映画『逆転のトライアングル』を考察、ブラックユーモアがあぶり出す世界の格差社会とは?

逆転のトライアングル
1996年生まれ「ハリス・ディキンソン」(右)(『逆転のトライアングル』から)

今回ご紹介するのは第95回アカデミー賞にノミネートされている『逆転のトライアングル』です。

本作は、第75回カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールに輝いています。

本作の監督をつとめたリューベン・オストルンド『ザ・スクエア 思いやりの聖域』でもパルム・ドールを受賞しており、日本でも公開前から話題となっていました。

このように本作は話題作ではありますが、日本では公開している劇場の数は多くありません。

それもこれも、日本人には馴染みのないブラックユーモアがあったり、目を覆いたくなるような場面が多数見受けられたり…といったことが理由だと考えられます。

とは言え『パラサイト 半地下の家族』から特に問題視されるようになった「格差社会」について描かれている作品ですので、多くの人にご覧頂きたいです。

(冒頭画像:引用https://www.facebook.com/TriangleofSadness/)

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リューベン・オストルンド監督 https://gaga.ne.jp/triangle/

原題”悲しみのトライアングル”:あらすじ

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https://www.facebook.com/TriangleofSadness/

人生において苦労をしている人に刻まれるしわ…特に眉間のしわは、そのことを顕著に表しているとされ、美容界では”Triangle of Sadness(悲しみの三角形)”と呼ばれている。

(当作品の原題の由来でもあります。)

この物語は、苦労とは無縁の人々が集う豪華客船クルーズが難破したことで起こる出来事の記録。

果たして、たどり着いた無人島で彼ら、彼女らがたどり着く結末とは?

”~ism”(イズム)にまみれたこの世界で

この『逆転のトライアングル』は、作中の中に数々の格差が登場している。

その一つ一つが”~ism(イズム)”という形で、言葉で表現されたり、時には目に見える形で観客の前に現れたりします。

しかも、秀逸なことにその格差を3部構成にすることで、一枚ずつ層を積み重ねていく創りとなっています。

では、どんな”~ism(主義)”や格差が作中には登場するのでしょうか?

「フェミニズム」から見える、男女間格差

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左:ヤヤ(チャールビ・ディーン)右:カール(ハリス・ディキンソン)https://www.facebook.com/TriangleofSadness/

第一部で描かれるのは、主人公であるとその彼女であるヤヤ(チャールビ・ディーン)の関係性です。

両者ともモデルではありますが、カールは思うように仕事を手に入れることができない一方で、ヤヤはインフルエンサーでありショーに出れば歓声が飛び交うほどの人気者です。

彼らの関係が描かれる中で、言葉としても登場するのが「フェミニズム」という言葉です。

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ヤヤ https://gaga.ne.jp/triangle/

多くの国で、歴史の中で女性は軽視されてきました。

常に弱い立場であり、そのイメージを払拭するために多くの女性たちが気が遠くなるような思いをしながら、闘ってきました。

近年だと”#Me Too運動”などに代表され、そうした社会や歴史などのあらゆる性差別からの解放を目指す思想の一つです。

しかしながら、面白いことに、第一部の最初でインタビュアーが男性モデルたちに対して「なぜモデルになりたいの?女性モデルより給料は安いのに」と尋ねています。

私たちは昔から男性優位な社会を目にしてきていましたが、ファッション業界では、はるか昔から女性優位な社会だったということです。

固定観念があることを認識させられます。

私たちの知らない世界からスタートした第一部が行きつくのは「男性がおごるべきかどうか」というよくある論争です。

たしかに、女性の地位が向上しているのであれば、女性がおごる世界もあるかもしれません。

しかしながら、これを批判するのは女性差別になる…そう思うのも、私たちの頭の中の固定観念が邪魔をしている証拠なのかもしれません。

■山口真由さんが解説、「フェミニズム」【管理人・選】

世界一やさしいフェミニズム入門

世界は今最もリベラル化していると言える。とはいえ、さらに男性に変化が求められる近年は、フェミニズムの視点抜きで、国や企業の成長は語れない。世界標準に遅れ、その分、伸びシロたっぷりの日本が知るべき「男女同権」の歴史とは? …【引用:Amazon】

※著者:山口真由

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資本主義と社会主義、浮き彫りにする労使間格差

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『逆転のトライアングル』https://gaga.ne.jp/triangle/

この世界の経済体制は大きく2つに分けることができます。

一つは自由を原則とする資本主義で、もう一つは平等を原則とする社会主義です。

実は、世界に格差が生まれた背景には、前者の「資本主義」が関わっています。

詳しい話は割愛しますが、資本主義は自由競争が認められており、頑張れば頑張った分だけ利潤を手にすることができます。

利潤を手にした人は自身の企業を大きくするために投資をし、事業拡大のために労働者を雇ってさらなる利潤を求めます。

これにより、雇用主と労働者という2つの身分が誕生し、貧富の差へとつながっていくのです。

第二部では、その競争における勝者たちが集う豪華客船クルーズが舞台となります。

乗組員たちは「沢山のお給料をもらう」ことを夢見て、無理難題も引き受けることを心に誓いあう場面があり、実際に無理難題に挑みます。

それによって不幸な事件が発生するのですが、ここには明確な上下関係が登場しています。

トライアングル
船長(ウディ・ハレルソン)https://gaga.ne.jp/triangle/

とは言え、この船にいる乗客たちは、世間一般からはズレた感性を持っています。

相手の気持ちなどお構いなしに、自分自身がやりたいことをやりたいときにする。

それゆえ、船内は無法地帯となり最終的には、自分たちの行いによって沈没を招くことになるのです。

この第二部では、船長(ウディ・ハレルソン)と乗客が「社会主義」や「共産主義」という言葉を連呼し大声で話していましたが、全員を平等に扱う形が「事故に巻き込まれる」という形で実現されてしまったのです。

事故に遭う時は、皮肉にも立場や身分は関係なく平等に扱われるのです。

2人の女性、描き出す「エイジズム」

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『逆転のトライアングル』https://gaga.ne.jp/triangle/

第三部は、難破してたどり着いた無人島での出来事です。

食べ物も水もなく、まして連絡手段もない中で、彼らの主導権を握ったのはトイレの清掃員アビゲイル(ドリー・デ・レオン)でした。

人生において、苦労をしてこなかった富豪たちはお金を持っているだけで、無人島で生き残る知恵や術を持っているはずがありません。

一方で、多くは語られませんが、彼女は素手で魚をつかまえることができるなど、難破した現状ではとにかく重要なスキルを持ち合わせていました。

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アビゲイル https://gaga.ne.jp/triangle/

彼女に言われるがまま、乗客たちは過ごすしか方法がなくなったのです。

そうした中で気になるのが、若い女性であるヤヤと、年増な女性のアビゲイルです。

カールは処世術として、ヤヤから離れアビゲイルに接近します。

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カール https://gaga.ne.jp/triangle/

そのことによってカールは周囲から非難されるようになります。

この非難はカールに向けられているようで、実際にはアビゲイルに対する「年を取ったら相応に振舞うべき」というエイジズム(年齢主義)の表れのように思えます。

昔から思うのですが、年相応って、誰の基準なのでしょうか?

■「格差社会」何が新型?【管理人・選】

新型格差社会 (朝日新書) 山田 昌弘 (著)

※格差は現象? いいえ、人災です――。格差是正の実践こそが、人生100年時代の世界共通語となる。コロナで可視化された〈家族〉〈教育〉〈仕事〉〈地域〉〈消費〉の五大格差を徹底省察し、令和日本のあるべき姿を緊急提言。【引用:Amazon】

※著者:山田昌弘

専門は家族社会学。親子・夫婦・恋人などの人間関係を社会学的に読み解く試みを行っている。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。【引用:Amazon】

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莫大なお金をかけた、コントのような映画 

トライアングル
https://www.facebook.com/TriangleofSadness/

これまで語ってきた「”~ism(主義)”」や「格差」は、ごく一部です。

作中にはもっともっと多くの主義や格差が見え隠れしています。

とはいえ、この『逆転のトライアングル』を観終わって「え、コントじゃん!」という感想を率直に抱きました。

実際に、日本のお笑い芸人たちがコントで扱っているシーンが頭をよぎったり、第二部の船内では地獄絵図なのになぜか笑ってしまうような場面が挟まれていたり…

とにかく、真面目なのか不真面目なのか分からないんです。

【YouTube:予告編】

そうした時に、もしかすると映画そのものが私たちへの警鐘なのではないか、と感じてしまいました。

おそらく、莫大な費用をかけずともこの作品は撮影ができたはずです。

しかしながら、莫大な費用をかけて撮影をし、作品を創りあげています。

そして、それに対してお金を払って鑑賞している私たちがいるのです。

私たちは、大量生産・大量消費の社会の中で、映画というものを鑑賞する立場です。

その鑑賞料金は紛れもなく、労働によって手にした対価であり、そのお金によって企業が成長していきます。

つまり、私たちは歯車の一部なのです。

ネタバレになるので多くは語れませんが、アビゲイルに対してヤヤが放った一言は、そのことを観客の私たちに知らしめる台詞のようにも感じました。

コントのようなラストではありましたが、この台詞は背筋が凍るようなものでした。

気になる方は、是非、ご自身でたしかめて頂ければ、と思います。

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プロフィール,ファルコン

記事をご覧いただきありがとうございます。

映画と音楽が人生の主成分のライターのファルコンです。
学生時代に映画アプリFilmarksの“FILMAGA”でライターをしていました。
大人になって、また映画の世界の魅力を皆さんにお伝えできれば、と思いライター復帰しました。
記事の感想などありましたら、お気軽にご連絡くださいませ。

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