イタリアで大絶賛された映画『シチリア・サマー』(原題:Stranizza d’Amuri)が公開されました。
シチリア島で2人の青年に起きた「ある衝撃の事件」を映画化した本作。
私はこの映画のポスターを一目見ただけで恋に落ちてしまいました。
俳優として活躍し、本作で初監督を務めたジュゼッペ・フィオレッロは、イタリア最古の映画賞のナストロ・ダルジェント賞で新人賞を受賞。
『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督も太鼓判を押した作品とのことで、同監督が好きな人にも見逃せません。
今回は、『シチリア・サマー』のあらすじや見どころ、題材となった実話を紹介していきます。
(冒頭画像:引用https://movies.shochiku.co.jp/sicilysummer/)
イタリア映画『シチリア・サマー』:あらすじ
1982年、イタリアのシチリア島で。
まぶしすぎる初夏の日差しの中、2人の少年が出会い、どうしようもなく惹かれあい、そして終わりが訪れるーー。
17歳のジャンニはある日バイクで事故を起こし、気絶してしまいます。
そこへ駆け寄ったのは、16歳のニーノ。
育ちも性格も正反対の2人は一瞬にして惹かれあい、恋に溺れていきます。
2人だけの秘密の約束を胸に秘め、花火のように激しく情熱的な想いに身を焦がし。
かげがえのない時間を過ごすジャンニとニーノ。
しかし彼らの瑞々しい初恋は、突如終わりを迎えてしまいます。
「生」のシチリアを切り取る、フィオレッロ監督の表現力
イタリアの美しい田舎町と恋物語というシチュエーションは、どうしてこうも心惹かれるのでしょうか。
『シチリア・サマー』でも、夏の陽光に照らされたシチリアの自然の中で、少年たちの恋物語が展開していきます。
さらに特筆すべきは、シチリアの田舎の「生っぽさ」を見事に切り取っている点。
実際にシチリアっ子がこの作品を見ると、キャラクターたちの雑さや気だるさがとてもリアルだと感じるようです。
そこにある色、匂い、そして手ざわりまでもを表現しきったジュゼッペ・フィオレッロ監督にあっぱれ!
彼もまたシチリア出身者だからこそ、本物のシチリアを見てきた目線で風景や人を映し出せるのでしょう。
もちろん日本人の私たちが見ても、作中に登場する情景に「シチリアに行ってみたい!」と思わされますよ。
美しすぎる主演の新人俳優2人、瑞々しい演技!
数百人ものオーディションを勝ち抜き、主役ニーノとジャンニの座を勝ち取ったのは、新人俳優の2人です。
無垢で優しいニーノを、真っ直ぐに愛らしく演じたガブリエーレ・ピッツーロ(gabriele pizzurro)。
内気だけど情熱的なジャンニを色気たっぷりに演じたサムエーレ・セグレート(Samuele Segreto)、ダンサーとしても活躍していました。
2人の青くさの残る、けれども瑞々しく儚げな演技が物語を彩ります。
作品モデルとなったのは、驚愕の実話ジャッレ事件
『シチリア・サマー』は実際の事件をモデルに製作されました。
事件が起きたのは1980年10月17日、シチリア東岸にある田舎町ジャッレ。
恋人同士だった2人の青年が、手を繋いだ状態で頭を撃たれて殺害されたのです。
さらに衝撃だったのが、犯人が被害者の13歳の甥だったということ。
当時イタリアでは同性愛が認められておらず、甥は被害者2人の心中に手を貸したと語ったのでした。
一方で、真犯人は被害者の別の親族だという見方もあったようです。
というのも、13歳は殺人の罪に問われない年齢。
同性愛を恥じた親族が少年を使って恋人たちを殺害したと考える人もいたのです。
同性愛に対する不寛容さが生んだ驚愕の事件は、多くのイタリア人の心を揺さぶったのでしょう。
この事件をきっかけに、イタリアを本拠地とするLGBTQ+の組織「Arcigay」が設立されました。
同性愛を描き続ける、イタリア人監督たち
イタリアではキリスト教徒が70%ほどで、そのうち65%以上がカトリックとも言われています。
『シチリア・サマー』を大絶賛したルカ・グァダニーノ監督も、シチリア州の中でもカトリックの多い街に育ったそうです。
そして彼自身、同性愛者であることを認めています。
グァダニーノ監督が同性愛について描いた『君の名前で僕を呼んで』は、サンダンス映画祭で上映されて話題になりましたね。
本作で監督を務めたジュゼッペ・フィオレッロもまた、イタリア出身。
カトリックの総本山・ヴァチカン市国が存在するこの国では、同性愛やLGBTQ+を扱った作品が数多く生み出されてきました。
■ルカ・グァダニーノ監督作品【管理人・編】
※1983年夏、北イタリアの避暑地。17歳のエリオは、アメリカからやって来た24歳の大学院生オリヴァーと出会う。彼は大学教授の父の助手で、夏の間をエリオたち家族と暮らす。はじめは自信に満ちたオリヴァーの態度に反発を感じるエリオだったが、まるで不思議な磁石があるように、ふたりは引きつけあったり反発したり、いつしか近づいていく。やがて激しく恋に落ちるふたり。しかし夏の終わりとともにオリヴァーが去る日が近づく…。【引用:Amazon】
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今こそチェックしたい、おすすめ名作映画
『シチリア・サマー』が公開される今、イタリアの※LGBTQ+映画に注目してみませんか?
古くは巨匠ルキノ・ヴィスコンティの名作『ベニスに死す』に始まり、イタリアの情緒あふれる名画は数えきれないほどあります。
ゲイであることをカミングアウトしたい青年・トンマーゾをとりまく家族愛を描いた『あしたのパスタはアルデンテ』。
独身キャリアウーマンのセレーナが、ゲイ友とタッグを組んで男社会で成功を掴む『これが私の人生設計』。
他にも見やすい作品として、ロマンティック・コメディの『天空の結婚式』もおすすめ。
ゲイカップルが『天空の城ラピュタ』のモデルでもあるイタリアの観光地で結婚式を計画する様子を描いています。
そして、2023年11月10日には、ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門で5部門を受賞したジャンニ・アメリオ監督の映画『蟻の王』が日本公開。
同性愛が「病気」とされていた1960年代のイタリア・ピアチェンツァを舞台に、詩人であり蟻の生態研究家とその教え子が恋に落ちる物語が紡がれます。
※「LGBTQ+」について【管理人・選】
※社会のなかで「自分は何者なのか」という問いに向き合い続ける約40名のLGBT+の生の声を収録しています。情報の充実具合はもちろんのこと、全篇を通じて伝わってくる「人間は多様であり、どんなアイデンティティも等しく尊重されるべき」というあたたかいメッセージに、心揺さぶられる一冊です。自分の居場所を探す人、誰かの居場所をつくりたい人へ。【引用:Amazon】
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まとめ:イタリア映画界に新たな旋風を!
実際の事件をもとにして製作された本作は、事件の被害者である青年2人に向けられたオマージュと言えるでしょう。
口コミが広がったことで本国・イタリアでヒット作となり、映画賞での受賞にまで繋がったとのことで、作品の仕上がりに自然と期待が高まります。
新鋭のイタリア人監督として、俳優出身のジュゼッペ・フィオレッロが監督としての才能を開花させたのも喜ばしいこと。
初監督にして名画を生み出したその手腕に、今後の製作活動への注目度も爆上がり中です。
フィオレッロにはイタリアの「生」の風景を舞台とした作品をどんどん製作してほしいと、個人的には思っています。
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ウェス・アンダーソン作品の世界観が大好き!ライターの「もな」です。
映画にどハマりしたのは、小学生の頃に『ロード・オブ・ザ・リング』を観てから。
それからというもの、映画は私の人生にとって欠かせないもので、大学では映画学を専攻しました。
私の書く記事が、誰かと素敵な映画との出会いの場になったら嬉しいです。
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