皆さんは、多くの映画好きを唸らせた『ワンダー 君は太陽』(以下、『ワンダー』)を観たことはありますか?
この作品は、2012年にR.J.パラシオが発表した小説「ワンダー Wonder」を原作として創られた傑作です。
原作自体も全世界で1500万部を突破しているベストセラー作品として、今なお愛され続けています。
そして、2017年に公開された映画『ワンダー』も世界各国で話題となりました。
今回紹介するのは、世界中で愛されている作品のスピンオフ作『ホワイトバード はじまりのワンダー』(以下、『ホワイトバード』)です。
まだ、前作を観たことがない人にもその魅力が伝わるように、様々な情報をお伝えしていこうと思います。
前作『ワンダー』で登場する主人公オギーは、遺伝子の疾患で人とは異なる顔で生まれてきたため学校ではいじめられる存在でした。
いじめた少年の一人がジュリアンです。
《原作者および原作の紹介》(管理人編)
●原著者:R.J.パラシオ
●著者:エリカ・S・パール
※いじめをして学校をやめることになり、新しい学校に通いだしたジュリアンは、学校の宿題でおばあちゃんの子どものころの話を作文に書こうと思い立つ。おばあちゃんが語ってくれた少女時代の戦争の記憶は、ジュリアンの想像をはるかに超えたものだった――それは、身を斬られるように辛く、そしてなお、人の温もりを感じる物語だったのだ。世界的ベストセラーになったR・J・パラシオ『ワンダー』のスピンオフ作品。【引用:Amazon】
あらすじ:語られなかった、少年ジュリアンの物語
今回紹介する『ホワイトバード』では、少年ジュリアン(ブライス・ガイザー)と彼の祖母サラ(ヘレン・ミレン)にスポットが当たります。
もともとジュリアンの信条は「他人には深入りしないこと」でした。
その信条のせいか、新しい学校で孤独を抱えながら自分の居場所を探していました。
そんなある日、自宅に帰ると祖母のサラがいました。
学校のことについて話している中で、サラはジュリアンに向けて自分の過去の話を語りだします。
サラが回想するのは少女時代のフランス、サラ(アリエラ・グレイザー)と同級生ジュリアン(オーランド・シュワート)。
これは、『ワンダー』で唯一語られることのなかったジュリアンのその後の物語です…。
前作『ワンダー』の紹介、傑作と言われる理由は2つ
映画『ワンダー』は、生まれつき人とは違う顔をもつ少年オギー(ジェイコブ・トレンブレイ)をめぐる心温まる物語です。
その容姿が原因で自宅で勉強を続けてきたオギーは、家族の計らいで小学校へと通うことになるのですが子どもは純粋でありながらも時に残酷…。
オギーはいじめられるようになってしまうのですが、そうした環境の中で成長をするオギーに強く心打たれるのです。
原作小説も含め、映画『ワンダー』が傑作と言われる理由は2つあります。
『ワンダー』は、すべての子どもの視点で描く物語
これは原作小説も同じなのですが、いじめを扱う作品の多くは、被害者や加害者の視点にフォーカスします。
しかしながら、この作品は関わるすべての人の視点で語られていく…つまり、いじめられているオギーの視点だけですべてを語らないところがポイントなのです。
どういうことかというと、物語の冒頭はオギーの視点で描かれており、彼が学校で直面する困難の数々を私たちは目にすることになります。
しかしながら、しばらくするとオギーの最初の友達ジャックの視点へと移り変わり、ジャックの目線でオギーの物語が語られていくことになります。
そして、次はオギーの姉オリヴィアの視点へ…。
こんな形で、様々な登場人物たちの心情が丁寧に描かれていることでそれぞれの立場に感情移入でき、結果、多くのことを考えさせられるのです。
『ワンダー』は、どこにでもいる子どもたちのもの
感情移入した先に、私たちは気が付きます。
「この物語は、どこにでもいる子どもたちのものだ」ということを…。
学校で起こる友達同士のいざこざや、家族に関する悩み、様々な状況は誰しもが一度は直面したことのあるものばかりです。
だからこそ、私たちは『ワンダー』を観ている中で誰かの視点に必ず感情移入してしまうのです。
それぞれの立場でいろいろな悩みや問題に直面したとき、何を考え、どう立ち向かっていったのか…
もしくはこれから出逢う悩みや問題に対し、何を考えどう行動していくべきなのかを考えさせられる作りになっているのです。
そうなった時に、一つだけ映画を観ていて気になる点がありました。
それは、オギーのいじめの主犯格だった少年ジュリアンです。
『ワンダー』の中でも描かれていますが、ジュリアンはいじめが発覚したあと目の前の問題と向き合うことなく、親の意向でそのまま転校させられてしまうのです。
つまり、傑作映画『ワンダー』に一つ足りなかった視点が、加害者ジュリアンの成長の物語だったのです。
ここまで話したら何が言いたいかわかっていただけるはず、そう、映画『ホワイトバード』は、いじめっ子「ジュリアンの成長の物語」を描く作品なのです。
今作『ホワイトバード』、語られるジュリアンの物語
『ワンダー』の中で、ジュリアンによるオギーへのいじめが発覚したあと、彼の両親は学校へ呼び出されます。
そして、校長先生から「オギーは見た目を変えられない。だから、見る目を変えなければ。」と言われるのです。
この言葉を受けて、ジュリアンは自身の過ちに気づいたような表情をします。
しかしながら、母親は「新学期から転校します」という言葉を吐き捨てるように伝え校長室をあとにします。
最後にジュリアンは、校長先生の方を振り返り「ごめんなさい」と伝えその場を去っていくのです。
映画『ホワイトバード』の冒頭は、新しい学校でのジュリアンの様子からはじまるのです。
孤独を抱えた少年の視点、オギ―の気持ちが…
『ホワイトバード』の冒頭で描かれるのは、新しい学校で暗い表情で過ごすジュリアンの姿です。
友達はおらず、誰ともつるまない、『ワンダー』からは想像できない彼の姿が映し出されるのです。
一人で昼食を食べている彼の元へ一人の女の子が話しかけにやってきます。
しかし、別の男の子に「そこに座るのは負け犬だ」と言われ、不穏な空気になってしまいます。
ジュリアンは思ったはずです、「オギーもこうした気持ちだったのかな」と。
浮かない気持ちで自宅に帰ると、祖母のサラが来ており一緒に食事をすることになります。
学校の様子を語りながら、「あの経験で学んだことは、人に深入りしないこと。意地悪も優しくもしない。ただ普通に接する」と語るジュリアン。
しびれを切らしたサラは自身の壮絶な過去を話し出すのです。
「誰にとってもモノを見るには光が必要」…、繋がるセリフ
この表現は、映画『ワンダー』において理科の授業内で出てくる言葉です。
『ホワイトバード』はスピンオフ作品のため、前作とはほとんど繋がりがないという人も多いのですが、この台詞のように本作の本質に繋がるような言葉や場面は実は数多く登場しています。
祖母サラが語るのは、かつて自身が生きた第二次世界大戦下のユダヤ人迫害の実体験です。
迫害から逃れ学校の同級生の家で匿まってもらっているうちに、彼女はイマジネーションの力の偉大さを知ります。
それは、辛い現実を生き抜くうえでの希望であり暗闇を照らす光でもあったのです。
「想像すること」と言われれば、映画『ワンダー』のオギーが日々生き抜くうえで大切にしていたことです。
オギーとは対極にいるように思えるジュリアンではありますが、祖母サラにその想像力があるのならばジュリアンにもあるはず。
考え方、捉え方を変えれば、どんな立場の人の気持ちにも寄り添えるということを優しく教えてくれているように思えます。
そして、私たちも『ホワイトバード』を観て、ハッと気づかされるのです。
私たち誰もが、時代やタイミングが少し違っただけでどの立場にもなりえたことを示しているのです。
事実、世界中で様々な争いが起こっており、日常生活の中における対立は日常茶飯事です。
そうした中で、本当に大切にすべきことを改めて教えてくれる温かい作品なのです。
まとめ:感涙必至のスピンオフ作を見逃すな!
ネタバレになる内容にはふれずにここまで作品を紹介してきました。
文字で語るよりも、実際に観てこの作品に込められた温かなメッセージを感じとってもらう方がいいと思ったからです。
伝わっていれば幸いですが、『ワンダー』を観ているとなおそのメッセージの深さに心打たれます。
祖母サラの物語を聞いているうちに、私たちはジュリアンという名前に込められた意味を知ることになります。
さらには、タイトルである「ホワイトバード」の意味を知ることになります。
その意味を知らされた中で迎える終盤は、涙なしに観ることは非常に難しいと筆者は感じます。
近年、ユダヤ人迫害を扱う作品が増えている中で、その時代を描きつつも「人間も悪くないかもしれない」と思える、壮大な人間讃歌に背中を押されるように思えます。
しかしながら、この気持ちに至るためには『ワンダー』を観たうえで、作品に込められたエッセンスをあらかじめ知っておくことが重要です。
『ホワイトバード はじまりのワンダー』だけでなく、是非『ワンダー 君は太陽』もあわせてご覧頂ければと思います。
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映画と音楽が人生の主成分のライターのファルコンです。
学生時代に映画アプリFilmarksの“FILMAGA”でライターをしていました。
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