今回は、不朽の名作であり20世紀最大のラブ・ストーリーである映画『タイタニック』(97)が、2023年にジェームズ・キャメロン監督25周年3Dリマスター版としてリバイバル上映で蘇るのを機に改めてピックアップ。
特に今記事では映画の背景となった、アイルランドの歴史を交えつつ新たな視点で紹介していきます。
20世紀最大のラブ・ストーリー:あらすじ
タイタニック号の悲劇から約80年の歳月が過ぎた。
悲劇とともに失われたダイヤモンドを捜索する中で、ある一枚の絵が発見される。
そこには、ダイヤモンドを身につけた女性が描かれていた。
そして「その絵のモデルは私よ」と現れた一人の老女が、誰も知らないタイタニック号の物語を語り始める―。
ケルト音楽とアイリッシュダンスの火付け役
早速ではありますが『タイタニック』では、冒頭からアイルランドの民族楽器が使用されていることに、皆さんお気づきだったでしょうか。
実は『タイタニック』は、不朽の名作であると同時に、ケルト音楽とアイリッシュダンスの火付け役と言われています。
ともに聞きなじみのないものだと思いますが、簡単に言えばアイルランドの音楽と踊りを世界に広めた作品だということです。
今回は、不朽の名作をアイルランドの文化や歴史に触れながら、解説していきたいと思います。
物語のキーとなるケルト音楽とアイリッシュダンス
アイルランドの人々のルーツは、ケルト人とされており、彼らの奏でる音楽は“ケルト音楽”と呼ばれています。
クラシックで使用されることの多いハープという楽器も、実はアイルランドの象徴であり国章にもなっています。
他にも、アイルランドのバグパイプであるイリアン・パイプス、ヴァイオリンの一種であるフィドルなどの音色は誰が聴いても懐かしさを感じさせるものがあります。
実際、ケルト音楽は数々のゲーム音楽や様々な場面でBGMなどにも使用されており、聴いたことがない人はいないことでしょう。
また、その民族音楽あわせて、床を鳴らしながら細かなステップを華麗に踏む特徴的なダンスが“アイリッシュダンス”です。
実は『タイタニック』の中では、この2つが印象的なシーンで使用されているのです。
それが、三等客室で物語の主人公となるジャック(レオナルド・ディカプリオ)とローズ(ケイト・ウィンスレット)が踊る場面です。
【YouTube:Titanic 3D | “Third Class Dance” 】
この場面は、ジャックとローズが急激に距離を縮めることとなり、物語の中ではとてつもなく重要な場面だと言えます。
その重要な場面で、ケルト音楽とアイリッシュダンスが使用されたことが、世界にアイルランドの文化を広める火付け役となった所以だと言えるでしょう。
アイリッシュダンスに隠された歴史
アイリッシュダンスの特徴は、何といっても上半身を動かさないで、足のみでリズムを奏でることです。
三等客室での場面をよく見ると、ジャックとローズも足だけでリズムを奏でていることが分かります。
タップダンスの源流とする説もあるほど、足でのリズムさばきが印象的でもあり、他のダンスや踊りとは異なる独特さがあります。
しかしながら、なぜ、この場面で急にアイルランドの文化が登場するのでしょうか。
それは、タイタニック号はイギリスを出港後、アイルランドに立ち寄り多くの乗客を乗せているからです。
彼らは、自由を求めて新天地へと向かう最中だったのです。
そのヒントが、アイリッシュダンスにあります。
アイリッシュダンスが上半身を動かさない理由は、16世紀にイングランドによる支配を受けた際に、アイルランド独特の文化が禁止されたからです。
見回りにやってくる兵隊がのぞく窓から踊っていることが分からないように、上半身を一切動かさないように工夫をし、自分たちの文化を守ったのです。
一体、アイルランドの人々に何があったのでしょうか。
アイルランドの歴史的背景を知っていると、『タイタニック』の物語に奥行を感じることができるはずです。
■アイルランド音楽【管理人・選】
※セッション、歴史、ダンス・チューン、楽器、うた、詞…… グローバル化する世界でますます輝きを増すアイルランド伝統音楽。
名手の歌や演奏を聴きながら、そのエッセンスを学べます。
リスナーにもプレイヤーにもお薦めできる、アイルランド音楽入門書の決定版、オックスフォード大学がテキストとして企画した1冊です。【引用:Amazon】
近年、映画の題材とされるアイルランドとは?
実は、近年、アイルランドに関わる映画作品が数多く公開されています。
2023年公開の話題作『イニシェリン島の精霊』(筆者が当サイトで別途紹介)、そしてアカデミー賞で話題となった『ベルファスト』、同じく2023年公開の『ノースマン』もアイルランドに関係するヴァイキングの話が関わっており、挙げればキリがありません。
そもそも、アイルランドはどんな歴史をたどってきた国なのでしょうか。
別の記事で、イギリス側からアイルランドをめぐる問題を説明しているので、今回はアイルランド側からその歴史を紐解きたいと思います。
参考記事(by ファルコン):『イニシェリン島の精霊』を考察。難解で評価が分かれる映画、実はシンプルなメッセージが!
参考記事(by azemichi):『ベルファスト』の歴史背景とあらすじ。北アイルランド出身ブラナー監督の望郷の思いが…
抑圧され続けた、アイルランドの歴史
アイルランドは、ケルト人により発展した国であり、古くからキリスト教の宗派であるカトリックが信仰されています。
一方で、多くの国が影響されたローマ帝国による支配は受けなかったものの、ヴァイキングやイングランドによる支配を受け続け、抑圧されてきた国でもあります。
絶対王政が続いていた中世ヨーロッパの中で、歴史上有名な清教徒革命(ピューリタン革命)が起こりました。
この革命の指導者となったクロムウェルは、独裁を行うようになり、やがて絶対王政が復活することとなります。
実は、このクロムウェルによってアイルランドは征服され、そこから迫害の歴史がはじまったのです。
また、清教徒革命が起こる前には、宗教改革がなされており、その中で新たなキリスト教の宗派としてプロテスタントが誕生しています。
イングランドはプロテスタントを支持することとなり、征服したアイルランドの北部へとプロテスタントたちの入植をはじめ、植民地化したのです。
このことにより、アイルランドは古くからカトリックを信仰する人々と、新たに入植したプロテスタントが入り混じる複雑な状況となったのです。
その中で、ケルト人たちは文化を踏みにじられたり、迫害を受けたりする過酷な状況を過ごしながらも、自分たちの文化を守り続けてきたのです。
■アイルランドの歴史と文化【管理人・選】
※歴史の荒波に翻弄された「妖精の国」「緑の島」。古代から現代までを俯瞰する画期的通史!巨石文化、タラの丘、聖パトリック、ケルト十字、『ケルズの書』。イギリスによる植民地支配、宗派対立。ジャガイモ飢饉と海外移民、イースター蜂起から南北分離へ。北アイルランド紛争と和平プロセス。豊かな文化を育むも苦難の歴史を歩んできたアイルランドのすべてがわかる!決定版!【引用:Amazon】
アイルランド( (旅の指さし会話帳シリーズ)
※ヨーロッパの端にあるアイルランドは英語圏の国。ビートルズも、リンゴスター以外はアイルランド系の子孫です。エンヤもU2も、クランベリーズも、ザ・コアーズも。音楽では日本人にとって身近な国です。また、足で踊るアイリッシュダンスは圧巻。 もっと知りたい! そんなときは「指さし アイルランド」を持って語学留学はどうでしょう?アイルランドは、日本からだけでなく、世界各国から語学留学する人が多いのです。【引用:Amazon】
ケルトの叫び
イギリスはアングロ・サクソン人などをルーツとする国ですが、アイルランドはケルト人をルーツとしています。
さらに、イギリスがプロテスタントを信仰するようになった一方で、アイルランドはカトリックを信仰し続けました。
似たような国ではありますが、ふたを開けてみれば文化的な違いが数多くあるのです。
しかしながら、複雑な歴史をたどっているアイルランドの人々は、ある出来事をきっかけにさらに追い打ちをかけられます。
それが、1840年代に起こったジャガイモ飢饉です。
当時のアイルランドでは、農民たちはジャガイモを主食としていました。
しかしながら、疫病が流行したことで大凶作となり、貧しい農民たちは新たに暮らす場所を求めました。
これにより、アイルランドの人々は世界に散り散りとなります。
時を同じくして、アメリカなどでは金が採掘されるゴールドラッシュが始まります。
これを聞きつけた他国の人々がアメリカなどに押し寄せるようになり、その中にはアイルランドの人々もいたのです。
彼らは船に乗り、アメリカに渡ったのです。
タイタニック号の悲劇は1912年に起こっており、時期的にもアイルランドの人々の移住が引き続き行われていた時期だったと考えられます。
迫害の歴史や大飢饉から逃れ、希望を胸に出航した船ではありましたが、彼らの希望は船とともに沈んでいったのです…今でも、彼らの叫びが聞えてきそうな気さえします。
▼エンヤ:「The Celts(ケルツ)」【管理人・選】
【YouTube:Enya – The Celts (Official 4K Video)】
※アイルランド出身で、故国のケルツ音楽に影響を受けた世界的歌手です。
まとめ:「動く階級社会」そこから見えるもの
タイタニック号は、アイルランドと密接な関係があるということがお分かりいただけたはずです。
一方で、タイタニック号は「動く階級社会」とも呼ばれていました。
それは劇中でも如実に描かれており、沈没しつつある船から脱出ボートに乗れるのは高貴な身分の者に対し、移民をはじめとする身分が低いとされる人々は脱出することすら許されず、静かに沈んでいくのを待つしかありませんでした。
イギリスとアイルランドは、近いようで遠い存在…アイルランドをめぐる問題は解決の糸口が見つかる訳もなく、今も続いています。
しかしながら、劇中でジャックとローズが身分の垣根を超えることが出来たように、私たちも意識を変えることで何かを変えることが出来るかもしれません。
不朽の名作から、私たちが学ぶべきことは、まだまだたくさんありそうです。
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映画と音楽が人生の主成分のライターのファルコンです。
学生時代に映画アプリFilmarksの“FILMAGA”でライターをしていました。
大人になって、また映画の世界の魅力を皆さんにお伝えできれば、と思いライター復帰しました。
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