「あなたの心臓はいつ止まってもおかしくありません」、突然こんなことを言われたならどうしますか?
もうすぐ自分がいなくなってしまうかもしれない、ならば・・・
好きなものを好きなだけ食べまくろう、気になるあの人に想いを告げよう、行きたかったところへ行こう!
それぞれにやりたいことがきっと浮かんでくることでしょう。
さらには、自分が亡くなったあとに残される家族や友人についても想いが膨らむのではないでしょうか。
ちまたではすでに浸透した「終活」という動き、みなさんも聞いたり考えたりしたことがあるかもしれません。
本作はそんな一見悲しいことのように感じられる「終活」に取り組むおばあちゃんを描いた物語です。
(冒頭画像:引用https://twitter.com/watasi_osousiki/media)
あらすじ:『私のちいさなお葬式』
村にたったひとつの学校で教職を全うしたエレーナ(マリーナ・ネヨーロワ)。
定年後は気心知れた友人と大好きな本に囲まれ、充実した年金暮らしをおくっていました。
ところが73歳になったある日、突然の自身の死期がそう遠い未来でないと宣告されました。
都会暮らしでたまにしか顔を見せない愛するひとり息子のオレクに迷惑をかけまいと、エレーナは自分自身のお葬式の準備を計画し始めます。
先だった夫のお墓の隣に埋葬されるため埋葬許可証をもらいに役所へ、死亡診断書を得るため教え子のいる遺体安置所へ、自分の入る棺を買いに葬儀屋へ…。
さらにエレーナの終活を知った隣人のリューダは友人たちを集め、エレーナのお手伝いを買って出ました。
こうしてエレーナはいよいよ最期を迎えようとしますが、事態は次々と思わぬ方向へ向かってゆくことに…。
見どころ①:奇跡とユーモアが、たっぷりの親子ドラマ
本作の見どころのひとつは、すれ違う親子愛です。
母は子のために、子は母のために、それぞれが互いを大切に想うがゆえに良かれと思ってやるけれども伝わらなかったり望んでなかったり。
離れていても一緒にいても親子のコミュニケーションは時に難しいもの、皆さんも少なからずそんな経験があるのではないでしょうか。
母エレーナと息子オレク(エヴゲーニー・ミローノフ)の様子に注目です。
見どころ②:ロシアの代表的な文化と、愛される音楽
二つ目の見どころとして、本作を通じてロシアの様々な文化について知ることができるでしょう。
例えばロシアでの埋葬は土葬が一般的です。
埋葬方法には宗教・信仰が深く関係しています。
ロシアでは最も多いロシア正教の他、イスラム教、仏教、ユダヤ教などの信仰がありますが、ロシア正教とユダヤ教は原則、イスラム教は絶対の土葬文化なのです。
そして作中で、特徴的な模様が彫られたガラスで透明なお酒をグイッと飲んでいるシーンが見られますが、これは※ウォッカで間違いないでしょう。
ウオッカ、スミノフそして「恋のバカンス」のこと
ウォッカといえばロシアを代表する蒸留酒ですが、ロシア式の飲み方はストレートが基本です。
アルコール度数は40度以上と高めであるため氷点下30度でも凍ることがなく、ロシアなどの寒さの厳しい地域では体を温めるために飲まれ親しまれてきたお酒です。
■コラム①:意外と知らない「※ウォッカ」のこと【管理人・選】
※安価でクセがなく、汎用性が高いウオッカ。ウォッカはどこで誕生し、どのように世界中で愛されるようになったのか。魅力的なボトルデザインや新しい飲み方についても解説しながら、ウォッカの歴史を追っていく。
●「ウオッカの製造」「ウオッカ、アメリカを席捲するスミノフ」「ウオッカと芸術」「世界に広がるウオッカ」など【引用:Amazon】
例えば日本でも知名度のある「スミノフ」は、現在イギリスのディアジオ社の傘下ブランドですがもともとはロシア発祥のブランドです。
さらに本作の音楽にはロシア語歌詞の「※恋のバカンス」という曲が使われています。
「恋のバカンス」はもともと日本の昭和時代に活躍した双子による二人組歌手ザ・ピーナッツの曲です。
日本国内でのヒットは勿論のこと、その当時ソビエト連邦国家テレビラジオ委員会の東京特派員であるヴラジーミル・ツヴェートフがこの曲を気に入ってソビエト連邦に持ち込み、人気歌手がロシア語歌詞で歌ったことでソビエト連邦国家でも大ヒットしました。
昭和のヒットソングが国境を越え、世代を超え、人々に浸透し愛されているのです。
■コラム②「※恋のバカンス」【管理人・選】
※予告編で「恋のバカンス」がロシア語で一瞬、流れますよ。
※ザ・ピーナッツの歌で知られる、作詞・岩谷時子、作曲・宮川泰のこの1963年製正真正銘J-POPを、当時のゴステレラジオ(ソ連国営放送局)東京特派員ヴラジーミル・ツヴェートフ氏がいたく気に入って本国へ持ち帰り、1965年にソ連でレコード化(この辺りのエピソードは山之内重美『黒い瞳から百万本のバラまで』(東洋書店ユーラシアブックレット)に詳しいです)。表題以外に「Каникулы любви」のタイトルでも知られ、ロシアではこの歌が日本製であることを知らない人もいるほどの有名曲となっています。【引用:YouTube:ロシア語・恋のバカンス (У моря, у синего моря) (日本語字幕)から】
注目の俳優:エヴゲーニー・ミローノフ
本作で主人公エレーナの息子オレク役を演じたエヴゲーニー・ミローノフは1988年にスクリーンデビューして以降、ロシア映画のスクリーンで活躍し続けている実力派俳優です。
国家の映画・演劇などの芸術分野の発展に貢献したとしてロシア名誉勲章を受賞、並びにロシア連邦国家賞演劇芸術賞に至っては2度受賞しています。
近年の出演作品には『コスモボール』(20)、製作にも関わった『スペースウォーカー』(17)、『カラキュレーター』(14)などがあります。
●エヴゲーニー・ミローノフ (Evgeniy Mironov)
誕生日:1966年11月29日生まれ
星座:いて座
身長:173cm
出身:ロシア・ソビエト連邦
私のちいさなお葬式(作品情報)
さいごに:ライターコメント(by サヤヲ)
80年代に日米貿易摩擦で日本車を中心とした不買運動が起きたように、コロナウイルス感染症の情勢下で外国に住むアジア人に見境なく差別の眼差しが向けられています。
そしてロシア・ウクライナ問題や解決しない今、経済制裁や不買運動、世界の動きは目まぐるしく残酷に変化しています。
そんな現代ですが映画、音楽などの芸術はかわらずフラットな気持ちで楽しんでいきたいですね。
この映画の原題は『Karp otmorozhennyy』(解凍された鯉)です。
本作にも登場する「鯉」ですが、これは誰の、何のメタファーなのか…考えてみるとより面白いかもしれません。
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ミステリー小説とカレー、そして猫を愛するサヤヲといいます。
様々な視点から映画をたのしむきっかけとなれれば幸いです。
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