独自の世界観で次々と観る者を魅了するA24制作のホラー映画。
そんなA24の新感覚ホラー『関心領域』(原題:「The Zone of Interest」)が2024年5月24日公開になります。
第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞、音響賞の計5部門にノミネートされ、国際長編映画賞と音響賞を受賞しました。
公開された予告編では、アウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす家族の様子が描かれています。
本作はどのような恐怖が描かれているのでしょうか・・・
(冒頭画像:引用https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/)
緑あふれる広い庭、壁の向こうに見える黒煙
タイトルの関心領域(The Zone of Interest)とは、第二次世界大戦中、ナチスの親衛隊がアウシュビッツ強制収容所を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使っていた言葉。
舞台は1945 年、アウシュビッツ収容所と壁を隔てた隣の屋敷で幸せに暮らす所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)一家の様子が描かれています。
緑あふれる広い庭では子供たちの楽しげな声が響き、そこに映し出されているのは家族の穏やかな日常。
一方で、壁の向こうに見える大きな建物からは黒煙があがり、聞こえてくる声や銃声はそこにアウシュビッツ収容所があることを伝えてきます。
そんな状況下でも妻のヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)はオシャレを楽しみ、子供たちは庭のプールで無邪気に遊ぶ様子はまるで異世界のよう。
収容所に無関心なルドルフ一家が悠々と暮らす姿に、人間の真の恐ろしさを感じるかもしれません。
生存者やヘス家で働いていた人、生の証言を元に
本作はイギリスの小説家マーティン・エイミスによる同名小説を原作に、ジョナサン・グレイザー監督が10年もの歳月をかけて映画化。
原作は、アウシュヴィッツ強制収容所で長く所長を務めたルドルフ・ヘスとその妻をモデルに描かれています。
制作にあたってグレイザー監督はアウシュヴィッツ博物館などの協力をもらい、生存者やヘス家で働いていた人物から提供された証言をもとに描写の構築をしていったそうです。
また、アウシュヴィッツ収容所での出来事や収容所の大きな地図なども含めた資料をまとめたそうで、苦痛音を屋敷で適切に判断できるようにしたとか。
そのため残虐行為を映さなくても収容所内で何が起きているのかが伝わってくる仕組みになっており、グレイザー監督はこの音響について「もう一つ映画」と表現しています。
『関心領域』:主なキャストとグレイザー監督
ルドルフ・へス役:クリスティアン・フリーデル
1979年3月9日生まれ、ドイツ出身
2009年以降、ミヒャエル・ハネケ監督の映画『白いリボン』、オリバー・ヒルシュビーゲル監督の『ヒトラー暗殺、13分の誤算』をはじめ多くのテレビや映画に出演。
2015年のドイツ映画『ヒトラー暗殺、13秒の誤算』では、ヒトラー暗殺未遂事件を単独で実行したゲオルク・エルザー役を演じている。
2011年には「ウッズ・オブ・バーナム」名でバンドを結成。
映画、ドラマなどドイツを中心に活躍している。
ヘートヴィヒ・ヘス:ザンドラ・ヒュラー
本作では、ルドルフの妻ヘドウィグを演じているヒュラーは、
1978年4月30日、東ドイツ出身。
1996年、高校時代にベルリン演劇祭で舞台デビュー。
1998年から2001年までシアターハウスに出演。その後、スイスのシアター・バーセルに推薦され2006年まで出演した。
2006年、映画『レクイエム~ミカエラの肖像』に出演し、ベルリン国際映画女優賞とドイツ映画賞を受賞。その後、数多くの舞台と映画に出演。
2018年、トーマス・ステューバー監督の『希望の灯り』に出演し、第68回ベルリン国際映画祭でエキュメニカル審査員賞とギルド映画賞を受賞。
ヒュラーが注目を浴びるきっかけとなったジュスティーヌ・トリエ監督のフランス映画『落下の解剖学』は、2023年にカンヌ国際映画祭のメイン・コンペティション部門でプレミア上映され、パルム・ドールを受賞。
その他、ヨーロッパ映画賞女優賞、アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、セザール賞主演女優賞を受賞している。
関連記事:サスペンス『落下の解剖学』を考察、トリエ監督×ザンドラ・ヒュラーのタッグでパルムドールを受賞!
監督・脚本:ジョナサン・グレイザー
1965年3月26日、イギリス・ロンドン出身
1996年、ジャミロクワイの「ヴァーチャル・インサニティ」のMV監督を務め大きな話題になった。
また、同楽曲が1997年のMTV Video Music Awardsで10部門にノミネートされ、最優秀ブレークスルービデオ賞、最優秀ビデオ賞、最優秀視覚効果賞、最優秀振付賞を受賞。
2000年、『セクシー・ビースト』で映画監督デビュー。
2004年、ニコール・キッドマン主演の『記憶の棘』で第61回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門に出品。
2013年、スカーレット・ヨハンソン主演のSF映画『アンダー・ザ・スキン種の捕食』が第70回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門で上映。
その後、10年の制作を要して本作『関心領域』を手がけた。
第76回カンヌ国際映画祭、グランプリを受賞!
本作は、2023年の第76回カンヌ国際映画祭でプレミア上映されグランプリを受賞した他、
第58回全米映画批評家協会賞で監督賞、主演女優賞
第27回トロント映画批評家協会賞で作品賞、監督賞
第44回ボストン映画批評家協会賞で監督賞、脚色賞、非英語作品賞
第49回ロサンゼルス映画批評家協会賞で作品賞、監督賞、主演賞、音楽賞
第36回シカゴ映画批評家協会賞で外国語映画賞
第81回ゴールデングローブ賞で最優秀作品賞ドラマ部門、最優秀非英語映画賞、最優秀作曲賞にノミネート
第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞、音響賞の計5部門にノミネートされ、国際長編映画賞と音響賞を受賞。
無関心こそ真の恐怖
これまでのホロコーストを題材にした映画といえば、目を背けたくなるほどの残酷な行為を映し出す作品が多かったように思えます。
本作は残酷描写はないものの、壁の向こう側で起きていることを知っているのに無関心なルドルフ一家を通して”無関心なことがいかに残酷なことか”を映し出すホロコーストドラマ。
「観たことを一生忘れないだろう」「今世紀最も重要な映画」「どんなホラー映画よりも恐ろしい」
公開された予告編に並ぶメッセージが意味するものとは・・・
社会問題や世界情勢について、どこか他人事で無関心になりがちな世の中。
ルドルフ一家とあなたの違いは?
そんなことを突き付けられそうな一作です。
『関心領域』は2024年5月24日公開です。
《ライター:sanae》
毎週金曜日は映画館に出没する某新聞社エンタメニュースライター。
子供の頃から観た映画は数知れず、気になった作品はジャンル問わず鑑賞。
日常生活を彩る映画との出会いのお手伝いができたら幸いです。
関心領域、映画館で観てきました。
たくさんの賞レースにノミネートされたということで話題性もありましたが、何より予告が異質で不気味だったのが印象的でした。
当時のヨーロッパにいたユダヤ人の3分の2にあたる約600万人が犠牲となった収容所とは対照的に、アウシュビッツ強制収容所から一歩外に出たところにある所長の家では、日々を平凡に過ごす家庭が描かれています。
収容所のすぐ隣にある家ということがわからなければ、終始「なんだろう…」という映画です。しかし、想像力を膨らませると恐怖しかない映画になるでしょう。
新感覚のホラー映画というより、人間の無情さがわかる映画だと思います。
重くて暗くて、淡々としたある意味退屈な映画ですが、久々に劇場が満員近くになっている様子(公開、2週目にも関わらず…!)にある種の安堵感を覚えました。
きっと口コミで広がる、作品からの強いメッセージに同感する人が多いのだと思います。