17世紀のフランスを舞台に、エドモン ロスタン作 、悲恋の三角関係を美しく描いたフランスの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」。
『つぐない』(07)『ウィンストン・チャーチル』(17)などを手掛けたジョー・ライト監督により、ロマンス・ミュージカル映画として華やかにスクリーンに映し出される。
世界中の人々に1世紀を超えても愛され続けたフランス文学である原作を紐解きながら、本作の魅力を伝えることが出来たらと思います。
映画『シラノ』の作品情報とあらすじ
『シラノ』の作品情報
映画タイトル | 『シラノ』 |
原題 | Cyrano |
監督 | ジョー・ライト |
出演 | ピーター・ディンクレイジ、ヘイリー・ベネット、ケルビン・ハリソン・ジュニア 他 |
製作年 | 2021年 |
上映時間 | 124分 【YouTube:予告編】 |
簡単なあらすじ
時は、17世紀フランス。
容姿にコンプレックスを抱えたシラノ(ピーター・ディンクレイジ)は、幼い頃から兄弟のように育ってきた美しい女性 ロクサーヌ(ヘイリー・ベネット)に密かに恋焦がれていました。
しかし、ある日、ロクサーヌは言葉も交わしたことのないシラノの部下である美男 クリスチャン(ケルビン・ハリソン・ジュニア)に一目惚れし、彼と文通を始めたいとシラノに相談します。
シラノは愛する彼女の願いを聞き入れようとするのですが、クリスチャンには文を書く才能がありませんでした。
ロクサーヌを落胆させないために文才豊かなシラノは、自身が綴った恋文をクリスチャンに託し物語は展開していきます…
原作:フランスの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」
映画『シラノ』では、俳優ピーター・ディンクレイジが小人症の個性を生かして、主人公シラノを演じています。
実は、原作はフランスの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」なのですが、そこでのシラノは”鼻が大きい”ことに劣等感を抱えている人物として描かれています。
しかし、映画は原作の豪快で心優しい人物像は保ちつつも、敢えて”鼻が大きい”という重要な要素を取り除いています。
映画で描かれているシラノは、人から愛されない身体的理由を自ら口にせず主体性を持たせるように脚色したのです。
フランス文学に多い、コンプレックスある人物の恋愛物語
今も尚、愛され続けているフランス文学作品には容姿にコンプレックスがある人物の恋物語が多いように思います。
例えば、シャルル・ペローの「美女と野獣」、ヴィクトル・ユーゴ―の「ノートルダム・ド・パリ」(ディズニー映画「ノートルダムの鐘」で知られている作品です。)、ガストン・ルル―の「オペラ座の怪人」など…
誰もが一度は耳にしたことがある名作が思い浮かびます。
(ちなみに、例に挙げた作品は全てフランス文学が発祥です…!)
そして「シラノ」は、フランス語で書かれた戯曲の中でも舞台や映画化されて上映頻度も高く、常に人気を得ている作品とも言われています。
つまりは、例に挙げた作品と名を連ねる不朽の名作なのです。
参考記事:『007』のレア・セドゥを堪能!本国フランス版『美女と野獣』&未公開新作もいかが?
語り継がれる名作、心に訴えかける理由とは…
容姿に劣等感を抱えた人たちのラブストーリーは、なぜ1世紀を通しても愛され続けるのでしょうか?
一つの理由として、誰しもが主人公と共感する部分があるからではないかと考えます。
好きだという想いを伝えるのを躊躇したり、淡い期待を抱いたり、傷ついたり…人間は完璧ではないからこそ、主人公と一緒に感情が揺さぶられるのです。
昔も今も変わらず、名作として語り継がれている文学には、私たちの心に訴えかけてくるものがあります。
是非皆さんも一緒に長年語り継がれている『シラノ』の魅力について考えてみてはいかがでしょうか。
ジョー・ライト監督と、選ばれたキャストについて
ジョー・ライト監督:古典文学の品位を保ち、美しい衣装や演出で魅了
今回、『シラノ』を担当したのはジョーライト監督です。
筆者は、ロシアの文豪トルストイの最高傑作を映画化した同監督の『アンナ・カレーニナ』(12)を映画館で鑑賞したのですが、19世紀末のロシアの煌びやかな貴族の世界観に陶酔。
帰り道に深い余韻に満たされた感覚は、今でも忘れられません。
ジョー・ライト監督のセンスは素晴らしく、アンナ・カレーニナの回想をまるで舞台のように演出するのも最高に洒落ています。
中でも、最も印象に残っているのは第85回のアカデミー賞で衣装賞も受賞したキーラ・ナイトレイが身に纏うドレスの数々。
ちなみに、担当したデザイナーのジャクリーン・デュランは、ディズニーアニメーションを映画化した『美女と野獣』(17)や『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』(20)も手掛けています。
『シラノ』は、第94回アカデミー賞「衣装デザイン賞」
さて、今作『シラノ』でも、ジャクリーン・デュランは、ロクサーヌの衣装デザインを担当。
第94回アカデミー賞「衣装デザイン賞」にノミネートされています。
(英国アカデミー賞でも作品賞や衣装デザイン賞など計4部門にノミネートされています。)
ジョー・ライト監督のおすすめ代表的作品
監督作品を紹介しましょう。
筆者も愛してやまないイギリス文学「高慢と偏見」を映画化した『プライドと偏見』(05)でも高評価されています。
原作通りに知性に溢れた言葉の掛け合いを台詞として取り入れつつ、さらに映像として緑豊かな情景にクラシックな衣装で人々を楽しませるのです。
(ちなみに、「高慢と偏見」は映画『ブリジット・ジョーンズの日記』01)の基になった小説でもあります。)
ヨーロッパの古典的な映画は大好きでよく観るのですが、ただ淡々と物語に沿って映画化している作品も多い中、ジョー・ライト監督の演出は原作よりも遥かに華やかにスクリーンに蘇らせるのです。
●ジョー・ライト監督(Joe Wright)
誕生日:1972年8月25日生まれ
星座:おとめ座
出身:イギリス・イングランド
▶おすすめの代表作品
『シラノ』ジョー・ライト監督、選んだ注目キャスト
主人公シラノを演じたピーター・ディンクレイジは、小さな体格を生かして数多くの作品に出演している名脇役として知られています。
●ピーター・ディンクレイジ(Peter Dinklage)
誕生日:1969年6月11日生まれ
星座:ふたご座
身長:132cm
出身:アメリカ・ニュージャージー州
▶おすすめの代表作品
そして、シラノが恋い焦がれるロクサーヌは、『Swallow/スワロウ』(19)で異食症の女性を演じ、話題を生んだヘイリー・ベネット。
彼女は、まるで中世のヨーロッパの絵画から抜け出したような陶器のような肌にバラ色の頬をしていて、女性の私でも目が奪われました。
作品を観終わった後には、強い芯を持つ女性でありながらも少女のように無邪気に笑うロクサーヌの虜になってしまいます。
●ヘイリー・ベネット(Haley Bennett)
誕生日:1988年1月7日生まれ
星座:やぎ座
身長:173cm
出身:アメリカ・フロリダ州
▶おすすめの代表作品
さらに、美男のクリスチャンを演じるのはケルビン・ハリソン・ジュニア。
新進気鋭の映画制作会社A24が現代的なサウンド、カラー、ストーリーで人々を魅了した『WAVES/ウェイブス』(19)の主人公の一人を演じました。
旬な俳優たちばかりで、これからの出演作にも期待が高まります。
●ケルビン・ハリソン・ジュニア(Kelvin Harrison Jr.)
誕生日:1994年7月23日生まれ
星座:しし座
身長:180cm
出身:アメリカ・ルイジアナ州
▶ケルビン・ハリソン・ジュニアの代表作品
本作の魅力について
”フランス文学×ミュージカル”ということで私の好きな要素で詰めこんだような作品。
17世紀フランスを舞台に、品の良いドレスや兵隊の制服、そして美しい台詞…ジョー・ライト監督の世界にどんどん惹き込まれます。
それだけでも充分なのに、さらに”音楽”が奏でられ、贅沢な作品に仕上がっています。
また舞台の「シラノ」を観劇して心に火がつき映画化を決意したというジョー・ライト監督は、舞台版を手掛けたエリカ・シュミットに脚本と製作総指揮を一任させました。
彼女が加わったことにより、まるで舞台を観ているような高揚感も得られます。
舞台で上映されている音楽だけでなく、本作の為に書き下ろされたオリジナル曲も追加されているのも特別感がありますよね。
繰り返し聴きたくなるような素敵な曲で詰まっているので、劇場では聴き逃さないようにして下さい。
音楽について調べてみると映画『ONCE ダブリンの街角で』(06)で主演を務めたグレン・ハンサードや、他にも映画の世界では傑出したアーティストとして知られている人物がコーラスとして参加しているとのことです。
(やはり贅沢すぎる作品です…!)
聴き惚れる音楽に重なるしなやかなバレエや躍動感ある演出も洗練されています。
そして何と言っても本作の魅力は、主人公シラノの文才の豊かさです。
「愛している」という言葉を多様な表現で魅せてくれます。
自分の言葉として受け止めてもらえないのに、シラノは惜しむことなく真摯にロクサーヌに思いの内を綴る姿は切なくも美しいです。
まとめ
映画が開幕すると色使い豊かなお部屋にロクサーヌが登場し、予告編でも流れる曲「someone to say」のロクサーヌの歌声に聴き惚れます。
一気に高校生の頃に『アンナ・カレーニナ』を鑑賞した時の感動が全身にブワッと蘇りました。
大学生の頃にフランス文学を学んでいたこともあって熱が入り、原作などを図書館に行って調べてきました。
本文の例にあげた「美女と野獣」や「オペラ座の怪人」等と比較すると知名度は低いかもしれません。
しかし、本に”最も人気の高いフランスの傑作戯曲”と書かれているくらい、フランスを始めとした世界でも愛されている作品だと知りました。
シラノ、ロクサーヌ、クリスチャン…一人ひとりの感情が繊細に描かれていて、現代にも通ずる恋心や葛藤に心が掻き乱されるような気持ちになります。
一体、3人の恋の行方はどうなるのでしょうか。
是非美しい映像と音楽、台詞を堪能しながら鑑賞してみてください。
《ライター:anzu》 担当記事一覧へクリック→
大学生時代にフランス文学を専攻していたこともあり、ヨーロッパ映画に惹かれる傾向にあります。
映像や台詞、音楽のときめき、ホラーやサスペンスのような怖さの驚き等、ドキドキする作品がたまらなく好きです。
今まで観てきた映画の作品数は1400本を越え、今も絶賛更新中です。
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