「監視社会」は、すでに「チェックメイト!(詰み)」
『監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影』。
これは、ネットフリックスがオリジナル配信する、ちょっとショッキングな動画のタイトルです。
「監視資本主義」って聞きなれない言葉ですが、ハーバード・ビジネススクールの名誉教授ショシャナ・ズボフ氏(記事:最後参照)によって提唱されました。
ここ数年、急速に進むIT革命の影で「監視社会」の到来を指摘する言葉として注目されています。
未来社会の予知を得意とするSF映画の世界でも、「監視社会」はディストピア(ユートピアの反対語)のひとつとして警鐘を鳴らしています。
今記事では、「チェックメイト!」と言われる「監視社会」を取り上げてみました。
《監視社会に警鐘ならす映画:目次》
1.The Social Dilemma
『監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影』
まず初めに紹介するのは、ネットフリックス・オリジナルのドキュメンタリー映画『監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影』(原題:『The Social Dilemma』)です。
今記事では、「ディストピア映画」と紹介しましたが、見方によってはSF映画以上のディストピアな世界かもしれません。
まずは、予告編をご覧ください。
(英語ですが、右下の「設定」から入り、「字幕」「自動翻訳」「日本語」を選ぶことができます。)
このドキュメンタリー映画の特徴は、語り部がかつて著名SNSで働いていた人たちだということです。
ほぼ冒頭に登場するエンジニアは、「私は『いいね!』ボタンの共同開発者でした。」と自己紹介しています。
そして、Instagram、Twitter、Pinterstという誰もが知るSNSの元責任者と思しき人物が「監視と追跡と記録」について語っているのです。
中盤辺りに登場する女性、これが記事の最初に紹介したショシャナ・ズボフ氏です。
注目すべきは、SNSを楽しむ世界中のユーザーに対して「(監視に関して)彼らは完全に無知です。」と言い放っているのです。
【今記事の最後にショシャナ・ズボフ氏の単独解説(YouTube:オランダ公共放送VPRO 提供)を貼り付けています。約50分と長いのですが、時間のある方はぜひご覧ください。「監視資本主義」の意味がおぼろげながらわかるはずです。)
2.The Circle
『ザ・サークル』、共有化「シェア」で楽しむ未来?
次に紹介する映画は、『ザ・サークル』です。
今作は、「ザ・サークル」社という架空のSNSの野望を描いたフィクションです。
主演はトム・ハンクスとエマ・ワトソンで、「ハリウッドのトップ俳優二人が主演したわりに…」という厳しい評価もあるのですが、筆者的にはわかりやすい映画でした。
ひとことで言えば、SNSで世界中のデータを一元管理しようとする大企業「ザ・サークル」が、ここに勤める女性社員を使って会社の事業方針を実現しようという話です。
会社の事業方針とは、SNSを通じ情報の共有化「シェア」することがより良い未来に繫がるというもの。
選ばれた女性社員メイ(エマ・ワトソン)は、全プライバシーが徐々に世界中に可視化されていくことに。
思わず現実のSNS企業を想像してしまいますよね。
●エマ・ワトソン(Emma Watson)
誕生日:1990年4月15日
身長:165㎝
出身:フランス・パリ
▶おすすめの代表作品
※どちらも、『ハリーポッター』シリーズ後のエマ・ワトソンが新鮮です!
「起きたことを、我々は知るべきだ!」
「ザ・サークル」の経営者ベイリー(トム・ハンクス)曰く、「起きたことを我々は知るべきだ」「知ることはいいこと」だと。
メイは社の方針を受け、新しいプロジェクトの担い手となります。
それは、超小型のワイヤレスカメラ「シー・チェンジ」によって美しい景色や刺激的な体験を発信しフォロワーを増やすことでした。
いわば、インフルエンサーを育てようとしたのです。
メイの瑞々しい感性が捉えた映像や情報は、瞬く間に世界中に支持され「いいね!」が集まります。
フォロワー数の急増に気をよくしたメイが発信する内容は、次第にプライベート的なものまで「シェア」。
中には、友人からもらった情報まで「世界中とシェア」するまでになります。
「いいね!」で集める、世界の莫大なデータ
「プライベート」が次第に可視化され、少しづつ裸になっていくメイに忠告する友人も現れます。
実際、メイの発信する情報が思わぬ事件を引き起こすことに。
ひとつは、小型カメラがメイの意に反して送信してしまったとんでもない「プライベート」。
そして、それにによって傷付く友人や家族たち…。
「いいね!」と「フォロワー数」に背中を押された、強迫的な過剰共有の結果だと言っているのです。
もちろん、会社はメイの「いいね!」と増える「フォロワー数」によって世界中から集まるデータに大満足なのは言うまでもありません。
●トム・ハンクス(Tom Hanks)
誕生日:1956年7月9日
身長:183㎝
出身:アメリカ・カリフォルニア州
▶おすすめの代表作品
※メリル・ストリープとの絶妙な共演!さすがトップ俳優同士です。
3.Anon
『アノン』、監視社会で生きながらえる「匿名」人間
『ザ・サークル』が「監視社会」への入口を描いた映画なら、『アノン』は完璧な「監視社会」となった世界を描いた作品ではないでしょうか。
その中で生きるひとりの女性「アノン」(アマンダ・サイフリッド)に焦点が当たります。
「アノン」の意味は、SNS上で見かける「Unknown」=「匿名」のこと。
今作では、人類はプライバシー情報や記憶情報などすべてのデータが一括管理され、しかも相互に共有されています。
たとえば街中を歩くとき、出くわす人の名前や職業が瞬時にわかり、いわば「秘密がない」世界でした。
実はこの世界って、SF世界と思いきやモデルは現代のSNSなのでは、と思ってしまいませんか?
●アマンダ・サイフリッド(Amanda Seyfried)
誕生日:1985年12月3日
身長:159㎝
出身:アメリカ・ペンシルベニア州
▶おすすめの代表作品
※ABBAの楽曲に乗せたミュージカル映画。溌剌とした彼女が見られます!
存在しないはずの「アノン」への嫌疑
この監視の行き届いた世界で働く刑事サル(クライブ・オーウェン)は、事件が起こっても捜査に手こずることはありません。
なぜなら、事件に関わった人間の記憶データに入り込み動かない証拠「事実」を呼び出せるからです。
しかし、サルはある時、すれ違った女性(アマンダ・サイフリッド)が「アノン」(Unknown)とだったことに驚きます。
「匿名」は存在しないのが常識だったからです。
そして起こった殺人事件。
関連人物の記憶データが一切なく、当然「アノン」の捜索に焦点が絞られます。
SNS世界と同じ、嫌われる「匿名」?
サルは「闇サイト」で人物偽装して侵入し、なんとかアノンを見つけ出すことに成功します。
そして、「殺人」の実行を裏付けるデータをアノンから見つけようとするのですが彼女の実行を裏付けるものは何もありません。
彼女自身が、故意に消去あるいは改ざんしたのだろうか…。
SNS世界でも嫌われる「匿名」。
「アノン」の摘発に執拗に迫るサルですが、エンディングでやっとアノンの本質を知ることができます。
もしかしたら、監視社会の枠から逃れようとする最後の人間かもしれません…。
4.Snowden
『スノーデン』、国家規模の監視を告発した実話映画
さて、「監視社会」は所詮フィクション映画の世界?
いいえ、現実世界では想像以上のことが起こっていました。
次に紹介する映画『スノーデン』はほぼドキュメンタリーで、信じられない「監視社会」を見せつけられます。
2016年に、ジョセフ・ゴードン=レヴィットの主演で公開されました。
「スノーデン」という名前を一度は聞かれたことがあると思います。
フルネームは、「エドワード・スノーデン」。
アメリカの元NSA(国家安全保障局)職員で、現在はロシアに亡命中の実在人物です。
はたして、今、『スノーデン』の警鐘効果は?
映画『スノーデン』は、彼がNSA職員時代に知った国際的監視網(PRISM)の実態を内部告発(2013年6月)がテーマ。
国家の監視システムを暴露するというショッキングなニュースに世界中が驚きました。
テロをはじめとする、国の安全保障上の監視システムは想像できても、それが普段の市民生活をも覗けるシステムだったことを訴えたのです。
内部告発から約10年。
国家機密漏洩の罪を着せられロシアに亡命までして行った「警鐘」は、はたして効果はあったのでしょうか。
むしろ、「監視」がよりテクニカルかつ巧妙になってはいないのでしょうか。
●ジョセフ・ゴードン=レヴィット(Joseph Gordon-Levitt)
誕生日:1981年2月17日
身長:177㎝
出身:アメリカ・カリフォルニア
▶おすすめの代表作品
※映画の中盤以降で本人が登場します。そっくりなのに驚きます。
5.まとめ
「チェックメイト!」、そして「ムーンショット計画」
冒頭に紹介したドキュメンタリー映画『監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影』では「人類にチェックメイト」という表現が出てきます。
これは、「監視社会」の進行を疑問視する人に「チェックメイト!」、つまりもう「詰んだ!」んだと。
デジタル社会の「影」どころか「手詰まり」だと明言しているのです。
では、「デジタル社会」の「光」はどうなのでしょう?
日本・内閣府発表の、「ムーンショット計画」とは
最後に日本が2020年に発表した「ムーンショット計画」を紹介しておきましょう。
果たして「光」となるのでしょうか。
ムーンショット計画とは、「我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する新たな制度です。」(内閣府)とのこと。
よく見れば、「人工冬眠」「サイボーグ化技術」「全人がアバターを使用」「予防ウェルネス」などの言葉が並びます。
単純な言葉の羅列はよくありませんが、なんと映画の世界が2050年までに達成されようとしているのです。
最先端高度テクノロジーが支配する世界と、常に対極にあるのが「監視社会」であることを覚えておきたいものです。
詳細は、以下をご覧ください。
【YouTube:ショシャナ・ズボフが解説する監視資本主義】
※設定マークから、日本語への同時翻訳ができます。
《監視社会に警鐘ならす映画:まとめ》
記事へのご感想・関連情報・続報コメントお待ちしています!