今回紹介する作品は、前作『ミッドサマー』で物議を醸したアリ・アスター監督の新作映画『ボーはおそれている』。
精神に不安を抱える一人の男性が、電話で知った母の死により奇妙な道筋を辿っていく超難解ミステリー作品。
アスター監督×A24×名優ホアキン・フェニックスと、そのタッグも強烈な作品でもあります。
映画『ボーはおそれている』:作品情報
精神的な不安に常に悩む一人の男性が、怪死した母のもとへ帰省しようとする中で奇妙な旅に奔走する姿を描いたミステリー。
『ミッドサマー』『ヘレディタリー/継承』で世界的にも物議を醸したアリ・アスター監督が本作を手がけました。
主演には『ジョーカー』『ナポレオン』『グラディエーター』などのホアキン・フェニックス。
さらに他のキャストには『プロデューサーズ』のネイサン・レイン、『ブリッジ・オブ・スパイ』のエイミー・ライアン、『コロンバス』のパーカー・ポージー、『ドライビング・MISS・デイジー』のパティ・ルポーンら名優が名を連ねています。
映画タイトル | ボーはおそれている |
原題 | Beau Is Afraid |
監督 | アリ・アスター |
出演 | ホアキン・フェニックス、ネイサン・レイン、エイミー・ライアン、スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン、ヘイリー・スクワイアーズ、ドゥニ・メノーシェ、カイリー・ロジャーズ、アルメン・ナハペシャン、ゾーイ・リスター=ジョーンズ、パーカー・ポージー、パティ・ルポーンほか |
公開日 | 2024年2月23日(金) |
公式サイト | https://happinet-phantom.com/beau/ 【YouTube:予告編】 |
■2023年 /アメリカ映画/カラー/R15+/179分
映画『ボーはおそれている』:あらすじ
日常のささいなことでも不安になり、カウンセリング受診生活を送る怖がりの男ボーは、街中のとあるアパートに一人暮らし。
ある日、母のもとへ向かうはずが、さまざまなトラブルに見舞われ事前予約していた航空券を失ってしまいます。
そのことを母に知らせるべく電話で連絡を入れますが、電話を切ったその矢先に母が突然、実家で奇妙な死を遂げたことを知ります。
悲しみに暮れながら、母を埋葬すべく実家に向かうためアパートを出ようとします。
しかし、そこからボーに、現実かも嘘かもわからない奇妙な出来事が、次々とボーに降りかかっていきます……。
ジャンルレスの中に見える、自意識に忠実なテーマ
「いま物語はどのような展開を示しているのか」と、話の筋すら混乱しそうなストーリー。
映像はとあるカウンセリング場、アパートから街中、そして予想だにしなかったシーンへと目まぐるしく変化していきます。
ある意味近年の大きな潮流である、いわゆる「マルチバース」的な作品でもある本作。
アバンギャルドなその作風は、まさに近年ホラー、サスペンスでさまざまな話題を集めるアリ・アスター監督×A24というタッグのなせる技といった趣でもあります。
一方前々作『ヘレディタリー/継承』、前作『ミッドサマー』が物語のテーマとして宗教、信仰などをその要素に取り込んでいたことに対し、本作はそのような要素は感じられず、新たなテーマを設定している様子がうかがえます。
アスター監督が2011年に短編映画『Beau』を発表。
この作品は本作の出だし部分の展開において多くの点に共通しているものがあります。
敢えて本作でこの展開を取り上げたことには、どこかアスター監督自身がもつ記憶、アイデアなどの中でも、非常に強い印象をもつテーマに関係した展開がイメージとして監督の胸のうちにあったことが推測されます。
ちなみに『Beau』は、途中で難解な展開をはさみつつも、それが最後には「悪魔の仕業であったようだ」という、いわゆる「ホラー作品」であるという断定が見えてくるようなオチがありました。
しかし本作『ボーはおそれている』は、その結末すらも非常に難解で、ある意味サスペンス、ホラーなどといったジャンル分けすら疑問に思えるほど。
物語の解釈できる幅は非常に広いとも見えてきます。
たとえばこの物語、その展開はある種の「夢」のイメージにも見える人もいるのではないでしょうか。
眠りの中で見る夢は、目を覚ましてそのさまを思い出したときに、その展開のつながりがわからず「はたしてどんな夢だったのか」と心に引っかかるものを残すことがあります。
本作はその「夢」を展開でトレースし、最後に自分として「ああ、この展開はこのことを示していたのだな」と納得させるような道筋を感じさせるようでもあります。
『Beau』ではその導入の部分をヒントとして物語を作り込み、対して本作はある意味「夢」より自意識を導き出した上で、その顛末を自分の思いに忠実に描いていると見えてくるでしょう。
ラストシーンは、どこかラース・フォン・トリアー監督の『ハウス・ジャック・ビルド』を彷彿するようなオチ。
自意識の像を最終的に自分がどのようなイメージで受け取っているかを、敢えて不気味なシーンの像で表現しており、さらにイマジネーションをかき立てられる作品であると改めて認識させられることでしょう。
■こちらもぜひ見てほしい!!デビュー作より物議を醸しているアリ・アスター監督作品
※アリ・アスター監督の長編デビューとなったホラー作品。知らない間に悪魔崇拝の恐怖に巻き込まれる家族の姿を描きます。アスター監督ならではのアバンギャルド性もふんだんに盛り込まれているのが特徴でもあります。
※論文執筆でとある田舎の地域を訪れた大学生たちが遭遇する恐怖の数日を描いたホラー。未公開シーンを加えたディレクターズカット版も発表されています。世界的にも大きな物議を醸し注目された作品でもあります。
アリ・アスター監督イズム、的確に表現した主人公の存在感
アスター監督の作品にある斬新さの特徴としては、「怖い事象」を作中に描くというよりも「怖い事象を怖がる登場人物」の視点を的確にとらえ表現している部分にあるといえます。
その意味で本作が観る側の気持ちを大きく揺さぶる要素としては、主演を務めたホアキン・フェニックスの表情がこれに大きく貢献しています。
もともと心に不安を抱えていたボーは、ある日自分の身に起こった奇妙な出来事それぞれに対し、どこかあっけにとられながらもさらに不安を募らせた表情を見せていきます。
これは夢?それとも現実なのか?
そして自分はいまどこにいてこれからどうなるのか?
予想もつかない物語の行末に募らせていく不安は、見る側にそのまま積もっていくようでもあり、表現としても非常に新鮮な感覚すら覚えることでしょう。
その意味で物語の主題的な部分において、フェニックスが見せたその存在感は「彼がいなければ作品は成立しなかった」と深く思わせるものでもあります。
関連記事:アリ・アスター×A24『ボーはおそれている』あらすじ&アリ・アスター監督情報と過去作品の復習
●ホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)
誕生日: 1974年10月28日生まれ
星座:さそり座
身長:173cm
出生:プエルトリコ、サンフアン
※DCコミックス『バットマン』シリーズの有名悪役であるジョーカーをベースに描いたクライムサスペンス。フェニックスは本作で主演を演じ、2019年度の第92回アカデミー賞で主演男優賞を受賞しました。
※リドリー・スコット監督が作品を手がけた歴史映画。主演を務めたラッセル・クロウのライバル役として、フェニックスが出演を果たしました。
《ライター:黒野でみを》 クリックで担当記事一覧へ→
40歳で会社員からライターに転身、50歳で東京より実家の広島に戻ってきた、マルチジャンルに挑戦し続ける「戦う」執筆家。映画作品に対して「数字」「ランク付け」といった形式評価より、さまざまな角度からそれぞれの「よさ」「面白さ」を見つめ、追究したいと思います。
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