台湾映画といえば、2022年の『哭悲』をはじめ、『怪怪怪怪物!』や『返校 言葉が消えた日』、Netflixで話題となった『呪詛』などホラー映画大国のイメージが強いかと思います。
何かとホラー映画が注目されがちですが、実はラブコメ大国でもあります。
例えば、先日日本で公開された『1秒先の彼』は、※台湾映画『1秒先の彼女』のリメイクとなっています。
遡れば『恋する惑星』などの有名作を輩出している国でもあります。
そんな台湾から、今回は2023年8月10日からNetflixで世界配信となった台湾発の大ヒット映画『僕と幽霊が家族になった件』をご紹介します。
(冒頭画像:引用https://www.chuka-eiga.com/marry_my_dead_body)
ある日突然、幽霊と結婚!?:あらすじ
仕事がうまくいかない警察官のウー・ミンハン(グレッグ・ハン)は、ひょんなことからある日、青年マオ・バンユー(リン・ボーホン)と結婚することに。
何を言おうと2人は男性同士、台湾といえどもウーは男性に興味がない。
しかも、マオはひき逃げ事故で亡くなった幽霊…。
最悪の相性の「夫夫」だが、2人で事件を解決していくことに-。
台湾のSNSでバズった、「冥婚」とは?
本作のキーワードになるのが、数年前に台湾のSNSで話題となった「冥婚」です。
これは台湾の伝統的な風習であり、道端でご祝儀袋(紅包)を拾った人は、霊と婚礼を挙げなければならない、というもの…。
台湾では古くから映画などの題材に使用されており、現在では田舎でしか見られないが、実際に存在する風習です。
では、なぜ今になって再び「冥婚」をテーマにしてるのでしょうか?
多様性先進国から見た、古き時代の伝統
台湾といえば同性婚が認められている、多様性先進国の一つです。
一方で「冥婚」は実は多様性とは程遠い風習で、ベースには中華圏に多い男性重視、家父長制度の考え方があるのです。
亡くなった人と結婚すると言っても、実際に戸籍上での結婚をするのではなく、占いで亡くなった人との相性をみて、位牌に名前を入れるというものです。
家父長制度のある社会では、女性は嫁入りすることが何よりも大切とされています。
しかしながら、未婚のまま逝去した女性を実家で祭ることができないため、このような制度を残し、亡くなった人に行き場を与えているのです。
古き時代に良しとされなかった未婚のまま亡くなった女性を「家族の一員になった」とみなし、魂を弔うのです。
では、本作の「冥婚」はどう描かれてるのでしょうか?
マイノリティの行き場は?実は社会派映画…
台湾は世界でも数少ない同性婚が認められている国です。しかしながら、それは特別法という措置であり、民法そのものが改正されたわけではありません。
閣議決定された特別法案では、同性カップルが婚姻の形で行政に登録でき、合法的な財産承継権や医療行為の同意権など婚姻に付随する種々の権利や相互扶養の義務のほか、カップルのどちらかに血縁関係がある子どもを養子にすることも認めるそうです。一方、同性カップルが婚姻しても双方の親戚と親族関係が生じないなど、一部で異性婚と同じではない部分も残りました。 (OUT JAPAN 2019年2月22日)
上記の文からも分かるように、同性婚をしたとしても、相手の血縁関係のある人とは「家族」とは認定されないのです。
おそらく、この「家族になる」という点を、本作では冥婚という題材を使用して表現してるのではないでしょうか。
マイノリティの一番の不安は、生涯のパートナーと出逢えてもその関係を保証するものが何もないということ。
台湾は、その点では「婚姻と同等のもの」として保証されていますが、まだ完全なものではありません。
つまり、多様性先進国とはいえ、根本的な部分は変わっていないということ…。
そこを、古くからある「冥婚」という風習を題材に、本作は切り込んでいるのです。
そういう視点から見れば、ただのコメディ映画ではなく、かなり社会派の映画だと分かるはずです。
注目のカメレオン俳優、「リン・ボーホン」とは?
もう一つ、今作について筆者の個人的注目ポイントがマオ役のリン・ボーホンです。
日本では無名の俳優ではありますが、台湾では様々な賞にノミネートされたり、実際に賞を受賞している今をときめく若手俳優です。
筆者が注目するようになったのは、おそらくリン・ボーホンが出演している作品として初めて日本公開されたであろう台湾のラブコメ映画『恋の病~潔癖なふたりのビフォーアフター~』です。
本作で彼は潔癖症の男性を演じており、その独特な世界観に負けじと異彩を放っています。
また、東京国際映画祭で初めて台湾映画の代表として公開された『テロライザーズ』では、一人の青年が殺人犯になるまでの難しい変化を演じ、多種多様な演技を我々に届けてくれています。
そして、本作『僕と幽霊が家族になった件』では新たな役柄であるゲイの青年を演じています。
これからの活躍に注目してみてください。
まとめ:社会派の台湾映画から目が離せない!
今回ご紹介した『僕と幽霊が家族になった件』をはじめ、台湾映画はその時その時の社会情勢などを表現した社会派作品が数多くあります。
ホラーやコメディといったジャンル分けがなされますが、それはあくまで表面上のジャンル分け…多くの作品は根底にさらに深いメッセージがあります。
すべての映画に通ずる話だとは思いますが、特に台湾映画ではその要素が強いと思います。
本作をきっかけに、様々な台湾映画に目を向けてみてください!
■台湾映画有名作品【管理人・編】
※『熱帯魚』『ラブ ゴーゴー』で注目を集めたチェン・ユーシュン監督が手掛けたラブストーリー。人よりワンテンポ早い女性と、ワンテンポ遅い男性という、世間から孤立感を感じて生きる2人が、長い年月を超え、不思議な時の流れの中で邂逅していく姿が、ファンタジックかつコミカルに描かれる。男性が女性に贈り物をするという台湾の旧暦7月7日の「七夕情人節(チャイニーズバレンタインデー)」が重要な1日として物語が展開。【引用:Amazon】
■台湾映画について
※台湾ニューシネマの異端児と呼ばれたチェン・ユーシュンの最新作『1秒先の彼女』の6月25日公開を皮切りに、白色テロ時代を描く台湾大ヒットホラー作『返校 言葉が消えた日』、ドキュメンタリー『日常対話』ほか多種多彩な公開作が続く今夏。その連綿と続く歴史を見つめなおし、台湾映画の現在地を描きだす。【引用:Amazon】
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映画と音楽が人生の主成分のライターのファルコンです。
学生時代に映画アプリFilmarksの“FILMAGA”でライターをしていました。
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