実話映画が大好きなライターsanaeが今回おすすめする作品のひとつは『ティル』。
1955年、14歳の陽気で素直な少年が白人女性に口笛を吹いたというだけで、その女性の夫兄弟から壮絶なリンチに遭い殺害された事件を題材にした映画です。
そしてもうひとつは『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』。
2011年に、双極性障害を患う男性が医療用通報装置を誤作動させてしまったことをきっかけに、緊迫したやり取りの末に白人警察に射殺された事件が描かれています。
どちらの事件も無実の黒人が犠牲となり、人種差別によって起きた実在事件です。
「実在事件の作品」というだけではなく、作品を通して差別について考えるきっかけになったら幸いです。
(冒頭画像:引用https://www.facebook.com/KillingofKCFilm/)
『TILL/ティル』
2023年12月15日に公開された映画『ティル』(原題: Till)は、1955年にアメリカ・ミシシッピ州で起きた「エメット・ティル殺害事件」について描かれた実話映画。
監督はシノニエ・チュクウ、製作総指揮に歌手で女優のウーピー・ゴールドバーグが担当しています。
あらすじ:残忍な実在事件を、世界に発信した母親!
舞台は1995年、イリノイ州シカゴで息子のエメットと暮らしていたメイミー・ティルは、過去に戦争で夫を亡くし空軍で唯一の黒人女性職員として勤務していました。
長期の休みに突入したエメットは、生まれて初めてミシシッピ州マネーの親戚の家で過ごすことに。
しかし、従兄弟たちと訪れた店で、その店を仕切る白人女性キャロリンに口笛を吹き怒りを買ってしまいます。
その日の夜、親戚の家に白人集団が押し入り、拉致されたエメットは壮絶なリンチを受け、数日後に川で発見されます。
原形をとどめないほど破損した息子の遺体と対面したメイミーは、残忍性のある事件を世界に知らしめるため、遺体を発信することを決意します。
批判的な声があっても、伝えたかった真実とは
14歳の少年が犠牲となった「エメット・ティル殺害事件」を題材に描いた本作は、黒人差別によって起きた象徴的ともいえる事件で、のちに母メイミーの行動によってアフリカ系アメリカ人の公民権運動を大きく前進させるきっかけとなりました。
黒人差別が根強い時代に起きた残忍な事件を通して見えてくるのは、白人に怯えながら日常生活を送る黒人の姿です。
プロデューサーを務めたウーピー・ゴールドバーグは、映画製作が実現するまでの道のりは決してスムーズではなかったといいます。
しかし、それでも諦めなかった彼女の思いには、今もなおなくならない黒人差別、そして黒人が犠牲となる悲しい事件を繰り返してほしくないという願いが込められているのではないでしょうか。
主演女優:メイミー役、ダニエル・デッドワイラー
息子を殺害された母メイミー役を演じたのは、ダニエル・デッドワイラー。
アメリカ合衆国の女優で、2012年映画『A Cross to Bear』でスクリーンデビュー。
本作では、ゴッサム・インディペンデント・フィルム・アワードの主演賞、英国アカデミー賞、批評家協会賞、全米映画俳優組合賞にノミネートされるなど高い評価を獲得しています。
本作品は、全てダニエルにかかっていたとウーピー。
家族に息吹を与える彼女の姿は終始称賛です。
映画制作へのこだわり、事件をFBIが再調査するきっかけに!
映画制作を実現させたのは、映画プロデューサーのバーバラ・ブロッコリでした。
彼女は『007』シリーズのプロデューサーでもあります。
もう一人のプロデューサー、キース・ボーチャンプは脚本にも参加しています。
本作品では重要な人物といえる彼は、同事件のドキュメンタリー作品も制作し、のちにFBIが事件を再調査するきっかけにもなりました。
亡きメイミーと長い時間を過ごしてきたボーチャンプがいたからこそ真実を語れる作品となりました。
子を持つ親ならば、少年が犠牲となったメイミーの姿に心打たれるはずです。
ラストでは加害者とメイミーそれぞれのその後が分かるので必見です。
『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』
日本では、2023年9月に公開された映画『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』(原題:The Killing of Kenneth Chamberlain)は、2011年11月29日にニューヨーク・ホワイトプレインズで起きた「ケネス・チェンバレン射殺事件」を基に描かれた実話映画。
本作はオースティン映画祭をはじめ、映画賞主演俳優賞などノミネートも含めて13の映画賞を受賞。
監督、脚本は本作が長編2作目となるデヴィッド・ミデルが手がけ製作総指揮には俳優のモーガン・フリーマンも担当しています。
あらすじ:発端は、医療用通報装置の誤作動
2011年11月19日。双極性障害を患う元海兵隊員のケネス・チェンバレンは、午前5時22分に医療用通報装置を誤作動させてしまい午前5時30分に白人警官が安否確認のため到着します。
ケネスは警察に、誤作動であることを伝えても納得してもらえません。
ケネスから連絡を受けた姪が現場を訪れて警察に説明しても聞き入れてもらえませんでした。
やがて不信感をいだいた警察は力ずくでドアをこじ開けようとします・・・。
悲劇までの90分を、映画でリアルに体感
警察が到着してから90分後にケネスは突入してきた警察によって射殺されてしまいます。
本作は上映時間が83分と短めで、観てる側はケネスが射殺されるまでの様子をリアルに体感することになります。
警察に不信感を抱いているケネスの恐怖や、彼の経歴と治安の悪い地域に住んでいるというだけで偏見を加速。
警察の言動が緊迫していく中で、やがて悲劇へのカウントダウンを感じることに・・・。
最後には実際のテープ音声が流れることで、やり取りも含めて事件が実際に起きたものだと改めて実感させられる作品です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
1964年頃までアメリカ・南部の州やフロリダ州などでは黒人のみならず、有色人種も含めた「ジム・クロウ法」(一般の公共施設の利用を禁止または制限した法律)によって人権も剥奪される法律が存在しました。
しかしその後も、黒人の公民権法が制定されても黒人が犠牲となる事件はなくなりません。
2012年2月には、17歳の女子高校生が自警団の男性に射殺された事件、そして2020年には警察官に首を圧迫され殺害された「ジョージ・フロイド事件」といった信じがたい事件が起きてしまいました。
筆者自身「差別」というのは、今もなおなくならない「いじめ問題」も同様だと思っています。
根深い人種差別がもたらした事件を知るとともに今回ご紹介した作品を通して、人種差別も含めた「差別」についても考えてみてみませんか。
《ライター:sanae》
毎週金曜日は映画館に出没する某新聞社エンタメニュースライター。
子供の頃から観た映画は数知れず、気になった作品はジャンル問わず鑑賞。
日常生活を彩る映画との出会いのお手伝いができたら幸いです。
記事へのご感想・関連情報・続報コメントお待ちしています!