21日(金) |
公式サイト | https://gaga.ne.jp/hadashi0721/ |
■2022年 /フランス・アルジェリア合作映画 /カラー /G/99分
映画『裸足になって』:あらすじ
2002年まで続いた内戦の傷跡が残る北アフリカ、アルジェリアのとある街中で、バレエダンサーを夢見て毎日を過ごす少女、フーリア。
バレエスタジオに通う一方、自身の生活の助けになればと違法賭博場に出入りしていた彼女は、ある日彼女の持つ金を狙う男に付きまとわれ、階段から突き落とされて大ケガを負ってしまいます。
ケガの後遺症でリハビリを余儀なくされ、踊ることもできなくなった彼女はさらに声を出すこともできなくなってしまいます。
失意の底に突き落とされたフーリアは、リハビリ施設で彼女と同様に心に傷を抱えた女性たちと出会います。
徐々に親交を深める中、フーリアは彼女らにダンスを教えることを思い立ちます。
相変わらず彼女に付きまとう男や親友の悲劇などの悲運が彼女に襲い掛かる一方で、仲間たちとの日々は、フーリアに生きる情熱を与えていくのでした。
アルジェリアの実情、見える本当の「戦争の恐ろしさ」
アルジェリアでは2002年まで政府軍と複数のイスラム主義者で構成された反政府軍による内戦が行われており、非常に内情が安定しない国として世界からも注視されていました。
ムニア・メドゥール監督は、前作ではこの内戦の真っただ中にあるアルジェリア国内の一風景を、一人の女性を取り巻く様子より描いていました。
本作に登場する主人公たちの物語は前作との直接的なつながりはないものの、内戦という大きな動きに付随した国内の問題に言及した節があるという点においては一貫したものがあるといえます。
●ムニア・メドゥール監督(Mounia Meddour)
誕生日:1978年5月15日生まれ
星座:おうし座
出身:ロシア・モスクワ
■ムニア・メドゥール監督前作品
※内戦下のアルジェリアのとある大学において、女性たちが自身の自由と未来を守るために、命がけのファッションショーを敢行する経緯を追います。
物語では主人公フーリアが、内戦における元テロリストに目を付けられ人生の希望を絶たれてしまう経緯、そしてこのアルジェリアという国からの脱出を試みる人が、その道すら阻まれてしまうエピソードが描かれています。
平凡な日常が見える一方で、それがある日いきなり断たれてしまうという現実。
二作品では内戦の中においても、それが集結した後でも何らかの形で国民に影を落としていることが明示されています
その意味では※アルジェリアという国が元来抱えてきた不安定な事情、特に内戦の傷跡が国民、特に女性に対する意識の問題に対する問題の提起であるようでもあります。
そしてこの二作品はまさしくメドゥール監督の、胸の内にある一貫した思いを変わらず投影した作品であり、自身のルーツであるアルジェリアという国への思いの強さを表したものであるといえるでしょう。
「力強さ」リナ・クードリ、演じる主人公の魅力
若き日のソフィ・マルソーを彷彿するルックスの主演、リナ・クードリ。
前作では争いの中、自身の夢を追いかけファッション・デザインに没頭する女性を演じ、本作ではさまざまなトラブルで自身の夢をずたずたに引き裂かれながらも、踊り表現することを続ける女性を演じました。
その立ち位置は非常にシンプルで、彼女らのような人々を取り巻くさまざまな問題を提起するとともに、おかしなことを「おかしい」と主張する女性の強い意志をしっかりと示しています。
実際彼女は、幼いころに両親とともに内戦を逃れフランスへ移住を果たした経緯もあり、メドゥール監督の考えるテーマへの理解という点においては十分なバックグラウンドを持った女優であったともいえます。
さまざまな弾圧、暴力に遭遇しながらも、強い意志をたたえた瞳とともに非暴力で壁に立ち向かう姿は、不安を抱えて萎縮する人々に対して勇気を与えてくれるでしょう。
●リナ・クードリ(Lyna Khoudri)
誕生日: 1992年10月3日生まれ
星座:てんびん座
出身:アルジェリア・アルジェ
▶おすすめの代表作品
※近代フランス発展の原動力となった移民受け入れ政策のシンボルともいえる公営住宅地の取り壊しが決定、一人の少年が計画の阻止に挑む姿を描きます。自身の未来をあきらめないという物語に共感する部分は強く感じられるでしょう。
同じ舞台で描かれた物語、見える景観同士のつながり
近年のアルジェリアを描いた作品としてドキュメンタリー『サハラのカフェのマリカ』がありますが、本作と前作『パピチャ 未来へのランウェイ』の二作品はこの『サハラのカフェのマリカ』という物語とは全く対照的な性質が見えてきます。
まるで「すべてを悟った」かのように何もない中での納得、満足感が見える『サハラのカフェのマリカ』。
逆に自身の希望のために戦い続ける主人公と、そんな彼女らの希望を挫くべく現れる欲深き者たち。
しかし物語から見えるそれぞれの景観の違いは、アルジェリアという同じ土地での視点というポイントにおいてどこかつながりを持っている雰囲気すら感じられ、同時にこの場所の持つ特徴の印象強さを改めて感じられます。
なお、『パピチャ 未来へのランウェイ』はメドゥール監督曰く、フランスでは大成功をおさめ2020年のアカデミー賞にアルジェリア作品として出品されたものの、本国アルジェリアでは上映されなかったという特殊な経緯も。
その意味においても、あきらめずに作品を発表するという強い意志を示した本作の登場、その経緯は物語の筋とダブって強い説得力を示すものでもあります。
《ライター:黒野でみを》 クリックで担当記事一覧へ→
40歳で会社員からライターに転身、50歳で東京より実家の広島に戻ってきた、マルチジャンルに挑戦し続ける「戦う」執筆家。映画作品に対して「数字」「ランク付け」といった形式評価より、さまざまな角度からそれぞれの「よさ」「面白さ」を見つめ、追究したいと思います。
リナ・クードリ、今注目している女優さんの一人で出演作は全てチェックしています。本作では「パピチャ」に続いてアルジェリア出身の彼女の情熱が込められた、とても力強い作品でしたね。クラシックバレエのしなやかな踊りからコンテポラリーダンスという表現の踊りになるのもこの作品の重要な部分だと感じました。「女はみんな生きている」で印象的な娼婦役を演じたラシダ・ブラクニを久々にこの作品で見て、相変わらずお綺麗だなあ、と思いました。