今回紹介する作品は、2012年に第一作が公開された大ヒットアクション映画『ハンガー・ゲーム』シリーズの前日譚『ハンガー・ゲーム0』です。
文明が一度崩壊し、新たな秩序で人々が生きる世界。
その中で、秩序を乱すものを罰する目的で作られた恐怖の政策「ハンガー・ゲーム」。
本作は、シリーズを通しヴィランとして活躍した独裁者コリオレーナス・スノーの若き日の姿から狂気のゲームの実態を描き、見るものをより深い「ハンガー・ゲーム」の世界へと誘います。
映画『ハンガー・ゲーム0』:作品情報
映画タイトル | ハンガー・ゲーム0 |
原題 | The Hunger Games: The Ballad of Songbirds and Snakes |
監督 | フランシス・ローレンス |
出演 | トム・ブライス、レイチェル・ゼグラー、ピーター・ディンクレイジ、ハンター・シェイファー、ジョシュ・アンドレス・リベラ、ジェイソン・シュワルツマン、ビオラ・デイビスほか |
公開日 | 2023年12月22日(金) |
公式サイト | https://movies.kadokawa.co.jp/thehungergames0/ 【YouTube:予告編】 |
■2023年 /アメリカ映画/カラー/G/157分
人気小説続編、『ハンガー・ゲーム』の前日譚
小説家スーザン・コリンズの大ヒット小説を映画化したアクションシリーズ『ハンガー・ゲーム』の前日譚となる物語。
時代をシリーズ第1作にて主人公カットニスがプレーヤーに志願する64年前まで戻し、悪名高いイベント「ハンガー・ゲーム」を主導した独裁者コリオレーナス・スノーの青年期、そしてその残酷な意識が目覚めるまでの姿を描きます。
《『ハンガー・ゲーム』の原作者紹介》
●スーザン・コリンズ(Suzanne Collins)
誕生日: 1962年8月10日生まれ
出身:アメリカ・コネチカット州
▶原作タイトル:「ハンガー・ゲーム0 少女は鳥のように歌い、ヘビとともに戦う」
映画作品はシリーズ二作目より作品を手がけている、『コンスタンティン』『アイ・アム・レジェンド』などのフランシス・ローレンス監督が手がけました。
主人公コリオレーナス・スノー役を『ロビン・フッド』(10)などに出演したイギリス出身の俳優トム・ブライスが担当。
ヒロイン・ルーシー役には『ウエスト・サイド・ストーリー』『シャザム!〜神々の怒り〜』などのレイチェル・ゼグラーがキャスティングされています。
映画『ハンガー・ゲーム0』:あらすじ
舞台は不詳の事態で一度文化が消失、新たな秩序にて生まれた世界。
ここには国家パネムの首都キャピトルに反乱を起こしたとされる12の地区が存在しています。
これらの地区の住人を戒めるため、国家は毎年各地区から1人ずつ選ばれた少年少女に、最後の1人になるまで殺し合いをさせる「ハンガー・ゲーム」を開催していました。
その記念すべき第10回の新しい試みとして、少年少女たち贄(いけにえ)それぞれに教育係が任命されることに。
その一人に選ばれた18歳のコリオレーナス・スノーは、貧しい境遇の中、毎日学問にはげむ日々を過ごす青年でした。
惨めな思いから抜け出すべく、彼は選ばれた瞬間に優勝を心に決めていました。
ところが彼が担当することになったのは、第12地区出身の少女ルーシー。
全地区の候補の中では最も弱いとの前評判に、スノーは愕然とします。
そんな彼女の唯一の武器は“歌”でした……。
過去作の流れと、コリオレーナス・スノー誕生の秘密!
本作を紹介する前に、まずこの『ハンガー・ゲーム』の流れを振り返ってみましょう。
シリーズは『ハンガー・ゲーム』『ハンガー・ゲーム2』『ハンガー・ゲーム FINAL: レジスタンス』『ハンガー・ゲーム FINAL: レボリューション』と四作にわたり発表されました。
第一作はゲイリー・ロス監督、そして第二作以降はフランシス・ローレンス監督と、作品を手がけるリーダーが交代しているわけですが、この境目には作品のテーマに関する重要なポイントがあるといえます。
シリーズでは第一作で主人公カットニスが殺人ゲームの代表として選ばれ、そして最後に奇想天外な奥の手を用い生き延びるというエンディングを迎えました。
この展開では、このユニバースにおける「殺人ゲーム」の存在自体を提示し、その中で起きた出来事を物語として描くという流れに終始しているわけです。
一方、第二作ではカットニスが再びこのゲームに投げ込まれながらも途中の段階でゲーム外に引きずり出され、以降このゲームをはじめとした不条理さを生み出す国家に立ち向かっていくという流れに変化していきます。
この変化の潮流を改めて考察すると、シリーズとしては第一作、第二作以降というポイントで物語の趣旨が大きく変化していることが分かります。
本作はシリーズ全体での悪役である独裁者コリオレーナス・スノーの青年期を、彼の視点を通して描かれたもの。
つまりはスノーの凶行のもととなったものを探るような内容となっており、ある意味、第二作以降の大きな時代の変化に対し「そもそもこの大きな問題の元凶とは何なのか」というポイントを、具体的な構造としてではなく視覚的なイメージとして表現、その恐ろしさに注視した作品となっています。
どん底のスノーの人生、「怪物」が現れる瞬間!
主人公スノーの生家はかつて名家として知られていたものの、文明崩壊後には落ちぶれてしまい惨めな生活を送ることに。
そして、彼自身はエリート学校で家紋の栄誉を取り戻すべく奮闘していました。
家の地位、名誉を重視するという空気感は非常に権威主義なカラーでもあり、どこか作品のほこりをかぶったような色彩感がピッタリです。
その空気感は、どこかブライス演じるスノーの、序盤からエンディングに向けて見えてくる表情にも感じられるものであります。
どん底の人生から始まる序盤、そんな中でもモラルを重んじ人を想う気持ちをにじませます。
この姿はヒロインであり、「ハンガー・ゲーム」に参加するメンバーの中でも際立った存在感を見せるルーシーの設定に寄り添うものでもありました。
一方でスノーの通う学校では、「ハンガー・ゲーム」を主導する教師の狂気にも似た思想をはじめとして、自身がのし上がるべく仲間を蹴倒したり、下の身分の者を蔑んだりと、彼を取り巻く人々による見るに堪えない光景がそこには見えてきます。
そして「ハンガー・ゲーム」の中でルーシーとの結束は強くなっていく一方、その外の世界でスノーはさまざまな力関係に屈するように自身の思想を捻じ曲げられ、狂気の世界へと足を踏み入れてしまいます。
どこか清々しい若者の表情が、ラストでは何かに毒され、恐ろしさすら感じさせる冷たい表情へと変化していくわけです。
ルーシーのもつ唯一の武器である歌の存在感は、他のプレーヤーにはないユニークさもありインパクトも大きなものです。
しかし、結果的にそれがゲームという存在自体に影響を及ぼすことはできません。
スノーの心境の変化には、歌で凶行を変えることなどできないという無常さの反動にもあったように感じられます。
物語のほとんどの視点がスノー自身によるものであり、その視野から見えてくるさまざまな景色が、まさに見る側の気持ちが直接スノーの気持ちへとアクセスさせられているような錯覚すらおぼえるでしょう。
■こちらもぜひ見てほしい!人が「怪物」になる時を描いた作品 U-NEXT
『シークレット・オブ・モンスター』
※独裁者となった一人の男性を、幼年期の変貌ぶりから描いたミステリー。スコット・ウォーカーによる重厚な音楽をはじめ不穏な空気間が上質なミステリー感を楽しませてくれます。
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主演トム・ブライス、多様性の時代を感じさせる設定に
この作品で主演を務めたトム・ブライスはイギリス・バーミンガム出身の若手俳優。
バーミンガムは国内でも工業都市として知られ、どこか底辺で生活する人々を想像させるところでもあり、どん底から這い上がろうとした青年期のスノーと重なるルーツをなんとなく見いだせるところでもあります。
現在28歳と、役者としてはまだこれからというブライスですが、瑞々しさを感じさせる冒頭から恐怖感すらにじみ出る「独裁者」の一歩手前までくる彼の表情変化は非常に印象的。
今後の出演作にもぜひ期待していきたいところです。
●トム・ブライス(Tom Blyth)
誕生日: 1995年2月2日生まれ
星座:さそり座
身長:183cm
出身:イギリス・バーミンガム
『ロビン・フッド』
イギリスの伝説の義賊ロビン・フッドの活躍を映画『グラディエーター』でタッグを組んだリドリー・スコット監督&ラッセル・クロウが描いたアクション史劇。ブライスは野生児の役として登場。
《ライター:黒野でみを》 クリックで担当記事一覧へ→
40歳で会社員からライターに転身、50歳で東京より実家の広島に戻ってきた、マルチジャンルに挑戦し続ける「戦う」執筆家。映画作品に対して「数字」「ランク付け」といった形式評価より、さまざまな角度からそれぞれの「よさ」「面白さ」を見つめ、追究したいと思います。
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