原題は「Petite Maman」(=小さいママ)。
ファンタジーを交えて、母と娘、そして祖母の三世代を紡いでいくストーリー。
少女が同い年の母と遊ぶという空間は、なんだか不思議だけど心地が良いものでした。
ミニシアターランキングを3週連続で1位を獲得した本作は、観終わった後に胸がじんわりと温かくなるような特別なもの。
タイムスリップのようなSF要素があるものの、ここで描かれているのは別れ、そして人を思いやる気持ち…誰もが共感し考えさせられるテーマです。
(冒頭画像:引用https://gaga.ne.jp/petitemaman/)
『燃ゆる女の肖像』などの作品で監督だけでなく脚本も手がけ、注目を浴びたセリーヌ・シアマ監督の最新作。
ストーリや監督の魅力をライターanzuの視点でご紹介させていただきます。
『秘密の森の、その向こう』:あらすじ
母方の親・祖母を亡くした8歳の少女ネリー。
ネリーの母は喪失感を抱えながらも森の中にある一軒家に訪れ、少女時代の思い出が詰まった家の片付けを始めます。
しかし突然、ネリーと父を残したまま家を出て行ってしまうのです。
そんな中、ネリーはかつて母が遊んだ森を散策し、そこで自分によく似た8歳の少女マリオンと出会う。
そして一緒に遊ぶうち、彼女が少女時代の自分の母親だと知るのでした…。
大人びた8歳の主人公ネリー
祖母の別れに悲しんでいる母に寄り添うネリーの行動には、とても8歳とは思えない大人びている様に伺えます。
少女ネリーのかける言葉や移した行動は、大人の私にもできるのかと問いたくなるくらい、人を思いやっているものでした。
相手を思いやる気持ちに年齢は関係ないものです。
余談ですが、ヨーロッパの子供は自我を確立させるのが早くてしっかりしているんですよね。
“ふくれっ面の天使”として有名なスウェーデン映画「ロッタちゃん」シリーズを観た時、幼い時からこんなにも意志を持っているのかと衝撃を受けるものばかり。
ストーリー設定は不思議なものですが、ここで描かれているものは、とても身近で心の芯が温まるものでした。
誰しもがネリーの行動やかける言葉から学びがあるのではないでしょうか。
キャストは可愛らしすぎる双子
主演の少女2人、小さいママとネリー。
映画を観ながら「一人二役で演じているのかしら?」と考えていたら双子の女優さんでした。
本作が映画初出演となる双子の姉妹は、ジョゼフィーヌ&ガブリエル・サンス。
二人とも愛らしくて、一緒に遊ぶシーンでは息もぴったりで微笑ましかったです。
祖母を亡くした母が家を出て行ってしまい、父と残されたネリーは不安を心に抱え込みます。
残された父に泣き叫ぶわけでも駄駄を捏ねるでもないのですが、不安を押し殺しているのが繊細な表情から読み取れました。
ネリー、そして小さいママの演技は、とてもナチュラルで癒されます。
セリーヌ・シアマ監督が、生み出してくれる感情
監督のセリーヌ・シアマは、過去に『トム・ボーイ』(11)や『パリ13区』(21)などを撮っていますが、一番話題を生んだのは『燃ゆる女の肖像』(19)です。
ライターanzuが過去に鑑賞したのも『燃ゆる女の肖像』。
全く監督もストーリーも知らず、時間に空きがあった時に映画館にふらりと寄って出逢った作品でした。
18世紀のフランスを舞台に、女性たちの秘められた恋を描くストーリーは切なさよりも美しさや輝かしき日々が勝つようで…思いがけずあまりにも素敵な作品に出会って、感銘を受けた記憶が残っています。
言うまでもなく脚本は映画の軸となる部分、本作もですが監督は脚本も自ら手掛けています。
女性同士の恋もタイムスリップと聞くと、今までも観たことがあるようなストーリーに思えますが、言葉には言い表せないような感情が生まれます。
それは切なさもあるんだけど、心地よくて温かくて、幸せに包まれるもの。
この感情を是非味わって欲しいです。
まるで絵画のような映像に心奪われて
何よりも今作『秘密の森の、その向こう』での監督の素晴らしさは、タイトルにもあるように”絵画のような映像”です。
前述の『燃ゆる女の肖像』でも秀逸な色彩と画角、ヨーロッパの重厚な美術館で絵画を鑑賞するようでした。
前作によってかなり期待度も高かったのですが、期待を超えてくるあたりセリーヌ・シアマ監督の過去作を漁らなければと言う感情に駆られてしまいます。
そして改めて気づいたことは、「静寂を堪能できる作品も映画館で観るものだな」ということ。
迫力ある超大作こそ映画館で観る価値があるものと先行して思うものですが、静かな映画を映画館で観ると崇高な時間を過ごすことができるものです。
●セリーヌ・シアマ監督(Céline Sciamma)
誕生日:1978年11月12日生まれ
星座:さそり座
出身:フランス
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まとめ
「あなたのせいじゃない。悲しいのは、私のせい」
ネリーから母が出て行ったことを聞いた小さいママがかけた言葉です。
私はこの言葉に、どこか救われたような気持ちになりました。
『秘密の森の、その向こう』は、私の心の中を充足感で満たしてくれるような特別な作品でした。
《ライター紹介:anzu》
大学生時代にフランス文学を専攻していたこともあり、ヨーロッパ映画に惹かれる傾向にあります。
映像や台詞、音楽のときめき、ホラーやサスペンスのような怖さの驚き等、ドキドキする作品がたまらなく好きです。
今まで観てきた映画の数は1400本を越え、今も更新中です。
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